SOAP形式の薬歴記載を完全攻略!正しい書き方とコツを徹底解説
薬剤師にとって日々の業務で欠かせない「薬歴記載」。SOAP形式での記載を採用している薬局が多い中、「どの項目に何を書けばいいのか」「自分の薬歴はSOAPに沿って正しく書けているのか」と悩む薬剤師も多いのではないでしょうか?この記事では、SOAP形式での薬歴記載の流れやコツを詳しく解説します。これを読めば、迷うことなく自信を持って薬歴を記載できるようになるでしょう。
「薬歴」とは患者の服薬・健康状態の記録のこと
薬歴とは「薬剤服用歴」の略称で、患者の服薬状況や健康状態が記録されたものです。現在服用している薬の種類や用量のみならず、副作用の有無やアレルギー歴、治療の経過など幅広く患者の健康に関する情報が記載されています。薬歴を適切に管理していくことは薬剤師の重要な業務の一つと言えます。
薬歴記載の目的:薬学管理と調剤報酬算定
薬歴を記載する主な目的は2つあります。
1.患者へ適切な薬学管理を提供するため
薬歴は、患者に安全かつ効果的な医療を提供するために不可欠です。例えば、副作用やアレルギー歴、併用薬を確認することで、処方された薬が問題なく服用できるか判断することができます。薬歴に記録されたデータをもとに、より適切な薬剤選択や服薬指導を行うことで、治療効果や安全性の向上につながります。
2.調剤報酬請求の算定条件を満たすため
薬歴を適切に管理することは、「調剤管理料」の算定条件の1つでもあります。保険医療機関としての信頼性を保ち、調剤報酬請求を問題なく行うために、適切な薬歴記載を行っていくことが大切です。
薬歴への必須記載内容は決められている
調剤管理料を算定するにあたり、薬歴に必ず記載しなければいけない内容が決められています。患者の生年月日や保険に関することなどの基礎情報から、アレルギー歴や副作用歴、併用薬等の薬学的管理に必要なことまで幅広い情報の記載が必須となっています。ここで定められている情報を適切に記載することで調剤管理料の算定が可能になります。必須の記載内容詳細に関しては以下の厚生労働省からの文書をご確認ください。
参照:保医発0305第4号別添3調剤報酬点数表に関する事項16ページ(令和6年3月5日)/厚生労働省
薬歴はSOAPに従って書く
薬歴の記載方法に関しての明確な決まりはありませんが、多くの薬局でSOAP形式が採用されています。この形式をとることで、患者に関する情報を整理し、薬局内での共有をスムーズにすることが可能です。ここでは、SOAP形式を用いた薬歴の具体的な記載方法について解説します。
SOAPは4つの項目から構成されている
「SOAP」は4段階の項目から構成されており、それぞれの頭文字をとったものです。各項目に記載すべき情報とその具体例は以下の通りです。
-
S (Subjective): 主観的情報
患者や家族からの主観的な訴えや情報
例:「昨日から頭痛がする」「薬を飲むと眠気が強い」 -
O (Objective): 客観的情報
検査値等の客観的なデータ
例:血圧、脈拍、検査結果 -
A (Assessment): 評価
主観情報と客観情報を基にした薬剤師としての評価
例:「血圧が高めだが、許容範囲内」 -
P (Plan): 計画
今後の対応や指導内容
例:「次回受診までに血圧の記録をつけるように指導」
SOAP形式を用いることで、情報が整理され、薬歴の内容を一目で理解しやすくなります。また、常にS→O→A→Pの順番を意識することで、自然な流れの薬歴作成が可能です。薬局によってはP(Plan)をさらに細かくEP、CP、OPに分けて記載している場合もありますので、それぞれ薬局独自のルールに従って記載するようにしましょう。
EP、CP、OPの書き方については以下の記事を参考にしてください。
SOAPではプロブレムに注目する
SOAP形式の薬歴における重要なポイントは、患者のプロブレム(問題点)に注目することです。プロブレムとは、患者が抱えている問題点を指し、解決のためのアプローチ方法を考えていく必要があります。例えば、Sに記載する「昨日から頭痛がする」「薬を飲むと眠気が強い」といった情報も患者が抱えるプロブレムです。プロブレムごとにSOAPを立て、情報を整理していくことで、薬歴の記載内容がより具体的になり、効果的な対応が可能になります。
プロブレム抽出にはPOS(問題志向型システム)を使用する
それでは、実際にどのようにプロブレムを見つけていけばよいのでしょうか。医療業界では、プロブレムを抽出するためにPOS(Problem Oriented System、問題志向型システム)という方法が使われます。POSとは、患者の医療記録や治療計画を「問題」を中心に整理・管理するシステムのことです。患者の健康に関する情報を順序立てて整理することで、チーム内での共有をしやすくします。
このシステムは、以下の4つのステップからなります。
1.情報を集める→2.問題を明確にする→3.計画を立てる→4.計画の実行
一連の流れで抽出したプロブレムに関して、SOAPで情報を整理していきます。以下の症例をもとに、SOAPでの薬歴作成までの流れを確認していきましょう。
【症例】SOAPでの薬歴作成までの流れ
【症例】
高血圧治療中の患者。投薬治療継続中。継続処方を受け、7月に来局。
処方内容:アムロジピン5mg 1日1回
患者「この薬は半年前くらいから飲んでいます。今まで気にならなかったけど、ここ最近フラフラするようなことが増えた気がします。薬に関係ありますか?」
薬剤師「薬の服用で血圧が下がりすぎるとめまいやふらつきが起こる場合があります。血圧は毎日測っていますか?」
患者「毎日測っています。最近は100/60くらいのことが多い。」
薬剤師「自宅で測った血圧は病院で伝えられていますか?」
患者「病院では特に伝えてないです。」
薬剤師「夏場は血圧が下がる傾向にありますので、下がり過ぎた場合は薬の量を減らす必要があるかもしれません。ふらつくことがある旨を必ず次回受診時にお伝えください。病院での血圧は自宅よりも高く出ることがありますので、自宅で測っている普段の血圧を病院受診時には伝えられるとよいでしょう。」
1. POSで患者のプロブレムについて考える
1-1 情報を集める
- アムロジピン5mgを半年前から継続服用中(S/O)
- 最近ふらつきの自覚症状あり(S)
- 自宅での血圧は100/60 (O)
- 主治医には自宅での血圧値については伝えていない様子(S)
1-2 問題を明確にする
- 降圧剤服用による血圧低下によりめまいが起こっている可能性あり(A)
- 夏場のため血圧は低下傾向(A)
- 主治医は自宅での血圧値を把握しておらず、病院では白衣高血圧により高めの数値が出ている可能性あり(A)
1-3 計画を立てる
- 血圧低下状況改善のため、医師にめまいの自覚症状及び自宅での血圧測定値に関してする必要あり(A)
1-4 計画の実行
- 次回受診時に医師にめまい症状・血圧値について伝える(P)
2. プロブレムについてSOAPを用いて整理していく
S:この薬は半年前から飲んでいる
最近ふらつきが気になるようになった
医師には自宅での血圧は伝えていない
O:BP 100/60
A:めまいは降圧剤服用による血圧降下のSEの可能性あり
夏場のため血圧低下気味と思われる
Drは自宅での血圧値を把握していない可能性があるため、情報提供及び降圧剤の
減量提案の必要あり
P:次回受診時、ふらつきの自覚症状・自宅での血圧測定値を医師に伝えるよう指導
患者本人による対応難しいようであれば薬局から情報提供
SOAP薬歴記載時のポイント5選
SOAPを用いて薬歴を記載することで情報が整理され、流れが理解しやすくなりますが、ここではさらにより良い薬歴を作成するためのポイントを押さえておきましょう。
1.簡潔にわかりやすく
必要な情報を簡潔に記載しましょう。薬歴記載は薬剤師の業務の中でも多くの時間を費やすため、必要な情報を素早く書くことが大切です。また、簡潔な薬歴は投薬前にも時間をかけずに確認ができ、待ち時間を減らすことにもつながります。重要な内容を箇条書きにするなど、簡潔でわかりやすい表現を心がけましょう。
2.誰が見てもわかるように
薬局では複数の薬剤師が勤務していることが多く、毎回担当が変わる可能性があります。新人や異動したばかりの薬剤師も含め、誰が見ても理解できる薬歴を記載することは、患者に一貫した医療を提供する上でとても大切です。
3.経時的・一元的に管理
薬歴は治療経過の流れがわかるように作成し、他病院での治療に関連する情報や過去の服用歴・副作用歴など、患者の治療に関わる全ての情報を一元的に管理することがとても大切です。経時的・一元的な情報管理は安全な治療を提供することにつながります。
4.ヒアリング・服薬指導をいかす
患者からの十分な情報収集を常に心がけましょう。何気ない会話の中にも重要な情報が隠れている場合があります。充実した服薬指導とヒアリングを基にプロブレムを抽出し、適切な評価を行うことで、効果的な治療計画を立てることができ、薬歴への記載内容も充実していきます。
5.患者によって記載ポイントは異なる
患者ごとに抱える問題や背景は異なるため、薬歴に記載すべき内容も変わります。特に新患の場合、過去の情報を含め、全てのデータを詳細に記録する必要があります。一方で、継続患者では、毎回同じような薬歴にならないよう、隠された問題点がないか注意しながらヒアリングを行い、薬歴にも活かしていくことが重要です。
薬歴記載に便利な補助機能
薬歴記載は、薬剤師業務の中でも大きな時間を占める作業である一方、患者の健康管理において重要な役割を担うため、正確かつ効率的な記載が求められます。薬歴記載時間を短縮することにより、患者と向き合う時間をより多く確保することができるようになるでしょう。現在は電子薬歴を導入している薬局が多く、効率的に薬歴を記載するための多くの補助機能がレセコンに搭載されていますので、一部をご紹介します。
定型文の登録
よく使用する文章を事前に登録し、使用時にすぐに呼び出せる機能です。使用頻度の高い文章を登録しておくと良いでしょう。
【作成例】
- 吸入薬の使用方法
- インフルエンザや花粉症など、特定の季節に増える指導内容
- 点眼薬の使用、保存方法
過去の薬歴を引用
過去の薬歴と同じ内容をコピーすることが可能な機能です。記載にほとんど時間がかからないため、大変便利な機能ですが、毎回同じ薬歴が繰り返されることでプロブレムの見落としが発生する可能性があり、注意が必要です。定期的に併用薬や副作用歴などを確認し、患者の状態の変化を薬歴で確認できるようにしていきましょう。
音声入力
話した内容を文字起こしできる機能で、タイピングに不慣れな方でも効率よく薬歴記載が可能です。正しく変換されない場合や、専門用語への対応が難しい場合もあるため、正確に記載されているか確認し、通常のタイピングとうまく組み合わせながら使用するのがおすすめです。
PCの辞書機能を使用する
こちらはレセコンではなく、PCやタブレット自体の機能です。薬の名前や薬効、専門用語の変換に時間がかかる場合があるため、PCの辞書機能にあらかじめ登録しておくと効率的です。
薬歴記載時に注意すべきこと
基本的な薬歴記載に関しては、これまでお伝えした方法で問題はありませんが、以下のような場合には注意が必要です。
各種加算算定時は追加の情報を記載
調剤管理料に各種加算(小児加算・ハイリスク薬加算・麻薬加算等)を追加で算定する場合には、通常の薬歴の内容に加えて、それぞれの算定に必要な情報を記載する必要があります。算定要件を満たすために、追加で必要な項目に関しては漏れなく記載をするようにしましょう。
指導・監査で見られるポイント
薬局では、店舗運営が適切に行われているかを確認するために、定期的に個別指導や集団指導、監査が実施されることがあります。その際薬歴記載の状況についてもチェックを行う場合があります。基本的には必要事項を正しく漏れなく記載していれば問題はありませんので、全ての薬歴に関して不足が無いよう、日頃から丁寧な薬歴記載を心がけましょう。
SOAPを用いて患者のためになる薬歴作成を
SOAP形式は、患者の問題点を的確に把握し、適切な対応を可能にするための効果的な薬歴作成方法です。簡潔で分かりやすい表現や一元的な情報管理を心がけることで、記録の精度を高めるだけでなく、業務効率を向上させ、患者とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになります。薬歴記載の重要性をしっかりと認識し、SOAP形式を活用した丁寧な記録を行うことで、患者一人ひとりに最適な医療を提供できる薬剤師を目指していきましょう。