「糖尿病」中医学からみるとどうなるの?
西洋医学から見た糖尿病
近年、糖尿病の患者数は日本のみならず世界的に増えてきているといわれています。日本でも、糖尿病有病者、予備軍を併せて約2000万人いるとも言われており、国が定める重要疾患の一つとされています。糖尿病患者の増加が問題視されている背景には生活習慣の欧米化が叫ばれて久しいですが、一度発症すると治癒は難しいこと、社会の高齢化などもその要因に関係していると思われます。
糖尿病の治療薬は数多くあり、インスリン抵抗性改善系のもの、インスリン分泌促進系のもの、糖吸収や排泄調整系のものなど様々な種類があります。また、これらの薬を一つの薬にした配合薬などもあわせると様々な選択肢があるといえるでしょう。
中医学から見た糖尿病
糖尿病は中医学の分野では「消渇(しょうかつ)」とよばれます。これは、体の消耗が激しく、口や喉の渇きが強いという症状が現れることからその名前がついたとされています。実際症状が進行してくると疲れがひどくなったり、疲れやすくなったり、喉が異常に渇くことから摂取水分量が増えてくること、それに伴って尿や発汗の量が増えてきます。また、食欲が亢進してくることもその特徴として上げられるでしょう。
糖尿病といえば遺伝的要因に加え、食生活が乱れている、あるいは甘い物を取り過ぎると発症すると言われていますが、中医学においては遺伝的要因のほかに肺が長期間外邪にさらされたり、精神的ストレスや過度な疲れがあったりすると発症する可能性が高くなると言われています。
「上消」の糖尿病
「消渇」は患者の状態や病因のある部位によって「上消(じょうしょう)」、「中消(ちゅうしょう)」、「下消(かしょう)」の3つに分けられます。
「上消」の状態とは、食事の不摂生や精神的ストレスにより、肺に熱が停滞します。その停滞した熱により口や体などに乾きが生じてきます。そのため、水分をたくさん取るようになってきます。また、肺に熱がたまることにより肺から津液を発散する働きがうまく機能しなくなるため、さらに肺や体に熱がこもることになり疲れやすくなったり、倦怠感がひどくなったりしてきます。
「中消」の糖尿病
「中消」の状態とは、熱が脾や胃に停滞したことによりおこる状態です。脾や胃に熱がこもるため、脾や胃の機能がうまく働かなくなり、消化吸収された栄養分がうまく全身に流れず下方に流れてしまい尿と一緒に体外に出て行ってしまうようになります。また、肌肉に栄養が流れなくなり、痩せていってしまいます。また、脾や胃に熱がこもることにより気血津液のバランスが崩れてしまい、体全体が衰えてしまったりします。
「下消」の糖尿病
「下消」の状態とは、熱が下にいき、腎に停滞するようになった状態のことをいいます。腎に熱がこもるため、腎が本来の活動ができなくなったり、尿の量が増えてきたり、尿が混濁したりといった症状が見られるようになります。この状態になるとかなり糖尿病の状態が長期化していることが多いため、のぼせたり、足腰がだるかったりといった全身的な症状が見られることもあります。
「上消」ときの治療は肺を中心にして体全体の乾燥状態を改善するようなものを取るとよいとされています。白キクラゲ、百合、白ごまなどがよいとされています。
「中消」ときは脾、胃にある熱を下げることが第一になります。脾、胃にこもった熱を取るために夏野菜が効果的です。ほかにも緑茶などもよいとされています。
「下消」の状態になると人間の生きるための精が不足することになるので、血を養いながら熱を取り除くことが必要になってきます。
腎臓によいものとして黒豆、黒キクラゲ、牡蠣などがよいとされています。いずれにせよこの状態のときは栄養をしっかりと取ることも念頭に入れての食事をすることをお勧めします。
また、これらの症状改善とともに身体の中に熱がこもることによって血流が滞ってしまうため、瘀血(血流の滞り)の状態になってしまうので、それを改善することも糖尿病の患者さんには大切になってきます。瘀血を改善するには紅花、シナモン、山査子などがよいとされています。
糖尿病の予防、病気の進行に伴い、食事療法は不可欠です。どこに病因があるかによって食事療法の仕方が変わってくるので、患者さんがどの状態なのかをしっかりと見極めた上での食事療法の提案が必要ではないでしょうか。
参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
ほか