法律から解釈する薬剤師の「服薬指導」
相談2 「服薬指導」
最近、定期的に同じ薬を内服している患者さんが来局されました。いつもと同じ薬であっても服薬指導は必須となるのでしょうか。
法律
- 薬機法・薬機法施行規則(厚生労働省 医薬・生活衛生局)
- 医療法(同 医政局)
- 薬剤師法(同 医薬・生活衛生局)
- 健康保険法(同 保険局)
省令
- 薬機法施行規則(同 医薬・生活衛生局)
- 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(同 保険局)
事例チェックポイント
薬機法第36条の4第5項には、「(前略)…の当該医薬品の使用の状況を継続的かつ的確に把握させるとともに、その薬局医薬品を購入し、又は譲り受けた者に対して必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない」とあり、最後の文言には「指導を行わせなければならない」と記載されています。
そのため基本的な考えとして、法律的に指導は必須になると解釈できます。
しかし今回の相談のように解釈の仕方に悩む場合もあり、法律に慣れ親しむといってもなかなか出来るものではないのが現状です。
例えば、先の通常国会で成立できなかったLGBT法案は法律の目的と基本理念に「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないとの認識の下」との記述があり、政府の従来答弁は「差別は認められない」でした。
これだと行き過ぎた運動や訴訟に発展しかねないとの懸念を訴えにより「差別は許されない」となりましたが、意味が違ってくる、受け取り方によって意味が異なり法律用語としての不適格性が指摘されました。
このように法律は通常の文書作成とは異なった視点が必要となってきますが、一般の人にとってこれが違和感を覚える原因かもしれません。
それでは一緒に、法律の観点から服薬指導が必須となるのかについて考えてみましょう。
解説
Point 1
先の事例チェックポイントでも示したとおり、参照条文の最後の文言には「指導を行わせなければならない」とあり、法律的には必須になると解釈できます。
ただし、この条文の中に「必要な」という文言が含まれ、「必要な」の程度は個人個人の主観で解釈が変わるので悩ましいものです。
もし、この条文の中で「必要な」という文言がなければ指導は絶対条件となり、何らかの都合で指導が出来なければ法律違反ということになるとも読み取れます。あくまで私見ですが、「必要な」の一言がこの条文において重要な役割を果たしているとも言えます。
Point 2
服薬指導は法律で規定されているから行うのではなく、患者さんのために行うものです。
薬剤師が医療の担い手として認識されるようになってきていますが、対応した患者さんにより質の高い医療を提供するために医薬品の使用状況を継続的に把握することはもちろん、当該患者さんに必要な情報を提供することや薬学的知見に基づく指導を行うことは薬剤師の責務といってもよいでしょう。
医療法を紹介しますと、第1条の4「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第1条の2に規定する理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。」とあり、また、同第2項「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と明記されています。
Point 3
服薬指導を実施した証としての記録を残しておきましょう。
薬機法では第9条の3第6項が新たに追加されましたが「薬局開設者は、…(中略)…情報の提供及び指導を行わせたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該薬剤師にその内容を記録させなければならない。」とあります。
さらに、個人情報保護法に基づき、患者さんから薬歴の内容について開示を求められる場合があることも意識しておきましょう。
さらに学べる法律の知識
前回、法律と施行規則に位置づけを述べましたが、Point3の解説において厚生労働省令で定める…という文言がでてきます。ここでいう省令は薬機法施行規則を示しますが、当該条文は施行規則第15条の14の3に規定されています。
法第9条の3第6項の規定(法は薬機法を示す)により薬局開設者が、その薬局において「薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に記録させなければならない事項は、次のとおりとする。」と記録すべき内容が明記されています。
- 法第9条の3第1項、第4項又は第5項の規定による情報の提供及び指導を行った年月日
- 前号の情報の提供及び指導の内容の要点
- 第1号の情報の提供及び指導を行った薬剤師の氏名
- 第1号の情報の提供及び指導を受けた者の氏名及び年齢
このように法律を読んだだけでは内容を把握できず、より下位の施行規則、さらに告示、通知まで検索しなければ求める情報が明らかにならないことも法律に慣れない要因かもしれません。また、逆に上位規定に遡ることも必要となる場合もあり複雑です。
ためになる法律概論
今回は服薬指導を通じて医療における薬剤師の立ち位置を説明しましたが、上記以外に医療法では第1条の2において「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身状況に応じて行われるとともに、…(中略)…良質かつ適切なものでなければならない。」とあります。
また、同第2項では「医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他医療を提供する施設…(中略)…の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。」
同第3項「医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」とあります。
薬剤師法では、第25条の2に「薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」とあり、同第2項では「薬剤師は、前項に定める場合のほか、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合には、患者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握するとともに、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。」とされています。
さらに健康保険法では第70条第3項に「保険医療機関のうち医療法第4条の2に規定する特定機能病院その他の病院であって厚生労働省令で定めるものは、患者の病状その他の患者の事情に応じた適切な他の保険医療機関を当該患者に紹介することその他の保険医療機関相互間の機能の分担及び業務の連携のための措置として厚生労働省令で定める措置を講ずるものとする。」とされています。
このほか保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(省令に該当:「薬担」と呼称されます。)にも同様な事項が定められています。
厚生労働省内において所管局が異なってもどの法律も薬剤師の職能や地域連携における薬剤師の価値を明記してくれていますが、規定に恥じない薬剤師となるように研鑽していきましょう。
まとめ
服薬指導は薬剤師の職能として行うものです。どうしても実施不可の場合はその理由を記録として残しておき、薬剤服用歴管理指導料などの請求はしないようにしましょう。
不正請求や不当請求はあってはならないものです。
国として法的に薬剤師としての権利を認めてくれたのですから、さらにスキルアップしていきましょう。ただし、権利があるならば義務もあることを忘れないでおきましょう。
ちょっと休憩~一言後記~
今回の話題のなかで「薬剤師」と「保険薬剤師」という文言が出てきますが、「薬剤師」は薬剤師法で規定される調剤を行うことができる資格を持った者を言い、「保険薬剤師」は健康保険法等で規定される保険調剤を行える薬剤師とされています。
薬剤師免許を取得した薬剤師のうち、健康保険法に則り保険薬剤師の登録をした者が「保険薬剤師」です。
次回は法律を解釈するために参考となるアイテムを紹介する予定です。