ポストコロナの薬剤師
全6回でお送りしてきた本連載も、今回が最終回となりました。連載後半は、「これからの薬剤師像」について考えてきました。第4回では、他の医療職に比べて、薬剤師では「患者さんとの距離感」が異なることを、前回第5回では、より具体的に「これからの薬剤師像」に迫るべく、千葉の「わかしおネットワーク」に参加された、片貝薬局の富田 勲薬剤師のご活躍をご紹介しました。
富田さんの仰る「これからの薬剤師」は、患者さんとの距離感や患者さんに積極的に歩み寄る・関わろうとする薬剤師。しかし最近はコロナウイルスの影響で、不必要な人との接触を避けることを是とする風潮が世を覆っています。残念ながら「これからの薬剤師」を目指すにあたって直接患者さんとのやり取りをすることは、今後ますます困難になってしまうと予想されます。
コロナが促す医療システムの変革
そんな中、2020年4月にオンライン診療について大きな進展があり、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が、4月7日に閣議決定されました。「新型コロナウイルス感染症が急激に拡大している状況の中で、院内感染を含む感染防止のため、非常時の対応として、オンライン・電話による診療、オンライン・電話による服薬指導が、希望する患者によって活用されるよう直ちに制度を見直し、できる限り早期に実施する。」というのがその骨子です。この動きは、コロナウイルス感染の拡大に伴って加速し、そして年余に渡るウイルス拡大期間が収束した後も減退することはないでしょう。これまでにも「電子お薬手帳」や「処方薬の配送」が登場し、IT技術や配薬の仕組みを変えることで、オンライン・遠隔診療・服薬指導に対する予防的取り組みは既に始まっていますが、薬局のシステムレベルではオンライン診療に対するインフラ整備を、現在進行形、または近い将来に始めなくては手遅れになってしまうかもしれません。
オンライン服薬指導で何が変わる?
今回の閣議決定で注目したいのは、①患者が薬局で電話やテレビ電話による服薬指導を希望する場合には、処方箋に「0410対応」と医師に記載してもらうこと、②患者の同意を得て医療機関から患者の希望する薬局に処方箋をFAXしてもらうこと、③処方箋の原本を薬局に送付してもらうこと、④コロナウイルスの軽症患者であることが分かるように、処方箋に「CoV自宅」・「CoV宿泊」と記載してもらうこと、⑤抗精神病薬や麻薬は扱えないこと、などです。
このように細かい制度や保険点数を得るための手法については、より専門的な資料や情報ソースをご参照いただきたいと思いますが、概して「医療者と患者が、直接 触れ合わない未来」へと、世の中が進んでいくように思えます。これまでの歴史が物語るように、困難を克服することで、人類は進化・発展してきました。コロナウイルスに伴う困難は、結果として我々を、また未来へと運んでいくことになりそうです。それは、薬剤師の皆さんはもちろん、我々医療者にとっては、「患者さんとの物理的な距離を保ちつつ、精神的な距離を縮めていく未来」です。
薬剤師に新たな役割が期待される時代
これまでは、薬局と患者さんの繋がりは、「処方薬を渡してしまえば終わり」だったわけですが、IT技術を使うことで、処方の服用状況を薬剤師が確認したり、薬の副作用や内服後の体調変化について今まで以上に細かく傾聴できるようになったりするかもしれません。つまり、薬剤業界は、コロナウイルスの感染拡大を契機に新たな手法を取り入れることで、従来よりも患者さんに寄り添うことが可能になるわけです。物理的な距離を保ちつつ、より頻回に患者さんの訴えを傾聴できる…。そして患者さんの訴えを、医療機関にフィードバックすることも、新たな薬剤師の役割になるかもしれません。医師が発行した処方箋に従って調剤し、その薬を患者さんに手渡す「従属的」な仕事から、「主体的」に医療を担う立場へ。ポストコロナは、薬剤師の存在が、より大きくなる時代。それに伴って負うべき責任も、大きくなるのではないでしょうか。