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トレーシングレポートを学ぶ 基本編

更新日: 2021年10月23日 小原 一将

トレーシングレポートで医師に提案を伝える書き方

トレーシングレポートで医師に提案を伝えるメインの画像1

前回に続いて今回もトレーシングレポートの書き方について解説します。今回は情報の報告だけではなく、医師への提案を行う「処方提案タイプ」について考えていきます。

第二回目にお伝えしたような、情報を報告・共有するだけではなく、医師への提案も行う場合は、その提案を医師が読んで判断しやすいように記載しなければなりません。患者さんから聞き取った情報だけではなく、それまでの状況や、薬剤師としての評価、その提案をするに至った根拠などをあわせて記載する必要があります。

レーシングレポート(服薬情報等提供書)とは?

トレーシングレポート(服薬情報等提供書)は服薬指導や服薬フォローアップを行った時に、医師が知らないであろう、患者の薬物療法に有用と思われる情報を得た際に、処方医へその情報を報告する手段です。

特定薬剤管理指導加算2、吸入薬指導加算、調剤後薬剤管理指導加算等の算定要件に文書による情報提供が含まれるなど、調剤報酬を算定していくのにも必要となります。

しかし、その調剤報酬を算定すること以外にも様々なケースでトレーシングレポートは活用できます。ここでは医師に対して文書で情報提供する際の一般的な注意事項について解説します。

どんなシーンでトレーシングレポートを提出するのか?

実際にどのような時にトレーシングレポートを医師に提出するのかあげてみます。

平成30年の調剤報酬改定で新設された服用薬剤調整支援料(現:服用薬剤調整支援料1)から、ポリファーマシー対策として減薬の提案をしなくてはならない…と思い込んでいる薬剤師さんをよく聞きます。

たしかに緊急性のない問題がある多剤併用を見かけたらトレーシングレポートを提出する、または疑義照会するということはぜひ行っていきたいですし、求められていることでもあります。

他にも、令和2年4月の調剤報酬改定で新設された、特定薬剤管理指導加算2をイメージして、専門性の高い報告をしなくてはならない…と自らを追い込んでしまっている薬剤師さんもいます。

薬剤師として専門性を発揮することもとても重要ですし、積極的に行っていきたいところですんで、もう実施できている方は継続しましょう。でも、まだ一度もトレーシングレポートを書いていないという方は、まずは簡単なことからトレーシングレポートを始めてみましょう。まず行動してみる、これがとても大事です。

どのような提案をするべきか

では、どのような提案をすることがあるかを考えてみたいと思います。

早期に副作用を発見するために、定期的な血液検査を行うことが求められている薬があります。そのような薬を服用している患者さんとお話していると、副作用の兆候に気付いたり、あるいは血液検査を最近受けていないという情報を得たりすることがあると思います。こういった場合、検査の実施を提案できます。


また、1日3回毎食後に服用している患者さんが、夜勤のシフトで勤務している場合、服用のタイミングは個別に考える必要があります。場合によっては、服用回数の異なる同効薬への変更を提案する方が良いかもしれません。


他にも、ポリファーマシー対策のための減薬、相互作用や加齢による薬の変更や減量なども考えられます。緊急性は高くないが、患者の治療をより良くさせると薬剤師が判断したものは、医師に積極的に情報を提供しながら提案を行いましょう。

提案をする際に気をつけるべきポイント

トレーシングレポートを書くときは、薬剤師にも時間的な余裕のある場合が多いです。せっかくの提案を、医師にしっかりと理解してもらって患者の利益につなげるために、添付文書やインタビューフォーム、ガイドラインや論文などを評価や提案の根拠として添付すると良いでしょう。薬剤師の個人的な見解だけではなく、数字などの裏付けがあることによって情報の信頼性が上がり、医師が提案を評価しやすくなります。


また、患者さんにはどのような課題があって、今後どのような対応が必要になるか、といったことも簡潔に記載するのが良いでしょう。

患者さんに指導した内容を報告して薬の変更を提案するのではなく、なぜその指導をしたのか、そしてどのようなリスクが潜んでいるからレポートを提出しているのかを記載することで、次回以降に医師が治療方針を判断する際に有用になります。

コミュニケーションを意識したトレーシングレポートの提案を

トレーシングレポートで行うのは医師とのコミュニケーションであり、医師へ指示や命令を出す文書ではありません。必ず、読み手である医師を意識して、わかりやすく、かつ不快に思われないように書くことを意識しましょう。

例えば、「副作用の可能性があるので薬を変更してください」と伝えるのではなく、「患者の訴えを評価すると副作用の可能性があり、その根拠としてこのようなものがあるので、処方の際に検討をお願いします」というような対話をする姿勢が重要です。


三重大学医学部附属病院のトレーシングレポート様式には”返信欄”が設けてあります。こちらのトレーシングレポートを使用することによって、チェック欄と自由項目欄による医師からの回答を得ることができます。このように、トレーシングレポートは送って終わりではなく、その判断と提案に薬剤師として責任を持ち、医師との対話をする姿勢が重要であると言えます。

医師と薬剤師は、患者をともに治療するチームであるからこそ、コミュニケーションを丁寧に行うように心がけましょう。


トレーシングレポートで医師に提案を伝えるの画像1

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(三重大学医学部附属病院 トレーシングレポート の一部を抜粋)

前回と今回はトレーシングレポートの主な様式と一般的な書き方を解説しました。次回からは、トレーシングレポートのより詳しい書き方やどのような内容を書くことが有用なのかについて解説します。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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