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杉山医師の「薬剤師に伝えたい医師のトリセツ」

更新日: 2020年5月18日 杉山 陽一

「先生、ポリファーマシーって知ってます?」処方薬の減らし方

「先生、ポリファーマシーって知ってます?」処方薬の減らし方の画像

ポリファーマシーに関するまとめ記事はこちら

私の「King of Polypharmacy」

日頃からお世話になっている薬剤師の皆さんに送る「医師のトリセツ」。今回は皆さんだけでなく、私自身もどうにかならないのか、と思っているポリファーマシーの問題についてです。「薬のプロ」である薬剤師の皆さんにわざわざお伝えすることではないと思いますが、念のため。「ポリファーマシー」とは、「多くの」という意味をもつ接頭語の「Poly」と「Pharmacy」 という2つの言葉を組み合わせて作られた言葉であり、直訳すると「多くの調剤・薬局」などと訳せるでしょうか。転じて「多くの薬剤の併用によっておこる副作用や有害事象」を表す言葉です。
皆さんは イヤというほど多くの薬剤を処方されている患者さんに巡り合ったことはありませんか?私がこれまで遭遇した最多薬剤数は、勤務していた大学病院に搬送された70代の高齢患者さんの定期処方52錠/日(カプセルや細粒などの剤型によらずすべて錠で記載)。しかも、服薬コンプライアンス無視の分8(毎食前後と起床時・就寝時の計8回内服)。そのうち約40錠が、1つのクリニックから処方されていました。今から10年以上前の話ですが、これほど多くの薬剤を、これほど何度も分服しなくてはならないとは…。ここまでくると、治療ではなくもはや虐待とも思えてしまいます。皆さんも、過剰な量の薬剤を投与されているケースに遭遇したことがあるのではないでしょうか?

その薬、私が減らしてみせましょう

「先生、ポリファーマシーって知ってます?」処方薬の減らし方 その薬、私が減らしてみせましょうの画像

忙しい臨床の中で、多くの薬剤を調整しながら患者さんの症状緩和、病態改善に努めるのがわれわれ医師の仕事です。私も以前は、1日に120人の外来患者さんを担当していたことがあり、朝9時からでは間に合わず、8時30分から外来診療を始め、まさに文字通り「3分診療」を続けて、昼食も取らずに診療していました。仮に昼食が摂れても、診察室で食べながら診療するというアリサマでした。中には当然具合の悪い方や、定期の診療のタイミングで偶然出現した雑駁な症状を訴える方もおり、そのペースで18時頃まで外来診療を続ける、ということがありました。武勇伝としてはいいのかもしれませんが、その外来を続けていた2年間は、外来が終わるとグッタリで、しばらく身動きが取れなかったのを覚えています。外来開始直後は、ただひたすらに「Do処方」するのがやっとで、電子カルテのなかった当時、すべて手書きで処方を書いていました。

これだけ外来診療が多忙を極めると、先程の例にもあるように患者さんからの定期処方以外の処方リクエストに対して、これまでの処方との重複や相互作用には気が回らずに「言われるがまま」に処方を続ける日々が続きました。そこでの診療ペースにも慣れてくると、患者さんを呼び入れる前から処方を書き始めるなどの工夫(?)をすることで、患者さんの訴えにも耳を傾けられるようになってきました。そこで改めて患者さんの処方を見ると、処方されている理由が判然としない薬が多いことに気づきました。また更に悪いことに、前任の医師も同様の多忙さの中で診療していたため、処方変更された理由だけでなく、処方がいつから変更されたのかも分からない場合も…。

そこで開き直って、処方を見直し、内服薬を削減することにしました。と同時にこの作業は、私が書かねばらならない手書き処方のボリューム削減も兼ねており、まさに一石二鳥の名案でした。そこで実際に何をしたのかというと、

(1)内服回数の多い薬剤を、同様の効果を持つ他剤に置換する

例:レバミピド 3錠 分3毎食後 → ランソプラゾール 1錠 1×朝後

(2)効果の相反する薬剤の削減

例:乳酸菌製剤と酸化マグネシウムの併用
→乳酸菌製剤の中止と、酸化マグネシウムの減量~中止

(3)同効薬の削減(特に他院の処方と効果がカブっていないか)

例:アスピリン 100㎎ と シロスタゾール 200㎎
(もちろんこれらの薬剤の「併用」によって効果がある疾患では変更せず)

(4)ある薬剤の副作用出現を懸念して併用されている薬剤の見直し

例:ロキソプロフェン 3錠 分3毎食後 と レバミピド 3錠 分3毎食後
→ セレコキシブ 2錠 分2朝夕後

(5)内服回数の削減

例:酸化マグネシウム(250㎎)4錠 分4毎食後・就眠前
→ 酸化マグネシウム(250㎎)4錠 分2朝夕後

(6)腎機能障害や肝機能障害を引き起こしている可能性のある薬剤の削減

例:血液検査で腎機能・肝機能の低下している場合、原因薬を推定。
まずは数値が極度に不良な場合のみ。

(7)効果の不明瞭な薬剤の中止

例:疼痛がない患者さんで鎮痛剤を内服しているケースなど。
いったん鎮痛剤を中止しても疼痛がなければそのまま中止。

(8)患者さんの訴えを再確認することで、薬剤の不要な追加・増量を回避

例:「不眠」を訴える高齢者に何時間眠っているのか、何時に就眠するのか確認。
高齢者では6時間以上就眠することが難しいことも多く、断眠も2回が平均。
例:「便秘」といっても、「毎日 便が出ていないから便秘!」という方も多い。
毎日出ても少量なら便秘になりうるし、2日に1回でも充分量ならOKのことも

これを120人の外来診療の中で実践するのは非常に大変でした。変更に際しては患者さんに変更の理由や予想される変化を説明し、変化した場合の対処法も伝えなくてはならない。さらにさんざん説明した後に、変更を拒否される可能性もありましたから…。変更によって患者さんが不安を覚えた場合には、数週毎の定期受診を変更して翌週には再診するよう指示したため、時として外来患者さんはむしろ増加するという、いま考えただけでもゾッとする状況も何度も経験しました。外来受診は1日120人程度で、多くの方が8週毎の受診。

私が担当する患者さんは、全部で120×8=960人となり、ひと通り見直しても2ヶ月はかかってしまいます。でも、こうして少しずつ、着実に薬を見直していきました。
効果は半年ほどすると現われ、手書き処方の労力は明かに減っていました。また、安定している患者さんでは、定期外来受診のインターバルを延長したため、1年後には1日の外来患者さんは80人程度にまで減っていました。
こうした努力を、数ヶ月かけて継続したわけですが、処方を見直しても見直さなくてもいただくお給与は同じ。そう考えると、多くの医師が、処方を見直す必要性を感じていても実践できないのではないでしょうか。処方を見直すことによって得られる、いわゆる「ポリファーマシー加算」を確認してみると…、

  • 入院時において6種類以上の内服薬(頓用薬及び服薬を開始して4週間以内の薬剤は除く)を処方されていた外来患者又は在宅患者について、複数の薬剤の投与により期待される効果と副作用の可能性等について総合的に評価を行い、処方内容を検討した結果、退院時に2種類以上減少した場合の評価が行われた。
    薬剤総合評価調整管理料 250点(月に1回限り)
  • 外来受診時又は在宅医療受診時において6種類以上の内服薬(頓用薬及び服薬を開始して4週間以内の薬剤は除く)を処方されていた入院患者について、複数の薬剤の投与により期待される効果と副作用の可能性等について総合的に評価を行い、処方内容を検討した結果、受診時に2種類以上減少した場合の評価が行われた。
    薬剤総合評価調整管理料 250点(月に1回限り)
    連携管理加算 50点

改めてこの文章を確認すると、「1.」については、急性期病院では加算取得が難しいのではないかと思います。新たな疾患を見つけることで新たな薬剤が加わる場合も多く、さらにDPCで入院期間を短縮したい急性期病院の診療では薬剤を見直して、削減することは困難です。このDPCは、「診断群別定額払い方式」などと言われ、急性期病院の多くがこの方式で診療報酬を得ています。分かりやすく言うと、「同じ病名で入院したら、どんな治療をしても得られる病院の収益は決められており、入院期間が長くなると1日当たりに得られる収益が減少する」という制度です。このため急性期病院での平均入院期間は10日から2週間程度であることが多く、この期間に処方薬の削減を図るのはムリがあります。
では慢性期や回復期にある患者さんの処方であれば見直すことが可能か、という話になるのですが、こういった病院では一人の医師が担当する患者数が多いために、急性期ほどではないとしても、やはり処方を見直すのは困難な場合もあると思います。
この制度を見ていて思うのは、管理料や加算の「安さ」です。例えば高額な処方薬を1剤削減した場合でも、金額にすればひと月で数千円から数万円になる可能性があります。であれば、それに見合う金額を加算として付与しても、翌月以降も薬が減るわけですから、国としても削減による効果が加算の給付額を上回るはずです。
ところがたとえば加算を10倍の2500点にすれば済むかというと、今度は加算欲しさにいたずらな減薬が続き、患者さんの健康や生命維持に影響をきたしかねない可能性があります。もちろん、そうとなれば処方を減らした医師も責任を問われることになりますから、いたずらな減薬は簡単には起こらないと思います。

もう一つ考えなくてはならないのは、産業保護、つまりこの場合で言うと製薬会社の保護です。製薬会社の薬が多く処方されれば、その分、国に還付される法人税は増加し、国庫が潤います。ですから製薬会社の利益も保護しなくては、国としては困ってしまう…、という意見もあると思います。この250点という点数は、そんなさまざまな利害関係の結果で生まれた数値なのかもしれません。とはいえ、ポリファーマシーという概念を広く知られるようになり、その実践に対して加算がつくようになったというのは、非常に良いことだと思います。

医師をその気にさせるには?

問題はどうすれば、処方する「医師」をその気にさせるか、ということなのでしょう。と同時に、私が処方を減らそうとする契機は何だろう、と考えてみると、“処方薬の数”よりも“服薬回数”を意識していることに気づきました。つまり分4より分3、分3より分2、と。高齢者の場合、処方薬を自身で管理することが難しいため、同居家族をはじめとして「誰か」に薬の管理を頼らなくてはならないケースも多くみられます。
例えばご家族と同居なら、ご家族の出勤前後の時間帯を意識して、患者さんの内服を分2 朝後・眠前、にまとめます。すると1回あたりの内服薬の数が倍増することになり、「増えすぎた処方薬」を何とか減らせないか、というスイッチが入ります。これが私の「処方削減パターン」です。
もちろん、処方削減を意識している医師ばかりではありませんし、そのような医師は依然として少数派かもしれません。その場合には、医師の前では言いにくい患者さんのホンネや、「処方薬過多で服薬できていない」または「服薬で精いっぱいで食事が摂れていない」などの実情を、薬剤師の皆さんが医師に提供することで、処方薬過多に慣れきった医師の目を覚ましてほしいのです。皆さんは、多くの外来から処方される薬の情報を集約して、服薬コンプライアンス向上と、アドヒアランス向上を図る「医療の舵取り役」です。それこそ、「薬の専門家」としての腕の見せどころではないでしょうか。


第3回は私が実際にどのようにして処方や内服回数を減らしているのか、実例を挙げて手順をご説明したいと思います。次回もぜひ、ご覧ください。

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杉山 陽一

医療法人社団 永生会 特別顧問、医療教育サイトFUNMED代表、国立職業リハビリテーションセンター 医療情報助言者、日本老年医学会 代議員、杏林大学医学部同窓会 理事。m3.comでは「専門外だからできる医師のキャリア形成」、「杉山医師の『薬剤師に伝えたい医師のトリセツ』」、「ケイロンの学び舎」などの連載の他、コラムを担当。

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