服薬指導にも生かせる「中医学から見る疾患」

更新日: 2022年6月20日 河本 ちかこ

「便秘」中医学からみるとどうなるの?

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西洋医学から見た「便秘」

皆さんご存じの通り「便秘」とは数日間排便がない、排便はあるが間隔が一定しない、残便感が残るなどの症状のことを指します。

西洋医学の観点から「便秘」を分類すると、食事の量が少なかったり、運動不足だったり、加齢による排便に関わる筋力が衰えることなどから生じる「弛緩型」、精神的なストレスや腸が過敏になることなどから生じる「痙攣型」、下剤や浣腸などを使いすぎたことなどにより生じる「直腸型」の3つに大きく分類されます。ほかにも器質性の便秘もあるかとおもいますが、今回は省かせていただきます。

これらの「便秘」の状態に応じて薬を選択して行くのですが、現在では「便秘」の治療薬は大きく「非刺激性下剤」と「刺激性下剤」の2種類に分けられるかと思います。

このうちの「非刺激性下剤」は便を水分調整により軟らかくしたり、便のかさを増したり、腸内の環境を整えることにより腸の蠕動運動を促し、排便を促す作用を持つものがこちらに分類されます。このタイプの薬は腸への刺激も穏やかな分、効き目もマイルドで頑固な便秘の方には効果が見られなかったり、効果が出るまでに時間がかかったりしてしまうことがあるといわれています。

もう一つの「刺激性下剤」は、大腸を刺激することで蠕動運動を促すことで排便につなげます。このタイプの薬は連用しすぎると腸の感受性が低下することもあるので注意が必要になってきます。

中医学から見た「便秘」

では、中医学のアプローチから見ると「便秘」はどのように捉えるのでしょうか。体は「気・血・津液」のバランスや量などが適正になっていれば体調がよい状況になりますが、「便秘」の人は、「水」の不足により便の水分が少なくなり出にくくなる、あるいは「気」の異常によりストレスや緊張状態になってしまうことにより腸がうまく働かず便が出にくくなる、あるいは「血」の滞り、つまり瘀血の状態にあることが原因で「便秘」になってしまうといった状況が考えられます。わかりやすくいうと「胃腸に熱がこもることから起こる便秘」と「ストレスなどによって起こる便秘」「体が虚弱のため、便を押し出す力がないことによる便秘」「冷えによって腸の動きが悪くなることから起こる便秘」などが主なものになります。

では、それぞれの状態の人がどのようなタイプの人で、どのような処方が用いられることが多いのかを見ていこうと思います。

胃腸に熱がこもることから起こる便秘

「胃腸に熱がこもることから起こる便秘」の人。このタイプの人は肛門に灼熱感、腹痛、口の渇き、過食、口臭がひどい、多汗、のぼせなどの症状を伴う人が多く見受けられます。体質としては「陽盛体質」の人、また辛いものや味の濃いものが好きな人、脂っこいものをたくさん食べる人、炎症性の疾患を持つ人などがこちらのタイプに属します。

このタイプの人への薬は体の熱を取ることで便に水分を貯留させ排便につなげることが治療の主な目的になります。漢方では「大黄甘草湯」や「防風通聖散」などが用いられることがよくあります。また、体の熱を取る食事、例えばゴーヤやレタス、トマト、キュウリなどの夏野菜をとることで改善することもあります。

ストレスから生じる便秘

次に「ストレスから生じる便秘」の人は胃痛や腹痛、お腹や胸が張ったような感じがする、イライラ感、げっぷがよく出るなどの症状が伴うことが多く見られます。このタイプはストレスから自律神経が乱れ、気の流れが滞ることが胃腸の運動に影響して便秘になると考えられます。そのため、漢方では「大柴胡湯」や「柴胡加竜骨牡蠣湯」などがよく用いられます。また、食材では気の巡りを促す香りの高いもの、例えばジャスミンや菊花、陳皮、玫瑰花(まいかいか)などを用いると症状が改善することがあります。

便を押し出す力がないことによる便秘

「体が虚弱のため、便を押し出す力がないことによる便秘」の人は、食欲不振、お腹の張り、倦怠感、めまいやたちくらみ、動悸、息切れなどといった症状がよく見られます。また、このタイプの人は疲れや加齢などにより血や津液が不足するなどし、腸に潤いがない状態が原因になっていることも多くみられます。漢方では「潤腸湯」「麻子仁丸」などが用いられることが多いです。このタイプの人は鶏肉やニンジン、黒ゴマ、松の実などで腸に潤いをもたらせることで改善することがあります。

冷えによる便秘

「冷えによって腸の動きが悪くなることから起こる便秘」の人は、お腹や四肢の冷え、腰痛、夜によくトイレに行く、疲れやすい、顔色が青白いなどの症状を伴う人が多く見られます。漢方では「人参湯」「大建中湯」などを処方することが多く。食べ物では体を温めるネギやショウガ、シナモン、ニラ、くるみなどにより改善が見られる。

このように、便秘と一口にいってもその原因は様々で、その人にあったアプローチをすることが大切になってきます。なので、「便秘」を訴えるひとに便秘の症状以外にもその人の体質を聞き、どのタイプの便秘かを探るのも必要かと思います。

参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
ほか

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河本 ちかこ
かわもと ちかこ

薬科大学を卒業後外資系企業にてMR、新製品企画部にて勤務。その後、企業の経営を学ぶべく大学院でMBAを取得する。MBA取得後は医薬品業界の市場分析などを執筆する傍ら薬膳アドバイザー、食育インストラクターなどの資格を取得。健康な体は日々の食事からをモットーに、現在は薬局薬剤師として勤務しながら中医学の見識を深めるために中国人医師のもとで勉学にいそしんでいる。

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