トレーシングレポートの具体的な内容を紹介
今回は、実際のトレーシングレポートにはどのような内容を書くことがあるのか、その具体例を紹介します。状況によって色々なトレーシングレポートがありますが、こちらの記事を参考にして患者さんの課題解決の糸口を見つける一助にしてもらえたら幸いです。
【復習】トレーシングレポートの書き方の基礎
できるだけ端的で、要点が明確、見やすく
在宅医療などでは特にそういう傾向がありますが、法人間の書類のやり取りが多く、受け取り側が正直読む気になれない資料も散見されます。そういう状況なので、せっかく頑張って熱意を持って書いたレポートでも、小さな字で情報が多すぎたり、要点が不明確、結論が後ろにあるなど、そういう書類はなおさら埋もれてしまいます。読まれる資料作りのポイント
・すべての情報が箇条書きで端的に書かれている情報の量は多過ぎずかつ必要で十分な量で、端的で要点を明確にする
・何のための資料なのか目的を明確にする
目的や概要を分かりやすく見やすい位置に記載。結論ファーストで書き、経過報告であれば変化を中心に書く
・フォーマットにも読ませる工夫を
字の大きさにも配慮して、余白を活用するなどフォーマットにも読んでもらえる資料ための工夫をしましょう
・トレーシングレポートの上手な書き方で信頼感もアップ
相手の立場に立った分かりやすく思いやりのあるレポートの形だと読み手に喜ばれます。どうしても業務の合間に読む物なので、こういう視点が特に大切になるかと思います。良いレポートは薬剤師・医師の信頼関係の構築にもつながっていきます。こういう内容的にも、体裁的にも素晴らしいレポートが増えれば、薬剤師の信頼感・存在感が増していくと思います。
服薬アドヒアランスの向上と残薬調整のために
診察室で、薬の飲み残しがどれくらいあるかをきちんと医師に伝える患者さんは多くないでしょう。そのため、薬局で薬剤師が服薬状況を患者さんに尋ねることはとても重要です。薬を処方通りに服用できていない場合、医師は薬物治療の評価を正確に行うことができず、今後の治療に影響が出る恐れがあるからです。
服薬アドヒアランスの低下は、薬を使うタイミングがその人の生活と合っていない、剤型が飲みづらい、有害事象が起きているなど、様々な原因が考えられます。薬剤師が患者さんから聞き取ったこれらの情報の中で、緊急性が高いものはその場ですぐに対応する必要がありますが、緊急性の低いものはトレーシングレポートとして薬剤師の所見や改善の提案をすると良いでしょう。
なお、服薬アドヒアランスが低下していたり、数種類の薬を定期的に服用していたりする患者さんでは、自宅などに薬がたくさん残っている場合があります。こうした残薬に関する情報も、次回受診の際に直接医師へ伝えてもらうか、その場で疑義照会をして調整する場合もありますが、トレーシングレポートを使うこともできます。
実際、京都大学医学部附属病院1)やつくばセントラル病院2)のように、残薬調整用のトレーシングレポートを用意しているところもあります。残薬を調整する場合はトレーシングレポートによる事後報告で良いとされている病院もあるので、確認して活用してみてください。
ポリファーマシーの対策に
病院向けに厚生労働省がまとめた「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方3)」においても、薬局薬剤師は服薬情報提供書(トレーシングレポート)を用いて、”患者の意向、処方見直し案やその理由の記載欄を加え、記載してもらうようにする。”と記載されています。
このような薬局におけるポリファーマシー対策は”服用薬剤調整支援料”として算定することができます。
6種類以上の内服薬が処方されている処方に、保険薬剤師が文書を用いて提案し、内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り”服用薬剤調整支援料支援料1”を算定することができます。さらに、複数の保険医療機関から6種類以上の内服薬が処方されていたものについて、患者又はその家族等の求めに応じ 、当該患者が服用中の薬剤について、一元的に把握した結果、重複投薬等が確認された場合、重複投薬等の解消に係る提案を文書を用いて行った場合に、3月に1回に限り”服用薬剤調整支援料支援料2”を算定することもできます4)5)。
医師は日々、多くの患者を診ているので、長い間繰り返して処方していると、いつからその処方を出しているか、調べないとすぐには分からない場合もあります。そのような時に、飲み始めの時期もトレーシングレポートとして報告すると、どれくらい服用を続けているのかの正確な情報によって、医師が薬による治療効果を評価しやすくなります。
また、医療用に限らず、市販薬やサプリメントの飲み合わせの情報も共有することが良いでしょう。サプリメントが相互作用リスクになる、ということを知らない人は多い6)ので、医師に報告していない患者さんがいる可能性があります。
副作用などの有害事象
使用中の薬で有害事象があった場合、緊急性が低いものはトレーシングレポートで報告することも選択肢になります。
次回受診の際に、患者さんから医師に伝えてもらうことに加えて、薬剤師としての所見や薬剤師としてどのような指導・対応をしたのかを含めて報告しておきましょう。重篤な副作用が疑われる場合には、厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル7)」が参考になります。
特に、抗がん剤治療をする際は、副作用の管理がとても重要になりますが、公益財団法人がん研究会有明病院では、トレーシングレポートを”一般用”と”がん化学療法用”に分けており、運用についても丁寧にまとめられています8)。”がん化学療法用”は抗がん剤治療で起こる可能性のある副作用が事前に記載されており、医師に情報を伝えやすいように作成されています。これらを参考にして、患者さんの有害事象を分かりやすく伝えるようにしましょう。
(公益財団法人がん研究会有明病院 トレーシングレポート(がん化学療法用)2021から一部抜粋)
医師が必要な情報を提供しよう
今回、紹介した情報に加えて、ケアマネージャーなどの他職種や患者家族から聞き取った情報をトレーシングレポートとして共有することも良い取り組みです。
薬剤師として働いていると、「これは医師に報告をするべきだ」と感じる情報にはたくさん出会いますが、実際にトレーシングレポートを送る前に、医師がどのような情報を知りたいのかを探っておくことも重要です。薬剤師が「この情報を医師は欲しいだろう」と思う情報と、医師が実際に欲しいと思う情報にはズレがあることもよくありますので、情報を精査し、適切なものを適切な量で報告するようにしましょう。その際には、以前の記事でお伝えしたように報告で情報共有だけ行うのか、そこに薬剤師からの提案も含めて行うのかを検討し、判断材料となるような根拠も添えて行う必要があります。
重要な情報だからこそ、患者さんは自分で医師には伝えづらいこともあります。それを薬剤師が聞き出して評価し、医師にうまく伝えることも重要な業務の一つです。
1)京都大学医学部附属病院 トレーシングレポート
2) 社会医療法人若竹会つくばセントラル病院 トレーシングレポート
3) 病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方
4) 調剤報酬点数表 14の3 服用薬剤調整支援料
5) 調剤報酬点数表に関する事項 14の3 服用薬剤調整支援料
6) 日本老年薬学会雑誌.2(1):9-18,(2019)
7) 重篤副作用疾患別対応マニュアル
8) 公益財団法人がん研究会有明病院