薬剤師の安定性が揺らいでるって本当? 今後の見通しと対策を解説
これまで薬剤師は安定した職業の代表だと思われてきました。しかし、薬剤師の供給過剰やAIの発展によって薬剤師の仕事はなくなるかもしれないと聞き、「本当に今のままで大丈夫なのだろうか?」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。薬剤師が安定しているというイメージは過去のものとなってしまうのでしょうか。
今回は、薬剤師についてよく語られる「安定」について、最新の業界動向をふまえながら深掘りしていきます。
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薬剤師の安定性に黄色信号?
これまで薬剤師は「国家資格」「医療職」「高収入」という三拍子がそろった、非常に安定した職業とされてきました。特に女性にとっては、「薬剤師免許さえあれば、一生仕事に困ることはない」という頼りになる職業でした。しかし、現在はその安定性が揺らいでいるのではないかとも言われています。
まずは、なぜそのような疑問が生まれているのかを検証するために、薬剤師業界の現状を確認してみましょう。
「薬剤師免許があれば一生安心」という神話が揺らいでいる
これまでは薬剤師免許があれば一生仕事に困ることはないと言われてきました。その安定性を支えてきたのは、薬剤師の求人が圧倒的な「売り手市場」であることでした。しかし、現在その前提条件が崩れつつあります。
大きな要因の一つは、薬局経営の厳格化です。相次ぐ調剤報酬の引き下げにより、門前薬局のように「特定の病院の処方箋を待つだけ」のビジネスモデルは限界を迎えています。薬局の経営体力が削られれば、当然そこで働く薬剤師の雇用条件や給与水準にも影響が及びます。
また、以前は「有資格者であること」自体に高い価値がありましたが、現在は「どのようなスキルを持つ薬剤師か」が問われる時代へと移行しています。
薬剤師は飽和状態になる?
厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の推計によれば、早ければ2020年代後半から2030年代にかけて、薬剤師の供給数が需要数を上回る(=飽和する)可能性があると指摘されています。
参考:薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ(令和3年6月25日)
薬剤師は基本的にいつも人手不足だと言われてきました。その対策としての薬学部新設ラッシュにより、毎年約1万人の新人薬剤師が誕生しています。一方で、人口減少とオンライン診療・服薬指導の普及により、薬剤師のニーズは減少傾向にあります。
このような状況が相まって、全体として必要な薬局数や薬剤師数は適正化の方向に進んでいます。ただ、今後もこの流れが続けば、薬剤師の数が供給過剰になるのではないかと懸念されているのです。
ただし、これは薬剤師が全く不要になるという意味ではありません。これまでのような、薬剤師免許さえあれば、誰でも全国どこでも高待遇で仕事に就くことができるというフェーズが終わり、住んでいる地域や薬剤師個人の職能によって仕事につけるかどうかの格差が広がることを示唆しているといえるでしょう。
AIに薬剤師の仕事が代替される?
「AIが薬剤師の仕事を奪う」という議論もよく耳にするようになりました。
しかし、この点についても、AIが薬剤師全体の仕事を代替するということではなく、正確には対物業務の自動化が進むということです。
- ピッキング、監査、散剤・水剤の調剤
- 薬歴のドラフト作成
- 相互作用の自動チェック
このような作業はAIやロボティクスが得意とする分野です。これまでは「正確に調剤すること」が薬剤師の主業務であり、安定性の根源でした。しかし、この部分が自動化されることで、「作業員としての薬剤師」の価値は相対的に低下します。
逆に、患者さんの表情から不安をくみ取り、医師へ処方提案を行い、複雑な副作用マネジメントを行うといった感情や高度な判断が伴う業務は、AIには代替不可能な領域として残っていくでしょう。
これからも必要とされる薬剤師になるためには、AIでは代替できない能力を磨いていくことが大切になります。
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それでも「薬剤師が安定している」と言われる5つの理由
上記のように、薬剤師業界全体として不安な要素があることは否定できません。しかし、それでもなお薬剤師が依然として安定した職業であることに変わりはありません。その根拠となる5つのポイントについて解説します。
1. 求人倍率の高さ
現在、全職業の平均有効求人倍率が1.2〜1.3倍程度で推移する中、薬剤師の求人倍率は2.1倍と、依然として高い水準を維持しています。
特に薬剤師の少ない地方や在宅に注力している薬局では、いまだに深刻な人手不足が続いています。薬剤師の求人がなく仕事に困るという状況は、当面の間考えにくいでしょう。
2. 景気に左右されない「医療」というインフラ
一般企業であれば、不景気になればリストラや倒産のリスクが増大します。しかし、医療は生活に欠かせないインフラです。景気が悪くなったからといって病気治療をやめる人はいません。事実、リーマンショックやコロナ禍のときでも医療需要は継続しました。このように、医療業界は需要の変動が非常に小さいのが特徴です。
この不況への強さは医療業界、ひいては薬剤師最大の強みといえるでしょう。
3. 全国どこでも働ける
薬剤師免許は国家資格であり、日本全国どこへ行っても効力を発揮します。配偶者の転勤、親の介護、自身のライフスタイルの変化に合わせて、北は北海道から南は沖縄まで、住む場所を変えても即座に再就職できます。
サラリーマンの場合、会社や職種は都市部であれば様々な業界や職種があり、求人数も多いですが、地方に行くと企業や求人そのものがないということもよくあります。
全国どこでも、たとえ離島であっても求人があるということは、他職種から見れば驚異的な安定性だといえます。
4. 給与水準が高い
薬剤師の給与は初任給が高いのが大きな特徴です。一般的な会社員に比べても高い水準に設定されています。その後の昇給率が緩やかであるという課題はありますが、ベースとなる年収が高いため、生涯を通じて低収入となることはありません。
また、管理薬剤師への昇進やドラッグストア勤務などを選ぶことで、年収をアップすることができます。人手不足の地方で働けば、全国平均よりも高賃金が期待できます。
5. 高年齢になっても働ける
薬剤師の大きなメリットに、年齢を問わず働けることがあります。
たとえば、定年後も雇用延長だけでなく、自分の都合に合わせてパート・アルバイトとして働く口が豊富にあります。身体的な負荷も比較的低く、知識さえアップデートしていれば70代でも現役で活躍できる環境があります。豊富な経験は医療現場で重宝されることも多いでしょう。
このように長く働き続けられる点は、老後不安が広がる現代において最強の安定材料だといえます。
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【職種別】薬剤師の今後の安定性は?
ここまでみてきたように、まだまだ薬剤師は安定した職業です。一方で、働く場所によって、同じ薬剤師でも今後の安定性の見通しは異なります。ここでは、職種別に今後の動向をみていきましょう。
病院
安定性:高(ただし給与は控えめ)
病院薬剤師は、チーム医療の中核として専門性を発揮できるため、AI代替の波を受けにくい職種です。診療報酬でも「薬剤師の配置」が評価される傾向にあり、需要は底堅いといえます。
ただし、新卒に人気があるため初任給は抑えられ、その後のスピードも緩やかな傾向にあります。
調剤薬局
安定性:中(二極化が進行)
調剤薬局のなかでも、地域に根ざし、在宅医療や24時間対応を行っている薬局は今後も生き残ります。一方で、単なる門前業務のみで、かかりつけ機能を持たない薬局は経営難に陥るリスクがあります。
勤務先が地域に選ばれる薬局かどうかを見極める目が必要です。
ドラッグストア
安定性:高(企業の資本力が強み)
ドラッグストアは大手チェーンが市場を席巻しており、資本力による安定感は抜群です。
物販とのシナジーがあるため、調剤報酬改定のダメージを他事業でカバーできる強みがあります。ただし、年中無休のシフト制で、店舗運営やレジ打ち、品出しなど業務が多岐にわたるため、体力的なタフさが求められます。
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薬剤師が個人的に安定性を高めるためには
ここまで薬剤師業界の動向をみてきました。すぐに薬剤師の需要が減ることはありませんが、将来的には「薬剤師免許があれば職には困らない」という恵まれた状況は終わるかもしれません。これからは「薬剤師免許があるから安心」という他力本願な考えから、「自分に実力があるから安心」という自律的な姿勢へシフトする必要があります。
では、個人として安定性を高めるにはどのような行動をすればいいのでしょうか。
資格を取る
これからは何かしらの強みをもった薬剤師が生き残っていきやすいと考えられます。その際に、認定薬剤師や専門薬剤師の資格は、客観的なスキルの証明になります。また、常に学び続ける姿勢を持っているというアピールにもなるでしょう。
資格を取る際には、自分の経験との関連を考えながら、「外来がん化学療法特定薬剤師」や在宅医療関連の資格など、今後のニーズが高まる分野を攻めるのが得策です。
対人スキルを高める
AIがどんなに発展しても、病気の患者さんと関わっている以上、対人業務がなくなることはありません。これからも生き残っていくためには、対人スキルを高めることが欠かせないといえるでしょう。
これからの評価軸は「ミスなく調剤した」ことよりも、「患者さんを的確にサポートした」「医師から信頼されて疑義照会を受け入れられた」といった対人業務に移ります。コミュニケーション能力やコーチングのスキルは、AIにはまねできない一生モノの武器になります。
在宅医療に精通した薬剤師になる
国が推進する地域包括ケアシステムにおいて、住み慣れた地域で最期まで暮らすための在宅医療は重要な項目です。これからの薬剤師には、調剤室を飛び出し、患者さんの生活の場へ深く介入する姿勢が求められています。
単にお薬を届けるだけでなく、バイタルサインのチェックを通じて身体状況の変化をいち早く察知し、多職種連携の場で医師やケアマネジャーに対し、薬剤師の視点から積極的な処方提案を行う役割が期待されています。
また、居宅での高度な服薬管理や残薬調整、副作用モニタリングを完遂できる能力は、地域インフラとしての薬局の価値を決定づけます。こうした代えのきかない専門性を備えた薬剤師は、今後どの地域でも、そしてどのような時代背景においても、必要不可欠な存在として重宝され続けるでしょう。
さまざまな仕事を経験しておく
一つの薬局で長く働き、地域住民との信頼関係を深めることも素晴らしい選択です。しかし、若いときから戦略的に「病院」「調剤薬局」「ドラッグストア」という異なる環境を経験することは、自らのキャリアに多角的な視点をもたらします。
病院では高度な臨床知識とチーム医療を学び、ドラッグストアではセルフメディケーションや経営数値を意識した店舗運営を、そして調剤薬局では地域密着型の対人業務を磨く。このような異なる職場文化を肌で知ることは、それからのキャリアを広げるうえで大きな力になるでしょう。
また、チャンスがあれば、管理薬剤師などの管理職経験を積むこともおすすめです。単なるプレーヤーから組織を動かす視点を得ることができます。
40歳以上の転職では、管理職経験があるかどうかが高待遇の転職成功の鍵となります。採用側からすれば、売上管理やスタッフの育成、リスクマネジメントができる薬剤師は、単に調剤ができるだけの薬剤師よりもありがたい存在なのです。
このように、これからは自分の職歴についても戦略的な視点をもつことが大切になります。
公務員薬剤師をめざす
究極の安定を求めるなら、都道府県や市町村の職員、あるいは厚生労働省などの「公務員薬剤師」という選択肢は非常に有力です。民間企業のような倒産リスクや大きな給与カットとは無縁であり、福利厚生や身分の保障という点では、これ以上の安定はありません。
また、年功序列に基づいた着実な昇給や、育休・産休などの休暇制度が徹底されている点も大きな魅力です。一度採用されれば、定年までライフステージに合わせた働き方が約束されます。
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まとめ
薬剤師の安定性は、現在の時点で揺らいでいるわけではありません。しかし、その中身は確実に変化していますし、今後の見通しは楽観的なものではありません。
このような時代においては、かつてのような「資格という盾」に守られた受動的な安定から、自ら専門性を磨き、時代のニーズに適応し続ける積極的な姿勢が大切になります。
現状に安住せず、一歩先のスキルを身につけることが、あなた自身の一生の安心につながります。
重要なのは、「資格に守られる側」から「市場に選ばれる側」へ意識を変えることです。
変化を恐れず、専門性と対人力を磨き続ける人にとって、薬剤師はこれからも十分に「安定したキャリア」であり続けるでしょう。
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