臨床論文で服薬指導をアップデート!

更新日: 2025年7月7日 児島 悠史

『ジクトルテープ』は貼付剤だから胃潰瘍のリスクは低い、は本当か?

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ジクロフェナクの経皮吸収製剤である『ジクトルテープ』は、一見すると“外用剤”のため消化器系への副作用リスクはあまり気をつけなくてよさそうに思えますが、本当にそうでしょうか。

患者
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『ジクトルテープ』は貼り薬だし、胃が弱くても平気かな?

プロスタグランジン産生抑制作用を持つNSAIDsは、その作用メカニズム上、胃粘膜障害の副作用を避けられません。しかし、内服薬に比べると外用薬では局所作用に留まるため、消化器系への影響は少なく抑えられる、という利点があります。では、同様にジクロフェナクの貼付剤である『ジクトルテープ』でも、この認識は通用するでしょうか。今回は、意外と知られていない『ジクトルテープ』の消化器系リスクを把握する上で重要な論文を紹介します。

参考になる論文

J Gastroenterol Hepatol . 2024 Dec;39(12):2504-2510.

ジクトルテープと内服薬の比較

ジクトルテープと内服薬の比較

(概要)
腰痛患者60人を、「ジクロフェナク」の経皮吸収製剤(ジクトルテープ)で治療するグループと内服薬で治療するグループに分け、2週間後に胃の潰瘍・びらんの発現率、胃・十二指腸潰瘍の発生率を比較した研究。

(結果)

  • 内服薬に比べて、経皮吸収製剤では潰瘍・びらんの発現、胃・十二指腸潰瘍の発生は大幅に少なかった。
  • ただし、経皮吸収製剤でも3.3%では胃・十二指腸潰瘍が発生している、という結果には注意が必要。

☞アップデートの要所
  • 『ジクトルテープ』は、確かに内服薬に比べると消化器系の副作用リスクは小さい
  • しかし、“局所作用”の薬ではないため、胃・十二指腸潰瘍のリスクには注意が必要

NSAIDsの外用薬は、消化器系の副作用を避けられる剤型

NSAIDsは、痛みや炎症の原因となる「プロスタグランジン」の産生を抑制することで効果を発揮します。しかし、この「プロスタグランジン」は胃粘膜保護にも関わっているため、NSAIDsは用量依存的に消化器系の副作用を起こしやすい1)ことが知られています。一方で、貼り薬や塗り薬といった外用薬は局所作用を目的としたもののため、内服薬に比べると薬の血中濃度は低く抑えられています。

Cmax AUC
錠剤(25mg) 415ng/mL 998ng/mL・hr
軟膏剤(25mg) 1.3ng/mL 13.7 ng/mL・hr

※ジクロフェナクの血中濃度推移

このことから、貼り薬や塗り薬といった外用薬であれば、同じ鎮痛効果を得ながらも消化器系の副作用リスクを低く抑えることができる2,3)、という利点があります。そのため、消化性潰瘍の既往がある、腎機能が低下しているといった背景のある患者さんでは、NSAIDsは内服薬よりも外用薬が選ばれることがよくあります。

『ジクトルテープ』は、全身作用を期待する「経皮吸収製剤」

では『ジクトルテープ』も他の貼り薬と同様に消化器系の副作用リスクを低く抑えられるか、というと、そういうわけではありません。『ジクトルテープ』は、見た目こそ局所作用を期待する貼り薬と同じですが、実際には全身作用を目的とした「経皮吸収製剤」だからです。実際、『ジクトルテープ』を使った際の血中濃度推移は、通常のテープ剤などとは異なり血中濃度は比較的高くなります。特に、同時に3枚使用した場合や2週間連続で使用した際の全身曝露量は、通常の経口投与と同程度に達することが確認されています4)

Cmax AUC
1日目 22.9ng/mL 372ng/mL・hr
7日目 44.1ng/mL 813 ng/mL・hr
14日目 64.0 ng/mL 1,070 ng/mL・hr

※『ジクトルテープ』を毎日使用した際の血中濃度推移

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児島 悠史
こじま ゆうし

薬剤師 / 薬学修士 / 日本薬剤師会JPALS CL6。
2011年に京都薬科大学大学院を修了後、薬局薬剤師として活動。
「誤解や偏見から生まれる悲劇を、正しい情報提供と教育によって防ぎたい」という理念のもと、ブログ「お薬Q&A~Fizz Drug Information」やTwitter「@Fizz_DI」を使って科学的根拠に基づいた医療情報の発信・共有を行うほか、大学や薬剤師会の研修会の講演、メディア出演・監修、雑誌の連載などにも携わる。
主な著書「薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100(羊土社)」、「OTC医薬品の比較と使い分け(羊土社)」。

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