MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは?活躍できる場はどこ?
製薬企業を中心に、近年注目を集めている職種が「MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)」です。
企業の製品情報を提供する職業といえば、「MR(医薬情報担当者)」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、営業を目的としたMRとは異なる立場から情報提供をおこなう“MSL”の需要が高まっているのです。
この記事では、メディカル・サイエンス・リエゾンの業務内容やMRとの違い、求められるスキル、キャリアパスを解説します。薬剤師がメディカル・サイエンス・リエゾンへの転職を目指すうえで知っておきたいポイントもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは?
MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)は、主に製薬企業で活躍する学術・科学の専門職です。疾患や薬物治療、臨床研究などに関する最新の情報を収集し、医療従事者、特にKOL(Key Opinion Leader:医療業界で影響力のある医師などの専門家)とディスカッションをおこないます。
MRのように販売促進が目的ではなく、あくまで中立な立場にいるのがMSLです。医療の発展に貢献するために、現場で必要とされている医学・薬学情報を提供します。
どうして今、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)が注目されているのか
メディカル・サイエンス・リエゾンという職種は、欧米ではすでに50年以上の歴史があり、医療業界では欠かせない存在となっています。
日本では2000年代に導入され、2010年以降は外資系企業を中心に広まりました。
近年では、内資系企業やCSO(Contract Sales Organization:医薬品販売業務受託機関)での採用も急速に増えています。
なぜ今、MSLがここまで注目されているのでしょうか。
大きな転機となったのが、2010年代の臨床研究不正問題です。
この出来事をきっかけに、製薬企業は「販売促進よりも科学的根拠と透明性」を重視するようになりました。その結果、中立的かつ科学的な情報提供をおこなうMSLの必要性が高まったのです。
さらに、医療業界全体で「患者中心(ペイシェント・セントリシティ)」の考え方を大切にする動きが広がっていることも、理由のひとつでしょう。
患者の視点に立った医療の実現には、現場の声を研究や開発へとつなぐMSLの存在が欠かせません。
メディカル・サイエンス・リエゾンが活躍する企業や領域
メディカル・サイエンス・リエゾンは製薬企業を中心に採用されていますが、そのほかの医療関連企業でも活躍しています。
- 製薬企業:新薬や既存製品に関する臨床・学術活動の中心的役割を担う
- CRO(医薬品販売業務受託機関):製薬企業からの委託で、MSL業務を担当するケースがある
- バイオテクノロジー企業:創薬研究や最先端治療(抗体医薬、遺伝子・細胞治療など)における医療連携
- 医療機器メーカー:高度医療機器や診断技術に関する科学的・臨床的な情報提供
メディカル・サイエンス・リエゾンは、がんや免疫・炎症性疾患、希少疾患など、高い専門性と学術的理解が求められる領域において、需要が拡大しています。
メディカル・サイエンス・リエゾンの主な業務内容と役割
メディカル・サイエンス・リエゾンの仕事は、単に「医療従事者への情報提供」だけではありません。ここでは、メディカル・サイエンス・リエゾンの代表的な4つの業務をみていきましょう。
最新の医学情報の収集・精査
メディカル・サイエンス・リエゾンは自身の担当領域に関する最新の医学・薬学情報を常に収集する必要があります。
- 最新論文やガイドライン改訂情報
- 学会やシンポジウムで取り上げられている最新トピック
- 臨床試験データ
このような情報を収集したら精査し、KOL(Key Opinion Leader)へ情報提供できるように整理します。
KOL(Key Opinion Leader)への情報提供と信頼関係の構築
メディカル・サイエンス・リエゾンの中心的な業務は、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる医療業界で影響力のある医師や研究者への情報提供です。
ここでの目的は営業ではなく、あくまで中立的な立場から疾患や治療法、製品などに関する情報を提供することにあります。
KOLとのディスカッションを有意義にするために、信頼関係を築いていくことも非常に重要です。そのために、定期的にKOLを訪問してコミュニケーションを重ねたり、関心や課題を共有できるよう、勉強会を企画したりすることもMSLの役割です。
研究開発・臨床試験のサポート
メディカル・サイエンス・リエゾンは、高い専門性と現場からのリアルな声をもとに、研究開発や臨床試験のサポートもおこないます。
- 臨床研究の立案・運営補助
- 医師の論文作成や学会発表の支援
- 大学や医療機関との共同研究の推進、エビデンスの構築
メディカル・サイエンス・リエゾンは研究の方向性や質を左右する存在であるともいえます。また、研究協力や学術活動に発展させることで、企業の科学的ブランド価値を高める役割も果たしているのです。
社内へのフィードバック
メディカル・サイエンス・リエゾンが医療現場で収集した意見や臨床ニーズは、企業にとって貴重な情報です。
KOL(Key Opinion Leader)とのコミュニケーションを通じて得た知見は、研究開発部門や経営層に共有されます。現場のリアルな声を元に、社内で取り組むべき課題を再分析し、製品戦略や開発方針に反映していきます。
また、MRや他部署に対しての教育・サポートにおいて、最新のエビデンスや臨床の動向を活かすこともあるでしょう。
このように、メディカル・サイエンス・リエゾンは「医療現場と企業をつなぐ」だけではなく、医薬品開発や情報提供の質を高める重要な役割も担っているのです。
メディカル・サイエンス・リエゾンに必要なスキルと資格
メディカル・サイエンス・リエゾンは、担当領域において「学術の最前線」をいく仕事であり、さまざまなスキルが求められます。