服薬指導にも生かせる「中医学から見る疾患」

更新日: 2022年5月28日 河本 ちかこ

「高血圧」中医学からみるとどうなるの?

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西洋医学から見た「高血圧」

西洋医学からみた高血圧は大きく分けて、原因が特定できない「本態性高血圧」、何らかの疾患がありそれによって引き起こされる「二次性高血圧」に分類されます。これらのうちほとんどの患者は「本態性高血圧」に分類されると言われています。

血圧が高い状態が続くと心臓や血管に負荷がかかり、狭心症や心筋梗塞、心不全といった心疾患や動脈硬化、脳血管障害などを引き起こすために適正な血圧領域にまで下げることが必要になります。

現在は様々な作用機序をもった治療薬が承認されており、症状や状態にあった薬をチョイスできる状況にあります。具体的には、脳卒中、心筋梗塞の予防効果もある利尿薬、広く使われているカルシウム拮抗薬、心・腎などへの臓器保護作用を持つアンジオテンシンⅡ受容体に作用する薬、古くから使われているβ遮断薬など、それぞれの特徴を踏まえ患者さんのバックグラウンドなどを見たうえで処方がなされています。

中医学から見た「高血圧」

高血圧に保険適応がある漢方薬としてよくしられているのは「大柴胡湯」「柴胡加竜骨牡蛎湯」「黄連解毒湯」「真武湯」などがあります。

中医学では、高血圧をきたす原因はいくつかありますが、その一つとして自律神経の異常、交感神経が亢進している状態と考え、気が失調状態にあると捉える考え方があります。これを「気逆」の状態と言います。ほかには、体内に過剰な水分があることによって引き起こされる高血圧。この状態を「水毒」の状態といいます。また、動脈硬化や血液の循環が滞っていることなどによる高血圧を「瘀血」の状態と捉えて処方します。

これらを一つ一つ見ていくことにしましょう。

「気逆」による高血圧の症状と処方

まずは、「気逆」の状態。この「気逆」の状態の人におこりがちな症状としては、顔が赤らむ、のぼせたような状態になる、動悸が起こる、頭痛、イライラするなどがあげられます。ほかにも「肝火上炎(かんかじょうえん)」、自律神経が興奮し、上に熱が上がっている状態にあるひとは、血圧が上昇していることが多く見られます。こういったときには、上にいった熱を鎮め、自律神経を安定させる処方によって血圧を安定化させることで症状が改善すると言われています。

具体的には辛温解表薬に属する「桂皮」を含む処方を用いて、体を中から温めて、経絡を通じさせて血圧を安定化させたり、辛涼解表薬の「柴胡」で熱を冷ましたり、抗ストレス作用を期待して鎮静薬の「釣藤鈎」を用いることなどで血圧を安定化させたりします。

ほかに、下剤としての作用を持つ緩下剤の「大黄」を用いることで、通便させて血熱をおさめて、血流の滞りを改善させて血圧を安定化させる方法などが用いられます。

「陰虚陽亢(いんきょようこう)」による高血圧の症状と処方

ほかに「陰虚陽亢(いんきょようこう)」のタイプの人で高血圧になる人もいます。このタイプは足腰がだるい、疲れやすい、ほてりや便秘があるなどの症状を呈します。このタイプの人は体に熱がこもることなどで血や津液が不足しているにもかかわらず体全体に十分な血液を送ろうとしているため血圧が高くなっていると考えられます。また、陰陽のバランスが崩れていることなどによって血圧が高くなっているとも考えられます。

このタイプには腎陰を補うことで津液の不足を改善し、こもった熱を潤しながら冷ますような処方が敵しています。

具体的には滋陰薬の「地黄」「天門冬」「女貞子」などのような薬と清熱の「黄連」「牡丹皮」などを加えることが多く見られます。

「水毒」による高血圧の症状と処方

次に「水毒」による高血圧も考えられます。「痰湿阻滞(たんしつそたい)」タイプの高血圧です。このタイプは体の中に余分な水分があるために血圧が高くなっていると考えます。

体が重くだるい、むくみやめまいがある、食欲がない、便が緩いなどの症状がある人はこちらに属し、水分を外に出す利水薬「茯苓」や「猪苓」「沢瀉」などが含まれる処方により血圧を安定化させます。

「瘀血」による高血圧の症状と処方

最後に「瘀血」による高血圧です。「瘀血」による高血圧は血流がわるくなっているためにそれを回復させようとして血圧が高くなっていると考えられ、本態性高血圧の人の多くはこのタイプであるとの報告も出ています。

「瘀血」といっても様々な原因が考えられますが、よく見られるのは「気虚」による瘀血の人の症状です。食慾がなく、疲れやすく動悸、頭痛などが症状として表れます。このタイプの人は、疲れなどにより気が不足しているため、血を巡らせることができていないので、「補中益気湯」など補う力をもつ処方で疲れを取り、体の諸症状を改善するのがよいと思われます。

このように、一言に高血圧といってもその原因は様々ですが、体の機能としては「心」「肝」「腎」が関係していると言われています。これらの不調が思い当たるかどうかを考え、そこから高血圧の原因を見つけるアプローチを取ってみてはいかがでしょうか。

参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
ほか

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河本 ちかこ
かわもと ちかこ

薬科大学を卒業後外資系企業にてMR、新製品企画部にて勤務。その後、企業の経営を学ぶべく大学院でMBAを取得する。MBA取得後は医薬品業界の市場分析などを執筆する傍ら薬膳アドバイザー、食育インストラクターなどの資格を取得。健康な体は日々の食事からをモットーに、現在は薬局薬剤師として勤務しながら中医学の見識を深めるために中国人医師のもとで勉学にいそしんでいる。

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