妊娠中に「アセトアミノフェン」を使うと、子どもの自閉症が増える?
2025年9月、アメリカ合衆国のトランプ大統領が「妊娠中のアセトアミノフェンが、子どもの自閉症の原因である」「アセトアミノフェンを使ってはならない」といった主旨の発言を会見で行い、世界中で大混乱が起こりました。
その日のうちに数多くの専門団体や学会が「根拠がない」「薬を使わずに熱や痛みを放置するほうが問題」と声明を出すことになりました。しかしインターネットやSNSでは、このデマに乗じて不安や混乱を煽る情報も多く出回っているため、強い不安を感じている患者さんも多いと考えられます。
そこで今回は、こうした情報が出回る状況で、薬剤師にとって重要な判断根拠となる論文を紹介します。
参考になる論文
JAMA . 2024 Apr 9;331(14):1205-1214.
妊娠中のアセトアミノフェン使用歴に関するスウェーデンの研究解説図/筆者作成
(概要)
スウェーデンで1995~2019年に生まれた約250万人の子どもを、「妊娠中のアセトアミノフェン使用歴がある母親」から生まれたグループと、「妊娠中のアセトアミノフェン使用歴がない母親」から生まれたグループに分けて、自閉症・ADHD・知的障害の発症率を比較した研究。
(結果)
・「使用歴あり」のグループでは、「使用歴なし」のグループより、自閉症の発症率がわずかに高かった(+0.09%)。
・ただし、薬の副作用を疑う上で重要な“用量に依存してリスクが高まる”ような傾向は確認されなかった。
・さらに、ここで観察された差は、兄弟間で比較(※遺伝・環境要因を揃えた条件)する
- 妊娠中の「アセトアミノフェン」服用は、子どもの自閉症の主たる原因では無さそう
- これまでに一部で観察されている“差”は、遺伝や環境要因によるものの可能性が高い
これまでも多く議論されてきた「アセトアミノフェン」と「自閉症」の関連
自閉症は、何か1つの要因で生じるものではなく、多くが複雑に絡み合って生じるものとされています。そのうちの1つとして「妊娠中のアセトアミノフェン服用」が疑われているのは事実です。なぜなら、妊娠中の解熱鎮痛薬として「アセトアミノフェン」が推奨された時期と、子どもの自閉症の診断数が増えてきた時期とが重なっているからです。