分かりやすい!薬剤師のための法律「薬機法」

更新日: 2021年6月26日 大西 純一

薬剤師業務を薬機法等の視点から考える

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相談1「服薬指導」

服薬指導についておうかがいします。
毎回、同じ薬を処方され正しく服用できている患者さんが来局しますが、服薬指導の必要性に疑問を感じています。

法律

  • 医療法
  • 健康保険法
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
    (「薬機法」あるいは「医薬品医療機器(等)法」と呼ばれる法律。このシリーズでは「薬機法」を用います)
  • 薬剤師法

事例チェックポイント

健康食品であるセント・ジョーンズ・ワートの摂取による医薬品への影響が厚労省(当時)「医薬品・医療用具等安全性情報No.160」に掲載されて20年超が経過しています。
事例の患者さんは、服用薬に影響する健康食品や食品を摂取していないか確認しているでしょうか。

また、糖尿病疾患を有する患者さんが熱中症予防のため水分摂取を奨励されたがために糖分含有の飲料水を多量に摂っていないか聴取しているでしょうか。
この他にも患者さんに確認しておきたいことはたくさんあると思います。

解説

Point 1
服薬指導に関する条文を薬機法から紹介します。

法律上「薬局」の定義が第2条(定義)第12項に示されています。
『この法律で「薬局」とは、薬剤師が販売又は授与の目的で調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所(その開設者が併せ行う医薬品の販売業に必要な場所を含む。)ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設の調剤所を除く。』とあります。
※下線部は令和2年9月1日施行分


Point 2
薬局の定義に「新たに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務」が追加されています。
これは厚生労働省が薬剤師業務のうえで、患者さんの指導を重要課題としていることがわかります。


Point 3
「薬機法施行規則」において今回は第158条の9の2第3項二のみを紹介します。

『二 当該薬局医薬品の用法、用量、使用上の注意、当該薬局医薬品と併用をさけるべき医薬品その他の当該薬局医薬品の適正な使用のために必要な情報を、その薬局において当該医薬品を購入し、又は譲り受けた者の状況に応じて個別に提供させ、又は必要な指導を行わせること。』とあります。

さらに学べる法律の知識

薬機法第36条の4(薬局医薬品に関する情報提供及び指導等)を見てみましょう。

今回のシリーズの趣旨から外れるので情報提供に関する部分はカットしますが、第1項には『薬局開設者は、薬局医薬品の適正な使用のため、・・(中略)・・必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。』とあります。

さらに、第5項として『第1項又は前項に定める場合のほか、薬局開設者は、薬局医薬品の適正な使用のため必要がある場合として厚生労働省令で定める場合には、厚生労働省令定めるところにより、その薬局において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、その販売し、又は授与した薬局医薬品を購入し、又は譲り受けた者の当該医薬品の使用の状況を継続的かつ的確に把握させるとともに、その薬局医薬品を購入し、又は譲り受けた者に対して必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。』と規定しています。

第5項は新たに追加となり令和2年9月1日施行分になりましたが、この第5項の部分でも「使用の状況を継続的にそして的確に把握すべきと指摘しています。さらに薬学的知見による指導の実施が求められ」ています。法律独特の言い回しにおいて、少なからず拒絶反応が起こっているかもしれませんが「」内を覚えておくとよいでしょう。

ためになる法律概論

法律は国会の議決を経て制定されるものであり、「薬機法」がこれに当たります。条文のなかに厚生労働省令という文言が見られますが、厚生労働省令は、各省大臣が法律又は政令の施行又は政令の施行又は特別の委任に基づいて発する命令であり、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」(「薬機法施行規則」)が省令に該当します。法律を補填するものと解釈してもよいでしょう。

この他、健康保険法に関する厚生労働省令としては、「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(薬担規則)」がありますが保険調剤を行う上での基本的事項を定めたもので、こちらの方がより馴染みがあるのではないかと思われます。

この法律と省令の間に位置するものに政令があり、憲法及び法律の規定を実施するためのものと、法律の委任に基づくものがあります。そして「薬機法施行令」が該当します。

医療の担い手としての薬剤師の責務に関する規定は法律等で定められており、薬事関係法規については大学の講義の必須科目にもなっています。また薬剤師国家試験にも重要項目として出題されているので、その時に勉強をしても、本音で言えばあまり興味を引くものではなく社会人として薬剤師業務に携わってからはほとんど法律には縁の無い方が多いのではないかと思われます。

例えば、交通事故を起こして道路交通法を知らなかったという理由で罰則が免除になることはありませんが、同様に薬剤師の業務においても何かの事故があった場合にも知らなかったで済む問題ではないのです。そのため薬剤師業務に関する規定はその職能のゆえ、自動車で右折する場合は対向する直進車が優先であるというような細かい規定はありませんが、ヒトの生命を預かる職種であるので、重々自覚して職務にあたらなければならないと感じています。

このシリーズでは医療に従事する薬剤師の皆さんに法律に慣れ親しんでもらえるように、わかりやすい言葉で書き表しています。法律の文言や言い回しを知ってもらうため『 』内は法律の原文を紹介しました。

まとめ

薬剤師業務のひとつである服薬指導は、法律で決められているから行うのではなく、法律が制定された根拠をしっかりと把握しておくことが重要になります。医療現場において患者さんのために出来ることは何かを考えて業務を行うことが大切です。

また、施行規則に示されている「併用を避けるべき医薬品」だけに特化するのではなく、薬剤師と患者さんとの信頼関係が構築されれば患者さんから積極的に提供された検査値の推移をみて有害事象の早期発見や治療効果に影響を及ぼしているかもしれない食生活を注視することも必要になると思います。

ちょっと休憩~一言後記~

法律は条文でのその独特の言い回しに慣れるまでが大変であり、さらに法律、政令、省令、告示、局長通知、課長通知、事務連絡等いくつもの情報が届けられます。
通知や事務連絡は最近平易な言葉遣いを使用して発出されていますが、読むヒトにとってはどのように解釈してよいか判断に迷う場合もあるようです。

医療現場で働く薬剤師にとって法律にはなじみのない方が多いとは思いますが、習うより慣れよの気持ちで法律と向き合っていくのもひとつの方法です。また、法律が制定される場合は、その前に識者により公式の提言がなされており、それに基づいて法律が策定されています。次回以降これらも紹介しながら法律に関する情報を提供していく予定です。

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大西 純一
おおにしじゅんいち

薬剤師・医学博士  元職 国際医療福祉大学大学院 創薬育薬医療分野 教授 / 大分大学医学部附属病院 臨床薬理センター客員教授 / 厚生省(現厚生労働省)医薬安全局 安全対策課 GPMSP査察官 / 医薬品機構(現医薬品医療機器総合機構:PMDA)治験指導部治験調査課長 / 香川医科大学(現香川大学)医学部附属病院 薬剤部 医薬情報室長 / 公立三豊総合病院 薬剤部 薬剤部長他 / 著書「これならわかる、使える 臨床研究に関する倫理指針」/ 「看護過程に沿った対症看護 病態生理と看護のポイント」/ 「CRCのための治験110番Q&A」/ 「治験事務局担当者のためのガイドブック」

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