薬剤師の資格「感染制御認定薬剤師」資格取得体験記
「感染制御認定薬剤師」とは?
感染制御認定薬剤師は、その名の通り感染制御に関する高度な知識、技術、実践能力を備えているとして認められた薬剤師のことです。感染制御を通じて患者が安心・安全で適切な治療を受けるために必要な環境の提供に貢献するとともに、感染症治療に関わる薬物療法の適切かつ安全な遂行に寄与することを目的としています。
感染症治療等に使用される医薬品や、微生物・耐性菌などに関する知識を身に付け、薬物療法や感染対策を提案することが主な役割です。
「感染制御認定薬剤師」取得のきっかけ
私が資格取得を目指したきっかけは一つの後悔です。
東日本大震災が発生した2011年3月、私は仙台市の霞目基地でDMATとして働きました。災害医療の現場でさまざまな経験をする中でも最も衝撃的だったのが、宿泊した大学病院で汚物が流せないという状況でした。それを見て、感染対策や消毒薬の知識など「自分に薬剤師としてもっと実力があれば…」と悔しい思いをしました。
その後、通常の仕事に戻ってからも後悔の思いはくすぶり続けていました。そんな時、職場の上司が病院内の消毒薬の使用方法や抗菌薬の投与量について院内スタッフに説明をされている姿を見て、自分の理想がそこにあることに気づきました。その方と同じように感染制御の資格を取得し、災害時でも感染対策に役に立てる薬剤師になりたいと感じました。
私にとって震災のときの悔しい思いが原動力となり、感染制御認定薬剤師を取得しました。まだまだ理想には道半ばですが、これからも後悔を力に変えて歩んでいきたいと思っています。
仕事と勉強を両立させるコツは?
コツは単純で、「仕事の中で勉強すること」です。
薬剤師は仕事に追われ、勉強する気力を維持するのが難しいと感じる方が多いと思います。確かに私自身も自宅では家事と育児で精いっぱいでとても書籍を開く余裕がありません。
そんな方におすすめなのが、目の前の患者さんや処方箋を通して「なぜ?どうして?」と考え、実際に調べてみることです。
たとえば、レボフロキサシン(LVFX)錠が出ている患者さんがいるとします。自分であれば「なぜLVFXが出ているのだろう?」と考えます。「尿路感染症かな?」と思って調べてみると「最近、LVFX耐性大腸菌が増えており、セファレキシンが推奨されるケースがある」ことがわかりました。疑義照会をしてみると処方が変わることもあります。
仕事が忙しいときに調べることは勇気がいることかもしれません。でもきっと患者さんの役に立つと思います。仕事中だからと負い目に感じる必要は全くありません。わからないことはどんどん調べて、「仕事の中で勉強」してください。
「感染制御認定薬剤師」の資格申請に必要なこと
私は申請前に一番大事なことは「主体的に感染症に対して関わった経験を積む」ことだと思います。感染制御認定薬剤師の資格を申請するには様々な要件があります。(詳細は日本病院薬剤師会のホームページを参照してください。1))
では申請前にどんな準備をすればよいのでしょうか?特に受験生を悩ませるのは、「20件以上の業務内容報告」でしょう。業務内容は特定の業務、たとえばTDMだけで20件報告することはできません。そこで重要なのが「主体的に感染症に対して関わった経験を積む」ことです。
私の例で言えば、院内の術前抗菌薬の投与日数変更に携わりました。勤務先の病院は整形外科手術に対する抗菌薬投与日数が長いと感じていました。そこでガイドラインをもとにICTや整形外科の医師と協議し、投与日数の短縮を行いました。結果として術後感染症の増加もなく、耐性菌の発生を抑えることができたと考えております。
今回のケースのように日頃の疑問について主体的に関わることで、気づくと20件の業務内容に携わることができました。「主体的に感染症に対して関わった経験を積む」ことを強く意識してください。
1)感染制御認定薬剤師認定申請資格 令和6年6月1日施行:https://www.jshp.or.jp/certified/document/kansen-1.pdf
「感染制御認定薬剤師」の試験会場での心構え
気負いすぎず、「次があるさ」という考えを頭の片隅に置いておくことでしょうか。
感染制御認定薬剤師認定試験の出題範囲は大変広く、受験者の心を折るには十分です。参考図書は日本病院薬剤師会や日本化学療法学会から3冊、国内の添付文書やインタビューフォーム、海外のCDCガイドラインまで目を通す必要があります。