服薬指導にも生かせる「中医学から見る疾患」

更新日: 2022年12月30日 河本 ちかこ

「アトピー性皮膚炎」中医学からみるとどうなるの?

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現在の日本では様々な疾患の病態、症状、薬の作用機序は西洋医学の観点からのアプローチがほとんどになっています。これらの病気を中医学の観点からアプローチするとどのように見えてくるのでしょうか。今回取り上げるのは「アトピー性皮膚炎」。様々な治療方法、治療薬が開発されるなど患者さんにとっては朗報がもたらされていますが、それでもなかなか治らず、苦労している患者さんはとても多い疾患。患者様への情報提供にお使い下さい。

西洋医学から見た「アトピー性皮膚炎」

西洋医学によるアトピー性皮膚炎の治療は皮膚の炎症に対してはステロイド剤や免疫力を抑える薬などが、また、かゆみには抗ヒスタミン薬を合わせて使うことが一般的なのは皆さんもご存じのことと思います。それに加えて近年では既存の治療薬では効果が不十分な方に対して注射剤も導入され、治療法の進展が図られています。

中医学から見た「アトピー性皮膚炎」

さて、中医学の観点から「アトピー性皮膚炎」を見ると、「気」「血」「津液」の乱れが複合的に絡み合っていることが多く見られ、同じアトピー性皮膚炎といっても体の中の状態は異なることがよく見られます。

中医学では、皮膚(肌肉・きにく)は内臓の状態を表す鏡として考えられており、そこに不調が出ると言うことは内臓のどこかに不調があると考えられます。そのため、アトピー性皮膚炎の治療はまずは内臓の不調を改善することから始まります。それによって最終的には皮膚の症状を根本的に改善することを目標とします。

ここではまずアトピー性皮膚炎のタイプを考えてみます。大きくは虚証によって症状が出るタイプ。そして、体内に熱がこもることなどにより生じるタイプになります。これら二つの症状も虚証がひどくなれば体内に熱を生じることもあるので、必ずしもどちらかに分かれる訳ではありませんが、便宜上この2つに分けて考えてみます。

「虚証」タイプのアトピー性皮膚炎

まず、虚証タイプの場合ですが、血虚、陰虚、脾虚などが主な原因として上げられます。血虚タイプの人は血が不足しているため、貧血や立ちくらみ、冷えなどがおこり、肌の潤いがなくなり乾燥しがちになります。体に栄養分を運ぶ血が不足しているので、皮膚の状態が改善しにくく、乾燥状態がひどくなりアトピー性皮膚炎に移行してしまうと考えられます。また、陰虚タイプの人も血虚タイプの人同様に体内の津液、血が不足している状態なので、同じように皮膚の乾燥が起こり、それがアトピー性皮膚炎につながっていきます。陰虚タイプの人はそれに加え体内に虚熱が発生するため、さらに体内環境は悪くなってので、血虚の人以上に皮膚の乾燥が進んでしまうことになります。また、脾虚のタイプの場合、胃腸が弱っているため、消化吸収がうまくできずエネルギーが不足し皮膚の新陳代謝がうまくいかないことなどが引き金になります。つまり、胃腸の機能が低下することで、栄養が吸収されず体全体の不調を引き起こし、それにより、皮膚の機能が低下して様々な外部からの刺激に体が対応できないことなどが原因と考えられます。

では、これらのタイプの人たちはどのようなものを接種すればよいでしょうか。
血虚の人にお勧めの食べ物はなつめや胡桃、カボチャ、人参、ほうれん草など体を温める効果があるものがよいでしょう。生薬では枸杞子、黄精、当帰などがよいとされています。

陰虚の人は体内に熱を持っていることがしばしばみられるので、体を冷やす食べ物であるアスパラガスやオクラ、すいか、なし等がお勧めです。生薬では桑葉や麦門冬などがよいでしょう。

脾虚のひとは胃腸を整える山薬(やまいも)や生姜などをとるとよいでしょう。
また胃腸を補う処方の四君子湯、六君子湯、安中散などが適していると思われます。

「湿熱」「血熱」タイプのアトピー性皮膚炎

そして、もう一つの体内に熱がこもるタイプの人については、湿熱タイプと血熱タイプの人が考えられます。

湿熱タイプの人は身体の中に湿と熱がこもっていることによって症状が出てくるタイプで、水疱やじゅくじゅくしたような発疹が見られたりします。このタイプは体に水や湿が滞留しているため体が重だるい、むくみが出やすい、吹き出物が出やすいといった症状を抱える人も少なくありません。血熱タイプの人は、血中に熱がこもるので、夜寝ているときなどにかゆみが強くなることがよく見られます。このタイプは発熱や目の充血、イライラしやすいといった症状を抱える方が多くいます。

これらのタイプの人に対しては、基本的に体の熱をさまし、毒をだし、血行をよくすることが治療の主体になります。身体の中の熱を取るには夏に旬を迎えるような食べ物、例えばスイカやキュウリ、トマトなどがおすすめです。また皮膚の熱を冷ますには石膏を含む処方、白虎加黄蓮湯、白虎加人参湯、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、消風散などが適しています。

このように一口にアトピー性皮膚炎といっても主となる体質によって取るべきものが変わってくるので、患者さんの状態を聞きその状態を把握してみて下さい。

参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店

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河本 ちかこ
かわもと ちかこ

薬科大学を卒業後外資系企業にてMR、新製品企画部にて勤務。その後、企業の経営を学ぶべく大学院でMBAを取得する。MBA取得後は医薬品業界の市場分析などを執筆する傍ら薬膳アドバイザー、食育インストラクターなどの資格を取得。健康な体は日々の食事からをモットーに、現在は薬局薬剤師として勤務しながら中医学の見識を深めるために中国人医師のもとで勉学にいそしんでいる。

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