薬学部の学費は高い?私立と国公立の違いや必要なお金を解説
薬剤師は医療の現場で重要な役割を果たす専門職であり、資格を活かして長く働けると人気があります。しかし、薬剤師になるためには6年制の薬学部を卒業し、国家試験に合格する必要があります。
薬学部は医学部と同様に学費が高額なイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。
この記事では、薬剤師を目指す際に直面する学費の問題に焦点を当てて解説します。
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薬剤師になるには
薬剤師になるためには、6年制の薬学部を卒業し、薬剤師国家試験に合格する必要があります。4年制の薬学部もありますが、薬剤師国家試験の受験資格が得られないため、薬剤師になることはできません。
私立大学の薬学部の学費はいくらかかる?
医学部や薬学部は学費が高いというイメージがあります。
では、薬学部の学費はどのくらいなのかを確認してみましょう。
まず、薬学部の数が多い私立大学の学費からみていきます。
私立大学の薬学部の学費の平均
文部科学省の調査によると、令和5年度の私立大学の初年度学生納付金の平均金額は以下のようになっています。
| 授業料 | 入学金 | 施設設備費 | 合計 | |
| 薬学部 | 1,433,292 | 332,681 | 310,097 | 2,076,070 |
単位:円
出典:令和5年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金等平均額(定員1人当たり) /文部科学省
薬学部の入学金は約33万円、学費は約143万円、施設設備費は約31万円となっています。
初年度納付金は約208万円で、6年間の総額は約1077万円となっています。
ただし、大学によって学費は異なり、より高額な大学も存在します。
他学部と比べて薬学部の学費は高い?
薬学部では、6年間で1000万円前後の学費が必要なことがわかりました。
では、他の学部と比べて薬学部の学費はどのくらい高いのでしょうか。
同じ調査でほかの学部と薬学部の学費を比べてみましょう。
| 授業料 | 入学金 | 施設設備費 | 合計 | |
| 薬学部 | 1,433,292 | 332,681 | 310,097 | 2,076,070 |
| 医学部 | 2,656,053 | 1,360,098 | 1,063,284 | 5,079,434 |
| 理科系平均 | 1,162,738 | 234,756 | 132,956 | 1,530,451 |
| 文化系平均 | 827,135 | 223,867 | 143,838 | 1,194,841 |
2025年2月時点・薬剤師コラム調べ
医学部の学費は6年間で2000万円を超え、別格であるといえます。
それに比べれば薬学部の学費は低く、文系学部よりは高いですが、ほかの理系学部と比べるとやや高い程度になっています。
ただ、薬学部は6年制なので、4年制の学部よりもかかる学費の総額は多くなります。
私立大学と国公立大学の学費はどのくらい違う?
では、学費が安いというイメージのある国公立大学と私立大学の学費はどのくらいちがうのでしょうか。
国公立大学の学費はどの学部でも基本的に同額です。文系・理系や、医学部、薬学部だからという理由で高くなることはありません。
実際は教材費や実習費などが学費以外に必要となりますが、私立大学ほどかかる学費に差が出るわけではありません。
では、国公立大学の学費について詳しくみていきましょう。
国立大学の学費
国立大学の薬学部の学費は、6年間で約350万円です。
国立大学の学費は、文部科学省の「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」で標準額が定められています。
令和6年の学費は以下のようになっています。
入学料 28万2,000円
年間授業料 53万5,800円
参照:国立大学等の授業料その他の費用に関する省令 /文部科学省
この学費は基本的にはどの国立大学でも一律です。また、国公立大学では、施設費は基本的に学費(授業料や入学金)に含まれています。つまり、別途施設費を請求されることはありません。
私立大学の薬学部と比較すると学費は3分の1程度となります。
国立大学は薬学部以外にも理系の学部があり、キャンパスや研究施設も充実しています。
経済的な負担を抑えつつ、質の高い教育を受けることができるのが魅力です。
公立大学の学費
公立大学の学費は、国立大学の標準額を基準として決定されることが多く、6年間で340〜400万円前後です。
公立大学は自治体の支援を受けて運営されているため、地元出身者とそれ以外の学生で学費が異なっていることが特徴です。
地元に公立の薬学部がある場合、その大学に入学すればより学費を抑えることができます。
薬学部で授業料以外にかかるお金
薬学部で授業料以外にかかるお金にはどのようなものがあるのでしょうか。
設備費・設備維持費
設備費とは、学校の施設や設備を拡充・維持していくための費用です。
薬学部では、通常の校舎や教室だけでなく、化学実験や動物実験を行うための実験設備が必要です。そのため、設備費も高額になります。
教育充実費・実験実習費
教育充実費や実験実習費を徴収している私立大学もあります。こちらの費用も学校の設備を拡充したり、維持したりするために使われます。大学によって、設備費のみ徴収、設備費と教育充実費の両方を徴収のように、名称や徴収される費用には違いがありますが、使用される用途は共通しています。
実習費
薬学部では5年生で病院や薬局での実習が必須となっています。実習の際には、実習費も必要です。
実習は「薬局実習(11週)」と「病院実習(11週)」に分けて行われます。通常、11週間の実習で平均約30万円かかり、2回の実習で合計約60万円となります。
この費用は学費に含まれているという位置づけで、学生が負担する必要はない大学も多くなっています。
そのほかにも教科書・参考書代や白衣購入費などがかかります。国家試験などへの対策費が必要となる大学もあります。
大学ごとに、学費の名称や費用は違いがあるので、きちんと確認するようにしましょう。
薬学部の学費が高い理由
このように、薬学部にはいろいろな名称で費用がかかります。
薬剤師の学費が高いのはなぜでしょうか。ここからその理由を確認してみましょう。
6年制である
薬学部の学費が高くなる理由として、まず6年間の在学期間があげられます。これは、4年制の学部と比較して2年間長く、その分だけ学費が高くなります。
以前は薬学部も4年制で薬剤師免許をとることができましたが、現在は国家試験を受けるためには6年制が必須となりました。6年制が導入された理由は、医療の高度化に合わせて、薬剤師にもより高度なスキルが要求されるようになったためです。
専門的な教育内容
薬学部の教育内容は非常に専門的で、国家試験に合格するためには専門的な知識と技能を身につけなければなりません。薬学教育モデル・コアカリキュラムに基づいた体系的な教育を行うために、多くの教育リソースが必要となります。
専門性の高い教員を確保して教育環境を充実させるために、学費も高くなってしまうのです。
高度な実験設備の必要性
薬学部では化学実験や動物実験などを行うために実験設備が必要です。最先端の薬学研究を行うためには、最先端の分析機器や測定装置などを揃えなければなりません。
そのような設備は工学のため、学費に反映されるのです。
長期の実習期間
薬学部の特徴的な点として、長期の実習期間があります。実習費は大学負担となっている大学が多いですが、これも学費を押し上げる要因となっています。
薬学部の学費を抑える方法
このように、私立の薬学部に入ると、学費は高額になります。
薬学部の学費をできるだけ抑えるには、どのような方法があるのでしょうか。
奨学金を利用する
日本学生支援機構の奨学金や、大学独自の奨学金制度を利用することで、学費負担を軽減できます。
日本学生支援機構の奨学金は、経済的理由で学業継続が困難な学生を支援する制度で、「給付型奨学金」と「貸与型奨学金」の2種類があります。
給付型奨学金は返還不要で、住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯の学生が対象です。支援額は進学先や通学方法によって異なります。たとえば、私立大学に自宅外から通う場合の支給額は月額75,800円です。入学金や授業料の減免も受けられます。
貸与型奨学金は返還が必要で、「第一種(無利子)」と「第二種(有利子)」に分かれます。第一種は成績基準が高く、条件により違いがありますが月額2万円〜6万4000円から選択可能です。第二種は基準が緩やかで、月額2万円〜12万円の範囲で選べます。
貸与型の奨学金を借りた場合は、働き始めたあとに返済しなければなりません。奨学金を借りる際には、返済のことも考えて計画を立てるようにしましょう。
また、大学でもさまざまな奨学金を用意して、学生を支援しています。奨学金の金額や、受けられる条件は大学によって違うので、ホームページできちんと確認しておきましょう。
特待生になる
多くの大学では、成績優秀者に対して授業料の一部または全額を免除する特待生制度を設けています。
特待生になるためには、成績優秀者であることが条件です。
特待生の判定が行われるのは、入学時と入学後のケースがあります。
まず、入学時の成績の上位者が特待生に選ばれます。入学後6年間の学費免除という大学もあります。
また、入学後に頑張って優秀な成績を収め、特待生となるケースもあります。この場合は、毎年成績の条件クリアが求められることが多いようです。
【Q&A】薬学部の学費についての疑問
このように高額となりがちな薬学部の学費について、よくある質問に答えます。
仕事との両立は可能?
社会人が薬剤師になりたいと考えた場合、仕事をしながら薬学部に通いたいと考えるかもしれません。
しかし、薬学部はフルタイムの学部のみで、夜間や通信制の薬学部はありません。
また、薬学部での勉強はハードで、実験や実習もあります。
社会人として働きながら薬学部に通うのは難しく、仕事を辞めて学業に専念する必要があります。
アルバイトはできる?
他学部の大学生のように、アルバイトをすることは可能です。夏休みなどの長期休暇中はアルバイトをする学生も多いです。
しかし、カリキュラムが厳しいため、アルバイトの時間を確保するのが難しいこともあります。
また、アルバイトが忙しくて学業がおろそかになっては本末転倒です。学業の負担にならない内容や時間帯の仕事を選びましょう。
薬剤師になれば学費の元は取れる?
厚生労働省の調査によると、薬剤師の平均年収は583万円で、一般労働者の312万円より200万円以上高くなっています。
参照:賃金構造基本統計調査/ 令和4年賃金構造基本統計調査 /厚生労働省
※薬剤師の平均年収は、厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和4年賃金構造基本統計調査」の、「きまって支給する現金給与額」12か月分に、「年間賞与その他特別給与額」を足した金額を平均年収として算出
※一般労働者の平均年収は、厚生労働省「付表2 一般労働者の性、雇用形態別賃金及び雇用形態間賃金格差の推移/令和4年賃金構造基本統計調査の概況」より、男女計の正社員・正職員の賃金に12を掛けた数字を平均年収としている
また、薬剤師免許さえあれば、定年関係なく長く働き続けることができます。パート勤務でも、一般より高い時給で働くことが可能です。
そのため、長期的に見れば学費の元を取ることは十分可能です。ただし、個人の能力や勤務先によって収入は大きく異なります。
ただ、社会人から仕事を辞めて薬剤師になる場合は、薬学部に通う6年間で稼げるはずだった収入も考慮に入れなければなりません。状況は人によって異なるので、自分の場合はどうなるのか、きちんと考える必要があります。
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まとめ
薬剤師を目指す場合、高額な学費と6年間の在学期間が必要となります。
私立大学の薬学部では、6年間で約1000万円の学費がかかり、これに生活費や通学費用などが加わります。国公立大学は学費は安いですが、入学のハードルは高くなっています。
学費を抑えるためには、奨学金の利用や特待生制度の活用を考えてみましょう。
長期的なキャリアプランと経済的な状況を慎重に見極めて、自分に適した道を選択することが大切です。
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