分かりやすい!薬剤師のための法律「薬機法」

更新日: 2021年10月2日 大西 純一

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告」

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告」の画像1

相談4 「副作用報告」

服薬指導で患者さんから医薬品の副作用と思われる事象が伝えられました。どのような対応が必要か教えてください。

法律

薬機法(厚生労働省 医薬・生活衛生局)
独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(法案提出:内閣)

省令

薬機法施行規則(同 医薬・生活衛生局)
*(  )内は所管局

事例チェックポイント 

頻繁に起こることではありません(逆にあっては困ります)が、服薬指導を実施するなかで、「これは副作用か?」と思われる事例に遭遇することを経験したことがあるかと思います。今回は法律をベースに副作用報告について説明していきます。

まずは、副作用報告が何故必要なのかを知っていただくために少し古い情報ですが、印象に残っているものを紹介します。

ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ 以下、ウルソと略します。)ですが、2000年に重大な副作用として「間質性肺炎」が追加されました。
ウルソ散は1957年に承認されていますので発売以来40数年経過する間に3例の間質性肺炎が報告されたことになります。
安全性が高いとされていたウルソによる間質性肺炎の発現は副作用判定に携わっていた専門家の先生方からも驚きの声があがりました。(参考資料1)

もし、この3例の報告がなければウルソを中止すること無く継続服用することにより副作用として発現した間質性肺炎の対応が後手にまわり重篤化する症例があったかもしれません。

ウルソを開発された製薬企業の地道な作業で副作用を収集し、厚生省に副作用として報告していたことに敬意を表したいと思います。

薬局勤務薬剤師等における副作用報告は、薬機法第68条の10第2項「薬局開設者、病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者又は医師、歯科医師、薬剤師、登録販売者、獣医師その他の医薬関係者は、医薬品、医療機器又は再生医療等製品について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生又は当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生に関する事項を知つた場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。」とされています。

ここで法律用語に注目したいと思います。上記法律中に「保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは…報告しなければならない。」とあります。
前回までのコラムと同様に解釈は個々の思いが入る部分となります。

副作用報告は今まで説明した服薬指導と同様に根本的には目の前の患者さんに発生した副作用を回避し重篤化を防ぐことが主目的であることを理解してください。さらに、副作用報告をすることにより多くの情報が一元化され、それにより他の多くの患者さんが救われることになるのです。

ちなみに、同法第1項は医薬品製造販売業者等に係る条文ですが、「…当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生、当該品目の使用によるものと疑われる感染症の発生その他の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の有効性及び安全性に関する事項で厚生労働省令で定めるものを知つたときは、その旨を厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に報告しなければならない。」と厳しく規定されています。

以下、医薬品に的をしぼり解説していきます。

解説

Point 1
副作用を発現したと思われる医薬品(被疑薬)を薬歴から絞っていきましょう。

事例チェックポイントで示した薬機法のなかで「当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生」とあります。

例えば、患者さんより最近尿の出が悪くなってきたと訴えがあったとしましょう。
長期にわたり継続服用していた医薬品に新たに追加となった医薬品があればこの医薬品が最も疑わしいものと判断されます。
ただし、医薬品ばかりに注目するのではなく、食生活の変化や健康食品等の新たな摂取などもしっかり聞き取りし総合的に判断する必要があります。

新たな医薬品が処方された医療機関のみならず他医療機関等の薬歴を広く収集しておくことが必要となりますので、服薬指導をおろそかにしないことが大切です。

また、逆に参考資料1の症例1は間質性肺炎を発現したと疑われる医薬品の服用を中止していき、最後に2品目に絞りLMIT(白血球遊走阻止試験)で被疑薬を決定した事例といえます。


Point 2
被疑薬と考えられる医薬品による副作用発現情報を調べましょう。

副作用発現に遭遇した場合、本当にこれが被疑薬となるか判断するのに悩むことがあります。

例えば、患者さんより最近疲れやすくなってきた、時々立ちくらみがすると訴えがあったとしましょう。貧血?低血圧?と原因を色々考えると思います。
被疑薬で貧血や赤血球減少等の副作用報告があれば、患者さんに薬の副作用かもしれないと説明し、同意を得たのち主治医にその旨伝達しましょう。(患者さんを通じて主治医に相談もよいでしょう。)
さらに原因究明のための検査を実施してもらい、服用開始前、服用中(現在の数値)により現状における判断をしましょう。もし、処方中止で服用を止めた場合には、その後の推移がわかるように検査を実施してもらうことも必要です。検査値が服用前の正常値に戻れば被害薬であると明白となります。

さらに被疑薬のみでなく、類薬の副作用発現状況も調べて検討材料としましょう。また、今まで報告されていない新たな副作用かもしれないことも念頭においてください。

主治医から「外せない薬である」とか「継続しても心配ない」と言われる場合があるかもしれません。その時は患者さんに対して継続的なフォローをしていきましょう。医療の難しいところですが、日頃より患者さんのみならず主治医との信頼関係を構築しておかなければなりません。


Point 3
主観ではなく客観的データでもって報告しましょう。

参考資料1のふたつの症例においても胸部X線写真や臨床検査を実施していることより間質性肺炎の発現から適切な対応により軽快に向かう状況が判ります。
患者さんの客観的情報収集において薬局勤務薬剤師は病院勤務薬剤師と比較し不利な状況にありますが、可能な限り客観的情報を収集していきましょう。
主治医から直接情報を得ること以外に、患者さんを介して情報を得ることもあるかもしれません。服薬指導においていかに患者さんから信頼されているかを判断する指標のひとつになるかもしれません。

さらに学べる法律の知識

事例チェックポイントの項目で副作用報告において医療機関と医薬品製造販売業者等に違いがあることを述べましたが、薬機法は主として製造販売業者等に対する規制であることが判ります。

薬機法施行規則では副作用報告として第228条の20に詳しく規定されています。(参考資料2)

製薬企業のMRの方に患者さんに副作用が起こったと伝えたところ、慌てて聞き取りや調査票の作成を依頼された経験のある薬剤師もいると思います。
これは上記施行規則で定められている「次の各号に掲げる事項を知つたときは、当該各号に定める期間内にその旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。」に従う義務があるためです。

該当する期間内に報告ができなければ企業は薬機法違反という烙印を押されることになるのでMRの方にとっては非常にシビアな業務になります。
そのため、法律をよく理解して報告に協力してあげましょう。15日報告、30日報告(このように呼称されている)はMR認定試験にも出題されている項目です。

ためになる法律概論

今回話題として取り扱った副作用報告は薬機法には「その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない」と規定されており、安全性報告書はPMDAのホームページからダウンロードできます。

報告書については次回のコラムで詳細をお示しする予定ですが、届け出先は厚生労働大臣ではなくPMDAとなっています。

法律とは違うではないかと思われる方もいるかもしれませんが、薬機法第68条の13第3項において「厚生労働大臣が…機構に情報の整理を行わせることとしたときは、…報告をしようとする者は、これらの規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところにより、機構に報告しなければならない。」とされていますので違反とはならないのです。

さらに、薬機法施行令で機構による副作用等の報告の情報の整理に係る医薬品等の範囲が定められ、施行規則では該当する箇所において「……「厚生労働大臣」とあるのは「機構」と読み替えるものとする。」とされています。

PMDAの業務等は別途独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(参考資料3)等にも従って行われています。

やはり法律は複雑で難解ですが、これを作る側の努力は認めてあげましょう。

まとめ

副作用について法律を解釈するために、安全性が高いとされたウルソを例としてあげましたが、ふたつの症例の掲載に至る過程としては副作用を報告した企業より医療機関に症例掲載の依頼を行い、受諾したのち掲載の運びとなります。
副作用報告は守秘義務が厳守されていて、患者さんの個人名等は記載の必要が無いことや個人が特定されないことを患者さんに伝え安心していただき、承諾を得た上で報告しましょう。
企業から調査票作成の依頼があった場合、慣れない作業で戸惑うこともあるかもしれません。しかし診療録や検査データ等をMRの方が直接閲覧することは個人情報保護法に抵触する恐れがありますので避けなければなりません。

令和2年度国内副作用・感染症報告数は国内企業より約5万件、医療関係者より約1万件あります。医療関係者からの報告のうちPMDA調査対象となった数が約2千件とかなり差があります。「さらに学べる法律の知識」で述べたように同一症例が企業から報告される場合もあることを勘案しても、残念ながら具体的な検証ができかねる報告が多いものと推察されます。(参考資料4 25・26枚目)

貴重な報告ですので報告するのであれば少しでも内容を充実した有用な報告書にして提供しましょう。

コロナ禍の今、MRの方の活動が制限されていますので医療機関による副作用報告が重要となってきます。副作用発見はいつも実施している服薬指導の必要性を実感でき、薬剤師の職能が生かされる分野のひとつとなります。

ちょっと休憩~一言後記~

提示の症例2は被疑薬(服用時は被疑薬とする判断に至っていない)を再投与して同様の症状が発現したためウルソを最も疑われる医薬品として報告されたものです。当時はウルソにより間質性肺炎が発現しているとは考えられないため、薬剤性肝障害の再発に対し薬効を期待して被疑薬を再投与したと思われます。

症例の再投与は不可抗力で行われたものと推測されますが、副作用発現を確認するための再投与(リチャレンジ)は倫理的にやってはならない行為です。

薬機法には医薬品等の開発には必須の治験も含まれます。治験や臨床研究では倫理が重要視されますが、一般的な医療においても倫理とは無関係ではありません。

また参考資料4は副作用被害救済、承認審査、添付文書情報等PMDAの業務がわかりやすくスライド形式で表示されていますので、閲覧する価値はあると思います。

次回は、少し法律から離れるかもしれませんが、具体的な事例を紹介しながら副作用報告について解説していく予定です。

参考資料
1.(参考)医薬品等安全性情報162号(報道発表資料) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
(https://www.pmda.go.jp/ )


2.医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則 | e-Gov法令検索

3.独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(◆平成14年12月20日法律第192号) (mhlw.go.jp)

4.000241511.pdf (pmda.go.jp)

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大西 純一
おおにしじゅんいち

薬剤師・医学博士  元職 国際医療福祉大学大学院 創薬育薬医療分野 教授 / 大分大学医学部附属病院 臨床薬理センター客員教授 / 厚生省(現厚生労働省)医薬安全局 安全対策課 GPMSP査察官 / 医薬品機構(現医薬品医療機器総合機構:PMDA)治験指導部治験調査課長 / 香川医科大学(現香川大学)医学部附属病院 薬剤部 医薬情報室長 / 公立三豊総合病院 薬剤部 薬剤部長他 / 著書「これならわかる、使える 臨床研究に関する倫理指針」/ 「看護過程に沿った対症看護 病態生理と看護のポイント」/ 「CRCのための治験110番Q&A」/ 「治験事務局担当者のためのガイドブック」

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