自衛隊勤務の薬剤師「薬剤官」になるための条件や仕事内容や年収について
自衛隊勤務の薬剤師「薬剤官」という職種があるのをご存知でしょうか?薬剤師の専門性を活かしながら国の安全に貢献できる貴重な職業です。
この記事では、薬剤官の仕事内容や年収、仕事に就く方法などについて詳しく解説します。
ご紹介します
自衛隊薬剤師「薬剤官」とは
薬剤官は、自衛隊に所属する薬剤師のことを指します。
一般の薬剤師業務に加え、自衛隊員としての役割も担う、二刀流の職業といえます。自衛隊の中で薬剤師としての専門知識を活かしながら、国防や災害支援などの重要な任務にも携わります。
薬剤官の主な役割は、自衛隊員の健康管理、医薬品の管理・提供、そして衛生面の管理です。自衛隊病院や駐屯地の医務室での業務、災害派遣時の医療支援、さらには国際平和協力活動など、幅広い場面で活躍します。
薬剤官は、自衛隊の衛生分野における幹部自衛官として位置づけられています。つまり、薬剤師としての専門性を持ちながら、自衛隊の幹部としての役割も担うのです。
薬剤官は、「薬剤科幹部候補生」として自衛隊に入隊し、1年間の教育を受けた後、陸・海・空いずれかの自衛隊の衛生分野の幹部自衛官となります。このため、薬剤師としての業務だけでなく、部隊の指揮や指揮官の補佐など、幹部自衛官としての任務も求められます。
薬剤官の仕事内容
薬剤官の仕事は、勤務場所によって違いがあります。
薬剤官の主な勤務場所は、病院勤務と駐屯地勤務です。病院と駐屯地で、仕事の内容はどのような違いがあるのでしょうか。
薬剤官の主要な勤務地は、全国に点在する自衛隊病院です。
自衛隊中央病院および15ヵ所の自衛隊地区病院があり、ここでは自衛隊員とその家族、一部の病院では一般患者の診療も行っています。
仕事の内容は、調剤、服薬指導、注射薬調整、DI業務、病棟業務などで、一般の病院と同じです。また、自衛隊員の健康診断や身体検査なども担当します。
一方の駐屯地勤務は、薬剤官ならではの職場といえます。
各地の駐屯地や基地で、自衛隊員の日常的な健康管理やケガをしたときの応急処置などを担当します。
野外での病院開設に携わる衛生部隊として働く可能性もあります。災害派遣や国際平和協力活動などの際に、現地で医療支援を行います。
また、海上自衛隊の薬剤官の場合、艦艇での勤務もあります。航海中の自衛隊員の健康管理や、寄港地での医薬品調達などを行います。
そのほかに、医薬品や衛生材料の補給を行う部署で、自衛隊全体の医療物資の調達・管理・供給を担当したり、衛生学校の教官として勤務したりすることもあります。ここでは後進の育成や医療技術の研究・開発に携わります。
このように、薬剤官の勤務場所は多様で、配属先によって求められる業務内容も変化します。仕事の内容は、薬剤師としての調剤や服薬指導だけにとどまりません。そのため、柔軟な対応力と幅広い知識が求められる職種といえます。
薬剤官の勤務条件
薬剤官の勤務時間は、一般的な公務員と同じく基本的に8:15〜17:00で、1日7時間45分です。週休2日制で祝日も休みです。
ただ、災害派遣や国際平和協力活動などの特殊な任務に参加する場合、通常の勤務時間とは異なる不規則な勤務になることがあります。
自衛隊員は国家公務員としての安定した身分が保障されており、また、厳しい仕事へのフォローという面もあって、福利厚生は充実しています。
ほかの公務員と同様に、年末年始休暇、夏季休暇、年次有給休暇や、健康保険や年金制度、各種貯金・貸付制度、住宅手当などの手当が整備されています。
さらに、駐屯地内の食堂や売店、理容室などの施設利用や、防衛省共済組合施設、提携リゾート施設の優待利用も可能です
自衛隊員であるため、定期的に転勤があります。自衛隊中央病院や全国の自衛隊地区病院、各駐屯地の医務室など、赴任する勤務地は全国となります。
薬剤官になるには
薬剤官になるためには、まず薬剤師の国家資格を取得しなければなりません。そのうえで、自衛隊の薬剤科幹部候補生として採用される必要があります。
薬剤官になるために必要な条件
薬剤官になるための主な条件は以下の通りです。
- 薬剤師の国家資格を有していること
- 日本国籍を有していること
- 年齢条件を満たしていること(20歳以上28歳未満)
- 自衛隊の採用試験に合格すること
- 身体検査に合格すること
これらの条件を満たしていれば、薬剤官を目指すことができます。ただし、採用人数が限られているため、非常に狭き門となっています。
薬剤官になるまでのステップ
薬剤官になるためには、採用試験を受けて合格したあとに自衛隊の幹部候補生としての訓練を受けることになります。
薬剤官になるまでのステップは、以下のとおりです。
1.薬学部を卒業し、薬剤師国家試験に合格する
薬剤師国家試験に合格し、資格を取得します。
2.自衛隊の薬剤科幹部候補生採用試験に応募する
応募資格は、20歳以上28歳未満です。
募集は毎年3〜5月に行われます。大学卒業見込、薬剤師免許取得見込みでも応募できます。
応募の際に、陸・海・空いずれかの自衛隊を選んで応募する必要があります。
3.採用試験を受験する
採用試験は第1回と第2回の2度実施されます。それぞれ1次試験と2次試験に分かれています。
1次試験(筆記試験):一般教養と薬学の専門分野
2次試験 :小論文試験、口述試験、身体検査
2次試験では身体検査があり、自衛隊員として任務を全うできる身体機能を備えているかが確認されます。試験が優秀でも、身体検査で不合格になる可能性があることには注意が必要です。
合格発表は第1回が7月頃、第2回が9月頃となります。
4.薬剤科幹部候補生として自衛隊に入隊
入隊は翌年の3月中旬〜4月上旬です。
5.薬剤科幹部候補生学校で幹部候補生教育を受ける
陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊に配属され、幹部候補生としての教育を受けます。
寮生活を送りながら、約1年かけて、自衛隊の幹部として必要とされる知識や技能を学びます。
その内容は、防衛基礎学、戦術、戦史、服務、防衛教養などに加えて戦技訓練、体育、実技などもあります。
海上自衛隊では、さらに約6ヵ月間の海上実習があり、基本訓練を受けることになります。
6.実務研修を行う
薬剤科幹部候補生学校修了後は、自衛隊中央病院などで約1年間の実務研修が行われます。
7.薬剤官として任官し、各地の部隊などに赴任する
幹部候補生としての教育終了後に、薬剤官として各地に赴任し、勤務開始となります。
教育修了後は、薬剤科幹部候補生は2等陸・海・空尉に昇任、幹部自衛官となります。
参照:自衛隊幹部候補生 /自衛隊
参照:令和5年度自衛隊歯科・薬剤科幹部候補生採用要項 /防衛省
薬剤官の年収
薬剤官の年収は、一般の薬剤師と比較してもかなり高水準であることが特徴です。階級や経験年数によって異なりますが、およそ400万円から820万円程度と言われています。
令和6年の初任給は26万2200円です。これに各種手当やボーナスが加わります。ボーナスは年2回(6月と12月)支給されます。
自衛隊員の給与は「防衛省の職員の給与等に関する法律」で規定されており、隊員の区分・階級・職務に応じて支給されます。昇給は年1回あり、個々の経験や実績なども加味されます。
自衛隊は、階級を上げることでより高い待遇を受けられるシステムになっています。
幹部自衛官である薬剤官は年収アップの可能性が高いといえます。
参照:自衛隊幹部候補生 /自衛隊
参照:自衛官のお給料について /自衛隊帯広地方協力本部
薬剤官に向いている人
薬剤官は、通常の薬剤師業務に加えて自衛隊員としての役割も担う特殊な職業です。そのため、以下のような特性を持つ人に向いているといえます。
- 薬剤師としての専門性を活かしつつ、国防や災害支援に貢献したい人
- 体力があり、規律正しい生活ができる人
- チームワークを重視し、協調性がある人
- ストレス耐性が高く、緊急時にも冷静に対応できる人
- 新しい環境や挑戦を恐れない人
- 幹部自衛官としてリーダーシップを発揮できる人
また、自衛隊の理念や使命に共感できることも重要です。単に高収入を求めるだけでなく、国の安全や国民の生命を守るという自衛隊の使命に共感し、それに貢献したいという強い意志を持っている人が向いていると言えるでしょう。
転勤の可能性があることや、時には不規則な勤務になる可能性もあるため、柔軟性と適応力も求められます。
しかし、これらの条件を満たせば、薬剤師としての専門性を活かしながら、通常の薬局や病院では経験できない幅広い業務に携わることができます。
自衛隊で薬剤師資格が活かせるもう一つの職種「防衛技官」
自衛隊で薬剤師として働く方法は、薬剤官だけではありません。もう一つの選択肢として「防衛技官」という道があります。
防衛技官は、自衛隊病院や基地の医務室などで欠員が出た場合に募集がかけられ、そこで勤務します。
応募資格があるのは日本国籍であり、薬剤師免許を持つ者です。自衛隊の採用試験を受ける必要はありません。ただし、禁固以上の刑に処せられている人などは応募できません。
募集人数は少ないので、こまめに情報をチェックする必要があります。
防衛技官は自衛官ではないため、災害派遣や国際平和協力活動などの任務には直接参加しません。また、転勤の可能性も薬剤官と比べて低くなります。
薬剤官に転職するには
すでに薬剤師として働いている人が薬剤官に転職することは可能です。ただし、いくつかの注意点があります。
年齢制限
薬剤科幹部候補生の採用には年齢制限があり、20歳以上28歳未満とされています。
薬剤師は6年制の大学卒業時に24歳となっているので、チャレンジできる期間が短いことに注意が必要です。
採用試験
転職の場合も、新卒と同様に先ほど解説した採用試験を受ける必要があります。
身体条件
自衛官として活動するためには、採用試験に合格する能力とともに一定の身体条件を満たす必要があります。
キャリアの変更
薬剤官になることは、単に薬剤師として働く職場の変更にとどまりません。自衛隊員としての任務や責任が伴うため、自分の意志を確認して準備することが大切です。
薬剤官への転職を考えている薬剤師の方は、これらの点を十分に理解した上で検討することが重要です。
転職活動を始める際には、防衛省や自衛隊の採用情報を定期的にチェックするとともに、日本全国にある地方協力本部のカレッジリクルーターに相談することをおすすめします。
カレッジリクルーターとは、幹部自衛官を希望する人からの質問や相談を受ける自衛官のことです。
参照:カレッジリクルーターの紹介 /防衛省・自衛隊
ご紹介します
まとめ
薬剤官は、薬剤師としての専門性を活かしながら国の安全に貢献できる、やりがいのある職業です。
仕事に就くためには、採用試験を受験して合格しなければなりません。
合格後に幹部候補生教育を受け、各部署に配属されます。
国家公務員としての安定した身分と福利厚生があり、年収は比較的高水準です。
調剤などの通常の薬剤師としての業務もありますが、災害派遣や国際平和協力活動など、幅広い経験が可能です。
一方で、転勤の可能性や不規則な勤務など、一般の薬剤師とは異なることもあります。
薬剤官という選択肢は、薬剤師としてのスキルを活かしつつ、より広い視野で社会に貢献したいと考える方にとって、魅力的なキャリアパスとなるでしょう。興味のある方はしっかり準備して臨むようにしましょう。
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