「バイタルサインを学ぼう⑤体温」薬剤師のためのフィジカルアセスメント
体温とは
体温(BT;body temperature,KT;Körpertemperatur)は、通常0.5~1.0℃の間で変動がみられますが、ほぼ一定の温度の約36.8℃に保たれている。夕や運動時には体温は上昇しており、女性では排卵後に上昇する。
また、その上昇により代謝速度は増加し、逆に低下すれば代謝速度は低下する。外気温が-50℃~+50℃の高低差のある地球上で生存できるのは体温調節機構があるからである。
体温を一定に確保するために、体内の熱の産生と消失のバランスを取りながら生命を維持している。
○熱の産生
炭水化物や脂肪が代謝されたとき、細胞内に放出されるエネルギーの一部として熱が産生される。このため活発な器官が最もよく熱を産生する。代表的な器官を以下に挙げる。
- 随意筋が収縮すると大量の熱を産生する。
- 肝臓では化学的な活動することで熱を産生する。
- 消化器は消化管壁の平滑筋の収縮および消化により熱を産生する。
○熱の消失
熱は、ほとんど皮膚を通じて放出される。その他には呼気や尿や排泄物とともに失われる。皮膚から失われる熱は、外気温や衣服などにより影響を受ける。
○体温の調節
熱の産生や消失のバランスは視床下部にある温度受容体によって行われている。これは循環血の温度により反応し、汗腺に分布する自律神経の刺激によって体温に影響する。体温調節は視床下部の体温調節中枢によって維持されている。中枢ではセットポイント(温度設定)が定められていて、この指示により体温調節機構がはたらいている。感染症ではこのセットポイントが高く設定されるため高温になる。
○部位による体温の相違
身体の温度は部位によって異なり、深部では高く、外装部では低い濃度勾配がみられる。この温度分布は生態を取り巻く環境温度に影響され20℃の室内化では深部と外装部の濃度勾配は大きいが室温を35℃まで上昇させると深部の占める割合が増加し、その結果濃度勾配 が小さくなる。深部の体温は寒冷暴露や遮熱暴露に関わらず一定に維持される部分であり核心部coreと呼ばれている。それに対し環境温の変化に応じて変化する部分は外装部Shell と呼ばれており体温放散に重要である(図1)。
図1 室温20℃と35℃における等温線
体温の測定
1)測定方法の種類
エレマーノ血圧計(テルモ電子血圧計 H55)を用いた血圧測定について解説する。自動測定と聴診測定があり、基本操作の流れは図1の通りである。
○実測式測定法
測定部位において平衡温まで計測するもの。通常、腋下で約10分、口腔で約5分程度要する。
○予測式測定法
一定の時間計測し、温度の上昇の仕方から予測して表示する。大部分の予測式電子体温計は最初の数十秒で予測値を演算し、アラームとともに予測値を表示するが、そのまま測定すると実測値を測定し平衡温に達したとことで2度目のアラームとともに実測値を表示する仕組みになっている(図2,資料1医療用体温計)。
図2 予測式体温計のメカニズム
2)体温の種類
○腋下温
- 腋下温は腋下の閉鎖腔を形成している皮下組織の温度である。体表近くを走行する腋下動脈の温度を反映している。従って腋下温とは動脈血の温度を間接的に測定していることになる。脇を密着させて平衡温度に達するまで一定の時間測定する(体温計により時間は異なる)。また、腋下が外気にさらされると予測式では、温度上昇カーブに影響して誤って測定される危険性があることに注意する。
- 体温計が垂直あるいは下を向くなど挿入角度を確認する。腋下動脈走行部に向けて約30~45°上方に向ける。
- 発汗していないか確認する。発汗していると気化熱により体温が奪われるため低く測定される。
- 側臥位で測定(検温側を下)すると血管が圧迫され血流が阻害されて低値に測定される。
○口腔温
- 舌下中央部は血流が多いため血流温度を反映しやすい。また、外気の影響を受けにくい。
- 不適は口腔内に病変がる患者、咳嗽・鼻閉のある患者、呼吸困難のある患者、意識障害患者である。
- 口腔温は女性で基礎体温測定する場合が多く、自宅で起床時に継続的に正確に測定する場合が多い。
- 舌下中央部、舌小帯に沿った部位に感温部を挿入しで測定する。舌小帯に当たると深く挿入できないばかりでなく正しく測定できないことがある(血液温度を反映しにくい)。
- 口呼吸・開口していないかチェックする。呼吸による気流により低く測定される。
○直腸温
- 深部温度として最も信頼できる測定値が得られる。従って深部体温を正確に測定する際、例えば、極度の高体温、低体温の患者に測定する。
○鼓膜温
- 鼓膜から発する赤外線量を計算して、それを換算して温度として表示する。
- 鼓膜の傍の内頚動脈の温度を間接的に測定している。
アセスメント
体温の正常範囲は一般的に37℃を境界線として、それ以下である。それを超えた場合を高体温としている。
また、健康なときの体温を平温と呼ぶが、個人差がある。平熱が35℃の患者が37℃になった場合は、比較的高い、高熱と判断されることもある。
また、図3に示したとおり時期によって発熱と解熱の過程があるので、その時点がどの時期なのかを見極めることも重要である。
体温の変化
<生理的変動要因>
- 日内変動・・・1日のなかで体温は変動があり、深部体温であっても一定でない。日内変動は約0.6~1.0℃で、覚醒前の夜明けが最も低く、覚醒とともに急上昇し、夕方最高値になる。日内変動以上の変化は病的を疑う。また、睡眠と体温は密接な関係があり、深夜に深部体温の下降にともなって睡眠が始まり、上昇により覚醒する。
- 環境による・・・食事摂取、運動、入浴など日常生活の中でも体温は変化します。また、季節や寒いあるいは暑い地域でも影響します。スポーツなどの激しい運動では体温が上昇するが、一定以上の上昇がみられると発汗に伴って熱が放散され低下する。
- 加齢・・・・体温調節が未完成な小児、高齢者は外気温の影響を受けやすいなど、年齢によっても変化する。疾病による発熱疾病によって発熱の経過が異なることがあるので代表的な経過を図4に示す。必ずしも典型的なことばかりではないので覚えておきましょう。
図3 発熱と解熱の過程
図4 代表的な熱型パターン
執筆:佐々木忠徳
Souce:
「一般社団法人日本病院薬剤師会:薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~(医薬品に関連した副作用として身体所見把握するための基礎を修得する),2012年6月9日. (https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20120622-1.pdf)2024年4月15日参照」
※上記は2012年に執筆された寄稿です。