ドラマ「アンサング・シンデレラ」プロデューサーが描く薬剤師の苦悩とは?
病院薬剤師が主役のマンガ『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ著/ゼノンコミックス)のドラマ化が決定。人気女優 石原さとみさんを主演に迎え、7月16日(木)夜10時より全国フジテレビ系にて放送予定です。2020年、ついに“薬剤師の時代”が到来するのでしょうか!?本ドラマのプロデュースを担当する、野田悠介さんにお話を聞きました。
スポットライト当たらぬ仕事“薬剤師の苦悩”に共感
今回、病院薬剤師が主役の漫画をドラマ化しようと決めたきっかけは?
原作マンガを読んで薬剤師の仕事を初めて知り、「薬剤師ってこんなに患者を支えているんだ。気付かれないところで患者のために尽くしてくれているんだ」と感動したのがきっかけです。
私はこれまで『コード・ブルー』や『ラジエーションハウス』などの医療ドラマ制作に関わってきたのですが、薬剤師の存在をすっかり見落としていたんですよね。申し訳ないのですが「薬剤師=薬をくれる人」でしかなかったんです。 ですから、漫画で描かれる薬剤師の世界には、目からうろこでした。
番組制作にあたり、医師と薬剤師の治療に対するスタンスについて、「がん患者に対して、医師は腫瘍を小さくすることを考える。一方、薬剤師は副作用がどう出ているか、患者さんが副作用に苦しんでいるのであれば、薬を変更して軽減していたり、上手く付き合っていく方法を考える」というような話も聞きました。
これまでおもに医師から話を聞いていたので、その陰には薬剤師がいたことに気が付かなかったんですよね。
表舞台に立つことはなくても、患者のために尽くしている。そんな薬剤師にスポットを当てたい、という強い思いでドラマ化を決めました。
表舞台に立っていない人にスポットライトを当ててみたい、と
世の中のほとんどの仕事がスポットライトなど当たらないですよね。つまり世間であまり知られていない仕事です。私は「知らないことを知りたい」という知的好奇心が強いのだと思います。
しかも、どんな仕事も、同じような悩みや境遇が必ず生じます。薬剤師が抱えるもやもやした思いや苦悩には、誰が見ても共感できる部分が多くあるのではないでしょうか。
薬剤師の抱える苦悩、ご自身にも共通するものが?
そうですね。自分は助監督の経験も長いのですが、作品が発表されたときに表に出るのは監督やプロデューサーなんですよね。だけど、その裏で自分もけっこう動いているんだけどな…って。内心思うこともありました(笑)。
「ありがとう」の一言だけでもあれば救われるのに、当たり前だと思われているから感謝もされない。もちろん、感謝をされたくてやっているわけじゃないけど、一言くらいあってもいいじゃないかって、心の中で思ってしまう。そういうのって、毎日暮らしているなかでは「あるある」なんじゃないでしょうか。
はい、わかります(苦笑)
薬剤師ではなくても、誰しもが抱く感情。なんで自分ばかりこんな板挟みになっているんだろう…って、どんな職業でもあると思うんです。ですから、このドラマは薬剤師の物語ではありますが、医師も看護師もだれもが少しずつ共感できる物語なんです。
マンガとドラマには違いもあるのでしょうか?
そうですね。マンガは2年目の新人薬剤師が成長する物語ですが、ドラマの葵みどりは8年目。ひととおり仕事をこなしてきたからこそ言える言葉、 32歳の等身大の大人が何を患者に伝えるのか。患者を励ますとか、敢えて厳しいことを言うとか、新人ではできないことも、成長した彼女ならできる。マンガとは違う描きで、薬剤師の仕事自体にフォーカスを当てています。
憧れの存在として描く、薬剤師像にこだわり
ドラマ化にあたりこだわったポイントは?
こだわったポイントは2つです。一つは「ずっと立っている、ずっと歩いている、座らない」という点です。作品づくりのために病院を取材したときも、座っている薬剤師は一人もいなくて、調剤であったり患者さんへの指導であったり、常に動いている。仕事が多くて人手も足りていないという忙しさをちゃんと再現したいと思いました。エレベーターを使わず階段を使うだとか、そういう小さな部分にもこだわっています。
もう一つは、薬剤師をかっこいい、憧れの存在として描くため、「チームとしては一見バラバラなのに、どこか一体感がある」というのを大切にしました。それぞれの薬剤師の視点で見た、それぞれの患者の救い方、とでも言うのでしょうか。医師と比べたら地味かもしれないけれど、オペをしなくても、薬を変更するだけで患者を救うことができる。その点は脚本でも力を入れました。
主人公の葵みどりが患者さんにかける言葉、患者さんが抱える薬に対しての悩み、その悩みに紐づく心の悩みをどう解決するのか…そこをカッコよく見せたいですね。
厳しくてやさしい葵みどりには、石原さとみさんしかいない
主演の石原さとみさんは『NS’あおい』にはじまり『アンナチュラル』など医療従事者役に定評がありますよね。
石原さんは私が助監督の頃から一緒に仕事をしていて、役作りへのストイックさがすごく強い女優さんということを知っていました。勉強熱心で知的好奇心が豊富な人なので、役作りのためにさまざまな分野の勉強をしたり、人に聞いたり、独自に取材したりもする方なので、ディスカッションをしながらよりよい作品を一緒につくれるだろうという確信がありました。
それに、葵みどりという薬剤師は、厳しさとやさしさ、両方を持っている。患者さんへの接し方だとか、心は優しいけれど口調はきりっとしているところだとか、その凛とした薬剤師像が石原さとみさんにぴったりだなと思いました。
他のキャストもくせもの揃いですよ。一見まとまりがなくバラバラに見えるけれど、お互いがお互いを認めている、そんな風に見えるといいなと思っています。
作品に関わる前と現在で、薬剤師への認識は変わりましたか?
ずいぶん変わりましたね。昔は、「薬剤師って何をしているのか分からない」、言い方は悪いですけど、「薬を詰めて出してくれる人」程度の認識でした。薬局で待たされると、「目薬ひとつ出すだけなのになんでこんなに時間がかかるんだろう」ってイライラしてしまうし、薬の説明をしてくれても「別にいいよ」って思っていたんですよね。本当すみません。
だけど、漫画『アンサングシンデレラ』や今回のドラマの取材を通して、その背景が分かったいまは、「時間がかかるのには理由がある。仕方ない」と考えられるようになりましたし、薬の説明もちゃんと聞かなくちゃなとか、お薬手帳は持っておいたほうがいいなとか、ひとつひとつの行動が変わってきました。
患者さんは理由を分からないですもんね。薬剤師側もそういったことを積極的に発信する必要があるのかもしれませんね。
私のように「薬剤師=薬を渡す人」というイメージをもっている人も多いと思います。今後、調剤業務を含めて薬剤師さんの仕事のオートメーション化はさらに進むと思いますが、「患者を見る」ことができるのはやはり機械じゃなくて人だと思うんです。
たとえば、副作用がどのように出ているのか。そのあたりは、患者さんや数値を実際に薬剤師が見ていないと分からない部分ではないでしょうか。調剤をするだけなら機械のほうが正確で速いでしょう、けれど患者を見る目をなくしてはいけないな、と思うのです。
目立たなくても、スポットが当たらなくても、患者のことを思い、考えて尽くしている薬剤師が存在するということ、ぜひドラマを通して広く伝えて行けたらと思っています。けがや病が治って終わりではない。病気を治すことだけでなく“患者がどう生きるのか、どう生きていきたいのか”を考え、退院した後の生活も含めてケアをし続けていく。病院薬剤師からの“心の処方箋”という意味を込めてサブタイトルを付けました。ぜひ、葵みどりと薬剤師チームの奮闘、ご注目ください。
石原さとみさん主演『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』は、7月16日(木)夜10時より全国フジテレビ系にて放送予定です。薬剤師が主役として活躍する、おそらく世界で初めての連続ドラマです。全国の薬剤師の皆さま、どうぞお見逃しなく!