医療DX とは 「医療DX令和ビジョン2030」をもとにこれからの流れを解説
2025年の電子カルテ導入に向け、大きなトピックと言えば、2024年末の紙保険証の廃止があります。
政府が打ち出している「医療DX令和ビジョン2030」では、2030年までに電子カルテ普及率を100%にすることが目的です。
この記事では、医療DXを改めておさらいし、電子カルテ普及に向けた動きについて、おさらいしたいと思います。
医療DXとは
引用:医療DXについて
「医療DX」の「DX」とは、「デジタルトランスフォーメーション」の略で、デジタル技術を用いて業務やサービスを革新することを指します。
医療分野においては、電子カルテ、遠隔診療、電子処方箋、マイナ保険証などがそれに当たります。これらの技術が導入され、業務が効率化されることで、医療の質が上がることが期待されます。
「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームについて
「医療DX」は厚生労働省が進めています。その中心となっている「医療DX令和ビジョン2030」と、厚生労働省の推進チームについて解説します。
「医療DX令和ビジョン2030」とは
「医療DX令和ビジョン2030」とは、2022年に自由民主党政務調査会より発表された、医療のDX化・医療情報の有効利用を推進するための提言のことです。
日本の医療分野はデジタル化が遅れていると言われています。
しかし、少子高齢化や感染症のリスクを抱えるなかで、質の高い医療サービスを提供するためには、医療現場の業務を効率化し、医療従事者の負担を軽減することが急務となっています。そのためには思い切った医療分野のデジタル化の推進が必要です。
また、医療DXは医療機関の中だけで行われるものではなく、患者も対象としています。患者自身が自らの医療情報にアクセスできるようになることで、自分の健康状況を把握することが可能となります。それにより、健康増進や治療への効果も期待できます。
そのような流れの中で生まれたのが「医療DX令和ビジョン2030」です。
その中心となる方針は、以下の3つです。
医療DX令和ビジョン2030の3つの方針
- 「全国医療情報プラットフォーム」の創設
- 電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
- 「診療報酬改定DX」
それぞれについて詳しくみてみましょう。
1「全国医療情報プラットフォーム」の創設
引用:厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム「医療DXについて」/
「全国医療情報プラットフォーム」(将来像)
「全国医療情報プラットフォーム」とは、現在医療機関や介護施設などでバラバラに管理されている患者の医療情報を、ひとつに集約して利用できるようにするシステムのことです。レセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療や介護の情報を、医療機関、自治体、介護事業者などの間で共有・交換できるようになります。患者自身も必要な情報にアクセスすることができます。
今後の医療の大きな柱となるシステムの創設が目指されています。
2 電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
電子カルテ情報の標準化とは、医療機関などの間でのスムーズなデータ共有を推進するため、電子カルテ情報の規格を揃えることです。これにより、他の病院での診察情報や健康診断の結果、アレルギーの有無や薬剤禁忌情報などが参照できるようになります。
現在は、電子カルテは大規模な病院を中心に普及していますが、小規模の病院向けの電子カルテの開発も併せて行われています。
3 診療報酬改定DX
引用:厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム「医療DXについて」/
診療報酬改定への対応状況(現状)
現在は、診療報酬改定の際に、ソフトウエアの改修などを短期間で集中的に行う必要があるため、医療機関やベンダなどに大きな業務負担が生じています。これを改善するために、作業負荷が平準化できるよう対策していくとしています。
厚生労働省推進チームの役割
引用:厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(案)
「医療DX令和ビジョン2030」の実施にあたって、厚生労働省は厚生労働大臣をチーム長とする、専任の推進チームを設置しました。
「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームは、ビジョンに基づいた政策の策定、技術的な支援、インフラ整備、関係機関との調整を担当しています。現場での混乱を最小限に抑えつつスムーズな移行を目指しています。
薬剤師が関連する医療DX
ここでは、薬剤師が知っておきたい主な医療DXの取り組みについて解説します。
オンライン資格確認
オンライン資格確認システムは、患者の健康保険資格をリアルタイムで確認できるシステムです。これにより、患者の健康保険の状況を即座に確認することが可能となります。資格確認の過程で発生するトラブルを未然に防ぐことができます。
電子カルテ情報共有サービス
電子カルテ情報共有サービスは、患者の診療情報を異なる医療機関の間で共有することができるシステムです。患者の過去の診療履歴や、薬の処方内容、アレルギー情報などを即座に確認できます。重複投薬やアレルギー反応のリスクを減らし、より安全でスムーズな薬剤提供につながるでしょう。
電子処方箋
電子処方箋は、医師から発行される処方箋を電子データとして管理するシステムです。
手書きの処方箋に関する誤字脱字や読みにくさの問題が解消され、より正確に処方内容を確認できるようになります。また、処方箋が即座に共有されるので、処方に関連するトラブルの減少や業務効率の向上が期待されます。
マイナ保険証の利用
マイナ保険証を利用することで、患者の保険情報を迅速かつ正確に確認することができます。
また、患者の過去の診療履歴や処方情報もすぐに確認することができます。特に、高齢者や複数の医療機関を利用している患者に対して、薬の重複などのチェックが容易になります。
薬剤選択支援
薬剤選択支援システムは、患者の病歴やアレルギー情報をもとに、人工知能(AI)が最適な薬剤を提案するツールです。このシステムを活用することで、患者に対してより安全で効果的な薬剤を提供することができます。また、過去の処方履歴や他の薬剤との相互作用を考慮した薬剤選択が可能となるため、薬剤提供の質がさらに向上します。
重複投薬などのチェック
電子処方箋を利用することで、複数の医療機関で処方された薬剤の重複投薬を自動的にチェックすることが可能となります。重複投薬や薬剤の相互作用によるリスクを低減し、より安全でスムーズな薬剤の提供につながります。
遠隔薬剤師相談
遠隔薬剤師相談は、患者と薬剤師が直接対面することなく、オンラインで相談できるサービスです。特に、地方や離島など、薬局へのアクセスが困難な地域の患者にとってメリットがあります。また、時間的制約がある患者や、高齢者など外出が困難な患者にとっても有益だといえます。
レセプトのオンライン請求
光ディスクや紙媒体に代わる、レセプトのオンライン請求も進められています。
これにより、レセプト処理にかかる時間が短縮され、誤りがあった場合の修正も容易になります。
レセプト業務の負担が軽減されることで、薬剤師は本来の業務である患者対応に集中することが可能となります。
電子版お薬手帳
電子版お薬手帳は、患者が自身の薬歴をスマートフォンのアプリで管理できるようにしたものです。患者自身が薬歴を容易に管理でき、薬の飲み忘れや誤用の防止にも役立ちます。
また、マイナポータルと連携することで、医療機関・薬局で交付された薬剤の記録や予防接種情報などを呼び出すことができます。
市販薬や血圧や血糖値についても記録することができ、総合的な健康管理に利用できます。
2024年10月以降の医療DX関連スケジュール
引用:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」/(参考)運用開始までのロードマップ
2025年の電子カルテ情報共有サービスの本番稼働に向けた動き
2025年の電子カルテ情報共有サービスの本番稼働に向けて、医療DX関連の取り組みが本格化します。以下に、主要なスケジュールとそれに伴う動きを示します。
2024年10月:「マイナ保険証利用実績に関する基準」適用
2024年度診療報酬改定で新設された医療DX推進体制整備加算について、2024年10月から「マイナ保険証利用実績に関する基準」が適用されます。これにより、マイナ保険証を利用した保険証確認が義務化されます。
患者の保険情報を迅速に確認できるので、患者への対応がスムーズになると期待されています。
2024年12月2日:紙保険証の新規発行停止
2024年12月2日以降、紙保険証の新規発行が停止されます。
2025年1月以降:電子カルテ情報共有サービス、全国9地域でモデル事業実施
引用:厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」/モデル事業予定地域
2025年1月から、電子カルテ情報共有サービスのモデル事業が全国9地域で実施されます。このモデル事業は、実際の運用に向けた試行として行われ、各地域での運用状況をもとに課題の抽出や改善策の検討が行われます。
2025年4月:運用開始、令和7年度中に本番稼働
2025年4月には、電子カルテ情報共有サービスの運用が本格的に開始されます。全国での本番稼働は令和7年度中を予定しており、これにより、医療機関間の情報共有が大幅に進むことが期待されます。
「医療DX令和ビジョン2030」は、日本の医療システムをデジタル技術で革新し、より効率的で質の高い医療サービスを提供するための重要な提言です。
2024年以降、マイナ保険証の義務化や電子カルテ情報共有サービスの本格稼働など、重要な取り組みが相次いで実施される予定です。これにより、医療現場における業務効率の向上と、患者に対するサービスの質の向上が期待されています。
薬剤師もまた、これらの変化に対応し、新たな技術を活用することで、患者に対する医療サービスの提供に貢献することが求められます。