法律から解釈する薬剤師の「服薬指導の設備」
相談3 「服薬指導の設備」
法律の内容を理解するために利用できるものがありますか。
法律
薬機法(厚生労働省 医薬・生活衛生局)
省令
薬機法施行規則(同 医薬・生活衛生局)
*( )内は所管局
事例チェックポイント
前回、服薬指導の法的根拠を説明し、条文の中の一言が重い役割を果たしているかもしれないことを述べました。
説明されるとなるほどと思うかもしれませんが、自分で法律の趣旨を判断するにはやはり難しいものです。
法律制定のきっかけは、例えば内閣が閣議決定する骨太方針があります。
骨太方針2021には「オンライン服薬指導の特例措置の恒久化」があり、新型コロナウイルス感染症が収束するまでの間、現在の時限的措置を着実に実施するとされたオンライン服薬指導のバージョンアップを図るとしています。
次に、時代の流れとともに旧法の改定が必要になる場合もあります。旧薬事法から「薬機法」へと法改正が行われたことがこれに該当します。
その他、臨機応変に法律制定が必要となる事案もあります。
令和元年の薬機法等の一部改正によって関連する省令や政令等を整備する必要性が派生するため多くの作業が必要となることもあるのです。(参考資料1)
法律は一朝一夕に出来るものでは無く、通常いろいろな過程を経て成立します。
薬機法等制度改正に関しては厚生科学審議会の医薬品医療機器制度部会において議論されています。有識者による検討会や具体的情報が必要な場合は厚生労働科学研究として客観的データを収集し、これらの情報を検討会資料とすることもあります。
ある程度法の骨子がまとまり法律や省令「案」とし当該「案」についての意見を募集します。
いわゆるパブリックコメントといわれるものです。
コメントを参考に手直しが行われ正式に法律として成立します。
その後施行規則、通知等で詳細が示されるという流れになります。
本年8月より健康サポート薬局の推進等薬剤師業務が大きく変換していきますが、今回は題材として抽象的事例は避け、理解しやすい具体性を持ったテーマとして服薬指導における薬局設備を取り上げました。
今回のコラムの趣旨が法律に親しむということですので、あえて詳しい内容には踏み込まず、参考として当該箇所がネットで検索できるような形式としました。
解説
Point 1
法律制定の前段階のひとつを紹介します。
薬事法が薬機法へと改正され、その後「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」が平成30年12月25日に厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会により発表されました。(参考資料2)
この中で、「薬局は、従事する薬剤師が以上のような役割を十分に果たせるような環境を整備する必要がある。その一環として、薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、品質の確保を前提として対物業務の効率化を図る必要がある。」と指摘されています。
まだまだ、アバウトな指摘ですがこれが発展して現在に至ります。
Point 2
法律制定の途中段階で実施されるパブリックコメントをひとつ紹介します。
参考資料として掲載しました(参考資料3)の意見募集結果をクリックするとパブリックコメントの意見の内容と厚労省の考え方(参考資料4)が表示されます。
このパブリックコメントのP18から(4)設備に関する内容が記載されていますが、次項Point3の2番目に紹介する施行通知においてこのパブリックコメントの意見が反映されています。
Point 3
法令制定後には通知等でより詳細で具体的な内容が記載されてきます。
令和3年1月22日発出の厚生労働省医薬・生活衛生局長通知;「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の公布について」(参考資料5)のなかで「2専門医療機関連携薬局の基準等(第10条の3関係)において (2)新法第6条の3第1項第1号の厚生労働省令で定める基準は、次のとおりとすること。
- 利用者が座って情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を受けることができる個室その他のプライバシーの確保に配慮した設備を有すること。
- 高齢者、障害者等の円滑な利用に適した構造であること。
さらに、令和3年1月29日発出の厚生労働省医薬・生活衛生局長通知;「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(認定薬局関係)」(参考資料6)の「1 構造設備(規則第 10 条の2第 1 項関係)」で「なお、このような設備を有したとしても、実際に情報提供や服薬指導等を行う薬剤師の態度や声の大きさ等によっては、利用者が安心して相談できない、他の利用者に内容が聞こえてしまうといった可能性もあるため、本号の規定に基づき設備を整備するとともに薬剤師の対応方法についても薬局内で周知し、利用者が安心できる環境を確保すること。」などと上記パブリックコメントも参考にしたものが示されています。
さらに学べる法律の知識
法律制定前の平成27年9月24日に健康情報拠点薬局(仮称)のあり方に関する検討会よ
り「健康サポート薬局のあり方について」と題した報告書(参考資料7)が出されています。
この報告書のなかにも、薬局の設備以外にも服薬情報の一元的な把握とそれに基づく薬学
的管理・指導等が提言されており一度目をとしておくのもよいかもしれません。
また、同時期に厚労省より「患者のための薬局ビジョン~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~」が策定されています。(参考資料8)ページ内で概要(PDF)等が閲覧できます。
ためになる法律概論
今回話題として取り扱った法律や省令のひとつとして令和3年1月22日に発出された医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令)(令和3年厚生労働省令第5号)があります。(参考資料9)
この条文・新旧対照表の最後から2ページ目に附則として「附則 (施行期日) 第一条 この省令は、令和三年八月一日から施行する。」とありますが、これを根拠に8月より各組織が対応を行っているわけです。
少し難しい言い回しもありますが、法律等がどのように変化したのかを見るのも良いかもしれません。
これを閲覧した人は縦書きの文書は見慣れていない方が多いと思いますが、法律や国会の質問主意書や答弁書は踏襲して縦書きが使用されている場合が多々あります。
国会中継を見る機会があれば、答弁者の目線が縦に動いていることを確認してください。
また、今では銭湯くらいでしかお目に掛からないイロハといったカタカナが法律等において用いられているのも興味あるところです。
まとめ
法律はいろいろな過程を経て私たちが目に触れることができます。
法律という幹だけで物事を判断するのではなく、枝葉までそして根っこまでしっかりと読み込んで正しく解釈することが必要となります。
今回は服薬指導を実施する場所のパーティションに関する事項を取り上げてみました。指導を拒否する患者の拒否理由が時間的問題ではなく、他人に話しを聞かれたくないためという 理由で拒否される患者も存在していると推測されます。
Point3後段でも示唆しているように最低限法律に準拠しているから良いという考えでは無く、特定の患者のために個別の指導ブースを設置するという考えを持つことも必要ではない
でしょうか。
ちょっと休憩~一言後記~
巻末に参考資料を掲載していますが、mhlwは Ministry of Health, Labour and Welfare、 goはgovernmentの略ですべて公的なサイトから引用したものですので安心してアクセスしてください。
いろいろな機関から対応マニュアルやQ&A等が提供されていますが、それだけに頼らず何故この法律が制定されたのか、なぜこの条文になったのかという疑問から出発して自分で考え、それを業務に生かすということができれば、それは最終的には患者のためになるすばらしい薬剤師になれるかもしれません。
参考資料
1. 令和元年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
2.000463479.pdf (mhlw.go.jp)
3.医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第1条第5項第十号に規定する厚生労働大臣が定める基準に関する意見の募集について|e-Govパブリック・コメント
4.Microsoft Word - ※set※ 【健康サポート告示】パブコメ結果 (e-gov.go.jp)
5.000726347.pdf (mhlw.go.jp)
6.(自治体あて)認定薬局解釈通知(施行通知) (mhlw.go.jp)
7.matome.pdf (mhlw.go.jp)
8.「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました |報道発表資料|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
9.Taro-【公布日、法令番号入り】案文 (mhlw.go.jp)