薬歴の必要性、書き方・実例を解説!薬剤師が知っておくべき薬歴のすべて

薬剤師として日々の業務に欠かせないのが「薬歴(薬剤服用歴)」です。調剤内容や服薬指導などを記録し、薬物治療を行うために書き、保存されています。本記事では、薬歴の目的や必要性、電子薬歴との比較、そして代表的な記載方法であるSOAP方式の書き方など、薬剤師が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
薬歴(薬剤服用歴)とは
薬歴とは、「薬剤服用歴」を略したものです。薬歴は調剤や服薬指導、患者の基礎情報や体質、疾患などについて記録しています。
薬歴の目的について
薬歴を記録する目的は、患者さんために安全な薬物治療を行うことです。患者さんに関わる情報を記録することで、服薬管理、服薬指導が可能になります。薬歴の記録を適切に行うことで、過去の副作用歴、相互作用の可能性、服薬アドヒアランスの状況などを把握でき、次回以降の服薬指導にも質の高いフィードバックを行えます。
さらに、薬歴は医療機関との連携を図る上でも重要な情報源となります。薬剤師が医師と連携して副作用報告を行う際や、重複投薬を防ぐための情報提供を行う際にも、薬歴の記録が根拠として機能します。
薬歴の記載項目とは
薬歴には主に以下の内容を記載します
患者の基本情報(年齢、性別、既往歴など)
処方内容(薬品名、用法・用量、処方日数)
服薬状況や副作用の有無
服薬指導の要点
今後の薬学的管理
これらは薬剤師の主観だけでなく、患者との対話や医師からの情報提供に基づいて客観的に記録されます。
例えば、患者が「服薬後に眠気を感じた」と述べた場合、それを患者から「眠気の訴えあり」、薬剤師の所見として「血圧や脈拍に異常はない」と分割して記録します。客観的な記録を意識することが必要です。
薬歴は保存義務あり
薬歴は調剤されたすべての患者に対して作成し、一定期間(原則3年間)保存することが義務付けられています。管理には「紙媒体の薬歴」または「電子薬歴」が使われ、薬局ごとにその方法が異なる場合があります。
電子薬歴と紙薬歴のメリット・デメリット
近年、薬局のIT化が進み、「電子薬歴」を導入する薬局が増えていますが、今も紙薬歴を使っている薬局もあります。ここでは、電子薬歴と紙の薬歴のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
電子薬歴のメリット7つ
電子薬歴のメリットには以下の7つがあります。
情報検索や過去記録の参照がスピーディー
業務効率が向上し、業務時間短縮
データの蓄積により、統計的な活用が可能
薬歴紛失のリスクが少ない
グループの企業内で情報共有できる
病棟、訪問診察でも遠隔で見られる
スペースを取らない
特に多店舗展開している薬局では、クラウド型の電子薬歴システムにより情報の一元管理がしやすくなっています。また薬局の店舗以外でも情報にアクセスすることができます。例えば、在宅医療の現場にてタブレット端末で患者さんの薬歴を確認することが可能です。
電子薬歴のデメリット4つ
一方で、電子薬歴にはデメリットもあります。4つご紹介します。
操作習熟に時間がかかる
システム導入と維持の費用
システム障害時の業務停止リスク
定型文が多用され、記録が画一化する可能性がある
基本的に電子薬歴はキーボードで記入をします。それゆえ、パソコンの操作に不慣れな年配の薬剤師、もしくはスマートフォン世代の若者世代にとっては、習熟への時間がかかってしまうかもしれません。また、最後の点は、記録の質の低下や「形式だけの薬歴」になってしまう危険性もはらんでおり、薬剤師の個別対応力が問われます。
紙薬歴のメリット・デメリット
紙薬歴のメリットは、ITに不慣れな薬剤師でも簡単に記録できる点と、自由度の高い記載ができることです。また過去の薬歴確認もパラパラとめくって見るという視認性の高さがあります。システム障害、停電などがあっても問題はありません。
反面、保管場所の確保や記録の読みづらさ、検索性の低さなどが課題です。また、薬局内での情報共有は1冊の紙薬歴を読むだけというアナログさで、業務の効率性では電子薬歴に劣ります。
薬歴の書き方
薬歴の代表的な記載のやり方には「SOAP方式」があります。ここでは、薬歴の書き方をご紹介します。
「SOAP方式」とは
「SOAP方式」は、以下の4つの構成要素で成り立っています。
S(Subject):患者の主観的情報(症状や訴え)
O(Object):薬剤師が確認した客観的事実(検査値、服薬状況など)
A(Assessment):薬剤師としての分析や評価
P(Plan):問題に対しての次回の指導方針や計画
このSOAP形式は、「POS(Problem Oriented System)」という考え方を用いた記録方法であり、医療業界で使われてきたものです。
SOAP薬歴は、医師、看護師といった薬剤師以外の他職種に対して、患者さんの現状と課題を伝えることができます。
SOAP方式以外の書き方
薬歴はSOAP方式以外にも、箇条書きなどが用いられます。ただし、近年ではSOAPが日本薬剤師会からも推奨されており、現場でも主流となっています。
「SOAP形式」書き方の例
例えば、「眠れない」という患者さんの相談に対してのSOAP形式の例を見てみましょう。症例や処方薬といった基本情報は必ず書いておきましょう。
例
(症例)63歳男性。ここ1年ほど不眠
(処方)ラメルテオン錠8mg1T 就寝前30日分
S患者の主観的情報: 「最近、夜中に目が覚め、眠れないことが多い。仕事は忙しくストレスを感じている」と患者が訴えた。
O薬剤師が確認した客観的事実: 入眠に30分以上かかるときもある。処方薬に睡眠導入剤あり。服薬状況に問題なし。
A薬剤師の分析: 睡眠の質が悪く、不眠が継続している可能性あり。副作用ではなさそう。
P次回指導方針: カフェインを控えるようにアドバイス。ストレッチの習慣もすすめる。次回も同様の訴えがあれば、医師に相談する。
この例にはありませんが、SOAPでは、問題点であるプロブレムを設定することもあります。薬歴を書くことで、患者さんの状態、問題点の整理ができます。薬歴で患者さんの情報共有を進めましょう。
薬歴を書くときの注意点3つ
他の薬剤師が読んでも理解できる内容にする
記載はなるべく日を空けずに書く
主観と客観を明確に分ける
これらの注意を守ることで、質の高い薬歴が実現できます。SOAP形式が難しければ箇条書きで対応することも可能です。また、薬歴はチーム医療の基礎資料です。他の薬剤師や看護師が見たときにも理解できるよう、用語や略語の統一にも気をつけておきましょう。
薬歴は患者さんの薬物療法のためのもの
薬歴は、薬剤師の仕事の重要な記録です。記録の正確性と一貫性は、患者の健康管理に直結する要素であり、特に電子薬歴が主流になりつつある今こそ、薬歴の意味をしっかりと知っておきましょう。
SOAP方式・箇条書きなどの薬歴の記載法も覚え、患者さんに最適な医療サービスを提供しましょう。薬歴は単なる記録ではなく、患者さんの安全な薬物療法のためのものだと忘れないようにしましょう。