「多汗症」中医学からみるとどうなるの?
現在の日本では様々な疾患の病態、症状、薬の作用機序は西洋医学の観点からのアプローチがほとんどになっています。これらの病気を中医学の観点からアプローチするとどのように見えてくるのでしょうか。患者様への情報提供にお使い下さい。
西洋医学から見た「多汗症」
多汗症は近年内服薬や外用薬などが多数発売されていることもあり、治療のために皮膚科を来院する患者数が増えてきています。汗のでる状態や場所などにより、全身性多汗症と局所多汗症の二つに分けられ、また、それぞれ原因がわからない原発性と主たる原因があるものに分けられます。患者さんに症状や部位によって外用剤、内服薬、局所注射療法を使い分けたり、併用したりして治療することになります。
中医学から見た「多汗症」
では、中医学からみたら「多汗症」はどのような症状なのでしょうか。
「多汗症」は陰陽失調により、皮膚の毛孔の開合機能がうまく機能していない状態と捉えます。原因とは関係なく日中など活動している時間帯に多汗症の症状がでることを「自汗」といい、夜寝ている時間帯に多汗症の症状が現れることを「盗汗」と言います。
「自汗」の原因としては、気虚、血虚、湿、陽虚、痰などが考えられています。一方「盗汗」は血虚、陰虚が原因と考えられています。いずれにせよ外からの影響ではなく、体の内部の不調からこれらの症状が起こると考えられています。
本来汗は肺の宣発作用(広く発散させて行き渡らせる作用)の一つで、津液と血が皮膚を通して汗として排泄されて体温調節をおこなっています。津液と血は腎臓に貯蔵されている精、脾胃で飲食を消化したものからできていますが、これが何らかの原因でうまく調整ができなくなってしまします。その原因としては「肺気不足」「邪熱内蒸」「営衛不和」「陰虚火旺」「血虚気虧(けっきょきき)」などが考えられます。
「肺気不足」による多汗
「肺気不足」とは虚弱体質の状態や病気から回復している時期や慢性の咳症状によりこの状態になることがあります。状態としては肺が持つ皮膚や毛孔をつかさどる働きが低下してしまい、多汗の症状になります。
このタイプの人は動くと汗がひどくなったり、顔色などが悪くなったりしやすい傾向があります。体を補うことが症状改善に役に立つので、人参や山薬、大棗、黄耆などが処方に入っているものが適しています。「黄耆建中湯」などを服用するか、山芋や米、栗などを食べるようにするとよいと言われています。
「邪熱内蒸」による多汗
「邪熱内蒸」は感情がコントロールできないことなどにより肝気が疏泄できなくなり体内に熱を生じます。この熱を発散するために汗がでる状態になります。
このタイプの人は体が熱く、汗が匂いやすい人が当てはまります。また、抑うつ症状がある人や尿の色が濃いなどの症状が出る人も多い傾向があります。このタイプは体の熱を取ることが大切になので、菊花、薄荷などを取ることを心がけましょう。
「営衛不和」による多汗
「営衛不和」の状態は虚弱体質だったり、よく寝られない状態が長く続いたりするとなりやすくなります。これにより陰陽のバランスが崩れていまい、衛気の体を守る機能が働きにくくなり、汗の症状が出ます。
このタイプの人は悪寒や寒気が出てくることがあります。「桂枝湯」などで営気を養ってあげると症状が和らぎます。また、食べ物では生姜や蜂蜜を取るとよいでしょう。
「陰虚火旺」による多汗
「陰虚火旺」は過労や熱病から回復している時期に体内の陰液が不足してしまい、虚熱が生じてしまう状態のことをいいます。この熱を発散するために汗が出やすくなってしまいます。このタイプは顔が赤く、口の中が乾くなどの症状がよく見られます。滋養して、熱を冷ますことで症状が改善することがあります。百合根などで体を潤すことを心がけるとよいでしょう。
「血虚気虧」による多汗
「血虚気虧(けっきょきき)」は喀血、嘔血、血便、けがなどが原因で気虚の状態になり発汗異常になります。寝付きが悪い、顔色が白いといったタイプの人に当てはまりやすい傾向があります。このタイプの人も体を養うことを中心に考えた処方、食べ物を選ぶ方がよいでしょう。特に当帰と黄耆を取ると養生できます。
「自汗」が長期に及ぶと陰液を消耗してしまい「盗汗」の症状が出てきます。また、「盗汗」の状態が長くなると陽気を消耗してしまい「自汗」の症状が出てきますので、なるべく早くにどのタイプに分類されるかを判断して対応するのがよいと思われます。どのタイプでも体を養生することが大切ですので、黄耆、当帰、山薬などを取るようにしましょう。
参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
ほか