服薬指導にも生かせる「中医学から見る疾患」

更新日: 2023年2月11日 河本 ちかこ

「貧血」中医学からみるとどうなるの?

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西洋医学から見た「貧血」

「貧血」とは血液中のヘモグロビンが正常よりも少ない状態のことをいい、よく見られる症状としては、めまい、立ちくらみ、頭痛、頭重感、耳鳴り、顔色や唇の色が悪い、動悸、息切れ、むくみ、疲れやすさなどがあります。

原因によって鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血などにわけられますが、もっとも頻度が高いのが「鉄欠乏性貧血」です。その「鉄欠乏性貧血」の原因として考えられることは、月経過多や慢性の出血性疾患、食生活のみだれ、長時間の激しいスポーツなどがあげられます。治療法としては、食生活や生活の改善をしながら鉄剤の服用が一般的です。

中医学から見た「貧血」

一方、中医学では、貧血の多くは「血虚」の状態や「気虚」状態など体が「虚」の状態になっていることが原因と捉えます。患者の状態によってどのような「虚」が原因かを見定め治療を行っていきます。従って「血」が不足しているだけではなく、脾胃の働きがよくない、腎が弱っている、肝の造血機能が低下しているといったことも貧血状態を引き起こすと考えられているのです。

「心血虚」の貧血

具体的には「貧血」は患者の状態によって「心血虚」「肝血虚」「腎陰虚」「気血両虚」「腎陽虚」に大きく分けることができます。

「心血虚」とは「心」の神や血脈をつかさどる機能に異常が生じている状態のことを言います。血流の不足や血液成分が薄いといった状態だけではなく、心機能低下などにより栄養を適切に運ぶことができず、精神的な症状を呈することもあります。このタイプの人は心悸、めまい、不眠、健忘を訴える人がよくみられます。また、顔色の白っぽい人が多いことも特徴です。このタイプの人は血を養い、精神安定を図ることを中心に考えると症状が安定します。食べ物では竜眼肉、ライチ、落花生、百合などが安心作用を持っているので、積極的に取るとよいでしょう。また漢方では「加味帰脾湯」がよく用いられます。こちらは精神的に不安定なひと、血色が悪い人などの貧血症状に用いられる処方で、病後の衰弱時などにも使うことができます。

「肝血虚」の貧血

「肝血虚」とは出血や慢性病、疲れなどにより体力が消耗しており、肝血が不足し、肝の機能がうまく働かない状態のことをいいます。このタイプの人は緊張しがちで爪の色が薄い、耳鳴りや目のかすみ、めまいなどの症状を伴う人が多く見られます。こちらもまずは血を養うことが大切で、さらに肝を労るものを取ることで状態が安定してきます。食べ物では豚のレバーやぶどう、ライチなどがよいとされています。また、漢方では「四物湯」がよく用いられます。

「腎陰虚」の貧血

「腎陰虚」とは「腎」の陰液が不足した状態のことをいいます。糖尿病などの慢性疾患や神経系の病気のひとなどがこちらに分類されることが多くあります。このタイプの人は貧血症状に加えてのぼせや手足のほてりなどをよく訴える傾向があります。また足腰に力が入らなかったり、痩せていたり、尿が黄色い、頬が赤いなどの状態も見られます。この状態のひとは気、血、津液が不足しているので、これらを補うことで症状が改善します。食べ物では松の実、黒ごま、肉類など、枸杞の実、百合などを積極的にとるとよいでしょう。処方では「六味地黄丸」がよく用いられます。

「気血両虚」の貧血

「気血両虚」とは「気虚」と「血虚」の両方が同時に起こっている状態です。このタイプの人は息切れしやすく、汗をかきやすい、疲れやすい、声が小さいなどといった状態が多く見られます。このタイプの人は気を補った上で血を養うものも積極的に取るといいでしょう。食べ物では穀類、山芋(山薬)、なつめ、肉類がお勧めです。また、漢方では「帰脾湯」がよく用いられます。

「腎陽虚」の貧血

ほかにも「腎陽虚」の人も貧血症状を見せる時があります。このタイプは腎の陽気が不足している状態で、貧血の状態が繰り返される、あるいはなかなか改善しないといった状態の人や冷え性の人がこの状態にあたります。このタイプは骨髄の造血作用が衰えることなどが引き金になって貧血を起こしています。体を温める食べ物、栗や羊肉、胡桃、にらなどを取るとよいでしょう。また、漢方では「八味地黄丸」「牛車腎気丸」がよく用いられます。

ほかにも貧血全般に比較的多く用いられるのは「十全大補湯」ですが、これは体力がない人に対しからだの機能を補うことで貧血症状を改善します。またほかに貧血に用いられる処方として「当帰芍薬散」がありますが、これは冷え性でかつ貧血症状がある人に使う処方になります。

このようにタイプによって摂取したらよい食材、薬がことなるので、患者さんの状態をしっかり聞き取り適切なアドバイスをよろしくお願いします。

参考文献
「漢方294処方生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
ほか

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河本 ちかこ
かわもと ちかこ

薬科大学を卒業後外資系企業にてMR、新製品企画部にて勤務。その後、企業の経営を学ぶべく大学院でMBAを取得する。MBA取得後は医薬品業界の市場分析などを執筆する傍ら薬膳アドバイザー、食育インストラクターなどの資格を取得。健康な体は日々の食事からをモットーに、現在は薬局薬剤師として勤務しながら中医学の見識を深めるために中国人医師のもとで勉学にいそしんでいる。

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