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分かりやすい!薬剤師のための法律「薬機法」

更新日: 2021年11月1日 大西 純一

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告」

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告(その2)」の画像1

相談5 「副作用報告」

服薬指導で患者さんから医薬品の副作用と思われる事象が伝えられました。どのような対応が必要か教えてください。

法律

薬機法(厚生労働省 医薬・生活衛生局)
健康保険法(同 保険局)
独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(法案提出:内閣)

省令

薬機法施行規則(同 医薬・生活衛生局)
*(  )内は所管局

事例チェックポイント

前回、安全性の高いウルソデオキシコール酸による重大な副作用としての「間質性肺炎」発現を例示として副作用報告を説明しました。

今回も過去にあった事例を医薬品等安全性情報から引用したいと思います。2000年3月に発表されたものでセフジトレン ピボキシル(メイアクト錠、小児用細粒)によるアナフィラキシー様症状等の過敏症状が発現した症例が報告されています。

メイアクトによるアレルギー報告の頻度が急激に増加したことより、当該製薬企業に確認すると1998年2月より製剤処方設計し錠剤を小型化すると共に、顆粒剤は処方変更及び剤形変更を行い小児用細粒として販売を開始しているとのことでした。

処方変更の際にカゼインナトリウムを添加物として用い、その後、牛乳に対しアレルギーのある患者が小児用細粒を服用してアナフィラキシー様症状等の過敏症状を発現した症例が報告されたものです。(参考資料1)

添加物のカゼインナトリウムに代わる処方を検討することになり、その結果、新製剤として、2004年2月にメイアクトMS小児用細粒が製造承認、2005 年10月に小型・円形化により服用性を改良したメイアクトMS錠100mg が製造承認されています。
現在、薬剤師の皆様が手にしている医薬品は歴史上紆余曲折の産物といえるものになります。

さらに、メイアクト以外の医薬品に対しても添加物としてカゼイン又はその塩類を含有するものが医療用医薬品7品目、一般用医薬品3品目が該当しており同時に使用上の注意の改訂が行われ、「禁忌」の項に「牛乳に対しアレルギーのある患者[本剤は、添加物としてカゼイン(ナトリウム)を含有する。]」が追加されています。

メイアクトは抗菌薬として小児に投薬することが多いことよりアレルギー反応が表面化したために、カゼイン(ナトリウム)が原因であることが判明しましたが、その他10品目の医薬品での副作用発現状況がどうなっていたか興味あるところです。

後になって考えると、牛乳アレルギーがあるヒトがカゼイン含有医薬品を服用すれば、アレルギー反応が起こる可能性が大きくなることは明らかです。

このように、副作用は医薬品の主成分のみならず、剤型を整える添加物によっても引き起こされる可能性があることも頭に入れておくことが大切です。

自分たちが対応している患者さんに副作用が発現するという事例は滅多に起こることではありませんし、起こらないことを願うばかりです。
もし、副作用と思われる事例が発現した場合は速やかに、かつ、的確に対応できるよう常日頃よりシミュレーションしておくことをおすすめします。
患者さんに発現した副作用の重篤化を防ぐことや早期に回復するために必要なことでもあります。

前回、安全性情報報告書はPMDAのホームページからダウンロードできると案内しているところですが、PMDAのHPの右側の「医薬品医療機器 医療従事者からの副作用不具合等報告」のバナーをクリックすることで報告書が表示されますので参照してください。(参考資料2)

私が経験した事例を参考に解説していきたいと思います。

解説

Point 1
まずは副作用を発現したと思われる医薬品(被疑薬)を絞る作業です。

患者Aさん。高脂血症治療のため内科クリニック受診後、薬局に来局されました。「ここでこんな事を相談しても構いませんか?1ヶ月ほど前からひどい脱毛に悩まされている。」と言われる。
生活上特に変わったことをしたことも無くご本人も思い当たる事が無いとのことで医薬品の関与を疑い薬歴を精査しました。
Aさんにはアレルギー歴としてクラビットにより蕁麻疹発現、また、食品としてはさばアレルギーがありました。

本件発覚以前より内科での処方はリバロ、ネキシウム、ジェイゾロフト、メイラックスの4種類であり、現在も継続服用中です。
頸肩腕症候群のため相談を受けた3ヶ月前より整形外科を受診しセレコックス、ムコスタを服用し、セルタッチパップの貼付を開始しています。

この事例では被疑薬としては整形外科より処方された2製剤が被疑薬に該当すると考えることができます。

当時、添付文書に記載された副作用情報によりセレコックスに的を絞り、Aさんから主治医にセレコックスの服用中止を考慮していただく相談をするようにアドバイスしました。

相談から2週間後、再来局。主治医もまさかセレコックスがと半信半疑ではあったようですが、主治医の同意の下1週間前からセレコックスの服用を中止しているとの話があり、経過観察としました。

2週間後(セレコックス服用中止後3週間)に再来局。
行きつけの美容師さんからも脱毛の状況が酷いと言われていましたが、脱毛量減少が実感できるまで改善してきているとのことでした。

相談を受けた1ヶ月後からAさんがご自身で脱毛状況を写真に残し持参されてきましたので最初は驚きました。すでに改善傾向にあった中止3週間後、中止1ヶ月後、中止2ヶ月後の写真を最終的に入手することができました。

写真により客観的に見ても脱毛が減少していることが判ります。安全性情報報告にはこれらの写真も添付して送付しました。

Aさんは1回の洗髪により髪が指に絡まり大量の脱毛がありお風呂の排水溝に異常なほど溜まるのを見て非常に不安を抱いていましたが、軽快という転帰をとられ安心されています。「もっと前から脱毛の状態を撮影しておいたら良かった。」と言えるほど精神的に落ち着いてきた状態となっています。

添付文書は度々改訂作業があり当時の正確なことは明らかではありませんが、現状の添付文書においてはムコスタの副作用の項にも脱毛の記載があり、ムコスタも疑わしき医薬品にあげられるかもしれません。


Point 2
新たに開始した医薬品が副作用を発現した被疑薬であると推測しましたが、添付文書の副作用の項目に記載がない場合に遭遇した場合は被疑薬と考えられる医薬品の類薬による副作用発現情報も調べて判断材料としましょう。

まず、PMDAのHPを表示し、上段にある「安全性情報・回収情報等」のバナーをクリックしましょう。「安全性情報・回収情報・添付文書等」のページ(参考資料3)が開きます。

左側上部にある「副作用が疑われる症例報告に関する情報」をクリックし、「副作用が疑われる症例報告ラインリスト検索ページ」をさらにクリックします。

利用規約が表示されますので、よく読んで「同意する」をクリックします。ここで検索画面が表示されますので該当する医薬品名や検索したい副作用/有害事象名を入力して検索を開始します。(参考資料4)

私が経験した事例は低カリウム血症でした。
カリウム低下をきたすような原因が見当たらず、医薬品によるものであるかもしれないと推測して、添付文書には記載はありませんでしたがランソプラゾールを候補にし、同じPPIであるオメプラゾールやエソメプラゾールでも低カリウム血症の報告があることより被疑薬になろうであろうと考えました。

紹介入院患者さんのため投与開始前の血清カリウム値の正確な数値は判明しませんでしたが、入院後の検査でK値3.0であったため、K剤の服用を開始し、1週間後の検査でK値が2.9とほぼ変化が認められないためランソプラゾールを疑い服用中止とすると同時にK剤を増量。1週間後の検査でK値5.7と上昇したためK剤中止。1ヶ月後の検査でK値4.3と正常値を示したため、ランソプラゾールを被疑薬とした症例でした。

主治医と相談し、潰瘍治療としてはPPIを避け、H2ブロッカーのファモチジンで対応することにして経過観察しましたが、K値の低下は認められませんでした。


Point 3
主観ではなく客観的データでもって報告しましょう。

上記2症例のうちPoint1の症例は、脱毛ということで検査等の数値では表わせないため患者さんが自主的に撮影した抜けた頭髪の量が客観的なデータに置き換えることが可能となりました。

また、Point2の症例は投与前検査値が判明しませんでしたが、服用中、服用後の経過が判るデータが存在することによりある程度客観性は担保できたのではないかと考えています。

どちらの症例も主治医が薬剤師の声に耳を傾け、服用中止の指示という判断がなければ患者さんが良好な転帰を迎えることはできなかったかもしれません。
患者さんと同様あるいはそれ以上医師とも信頼関係を構築しておくことが重要であると考えます。

客観的なデータは副作用報告に必要なものではありますが、当該主治医と客観的な情報を共有することでお互いの意思疎通がさらに強固なものとなると思います。

さらに学べる法律の知識

前回のコラム薬機法で日常、医療の現場においてみられる医薬品、医療機器又は再生医療等製品の使用によって発生する健康被害等の情報を医薬関係者が厚生労働大臣に報告する制度があることをお示ししました。

この医薬品・医療機器等安全性情報報告制度は、薬機法に基づき、厚生労働大臣がPMDAに医療関係者についての副作用等報告に係る情報の整理を行わせることとしたため、2014年11月25日より報告窓口は厚労省からPMDAに変わっています。

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告(その2)」の画像2

画像を拡大する
図1

法律から解釈する薬剤師の「副作用報告(その2)」の画像3

画像を拡大する
図2

報告者に対しては、安全性情報受領確認書の交付を行ってくれています。図1のように厚生省が安全性情報受領の窓口となっていて受領確認書は厚生省から発行されていますが、担当がPMDAに移行してからは図2のように受領確認書はPMDAから発行されています。

健康保険法等に基づいた指導や監査で副作用報告の実施の有無を確認された経験のある薬剤師も存在すると思います。その際はこの安全性情報受領確認書が立派な(?)証明として使えます。

報告された情報は、専門的観点から分析、評価され、必要な安全対策を講じるとともに、広く医薬関係者に情報を提供し、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の市販後安全対策の確保を図ることを目的としていますのでできる限り協力しましょう。

ためになる法律概論

前回紹介した薬機法施行規則第228条の20には「医薬品の製造販売業者又は外国製造医薬品等特例承認取得者は、その製造販売し、又は承認を受けた医薬品について、次の各号に掲げる事項を知つたときは、それぞれ当該各号に定める期間内にその旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。」とあります。

この条文の中に「事項を知ったときは」という文言がありますが、知ったときを「0」日目としてカウントしていきます。
先発医薬品メーカーのMRさんは医療機関を訪問し、営業活動のなかで副作用情報を吸い上げ、法律に則り厚生労働大臣(報告先はPMDA)に報告することが多々ありました。

コロナ禍の状況の中で医療機関への訪問回数が減少していると思われる昨今、また、元来訪問回数が少ないと言われているジェネリックメーカーにとっては医療機関から提供される情報が貴重なものとなります。

法律の解釈を悪意を持って解釈すれば「事項を知らなければ」副作用報告は必要なしと判断することができます。火事はボヤのうちに消火すれば大事に至らずに済みますが、放置しておけば火元が全焼どころかご近所にも被害を与えてしまいます。

副作用を早期に収集して、集積した情報を正しく解析し、早期に添付文書等を改訂することなどによってリスクを避けた医薬品の使用法をとることで被害の拡大を抑えることが可能となります。被害が拡大して危険な薬というレッテルを貼られることになれば、その薬の生命が絶たれてしまうことも過去に経験しています。

まとめ

今回は安全性情報報告書をベースに報告書作成で必要と思われる点を述べましたが、報告するほどの事例ではないとしても職場で情報を共有して、擬似的で結構ですから報告書作成を体験してはいかがでしょうか。

今回提示させていただいたPoint1の症例の患者さんは2度目の窓口対応で脱毛悩みを打ち明けてくれたと記憶しております。
患者さんからの言葉ですが「この人なら相談に乗ってくれる。」と判断されたようです。常々言っておりますが、患者さんとの信頼関係があればこそ、口を開いてくれます。

さらに対応での結果が良ければさらに信頼関係が構築されていきます。それは個人の信頼関係のみならず、当該薬剤師が従事している医療機関への信頼にもつながると信じています。

ご自分で脱毛状態を写真に撮るという発想は改善傾向による前向きな意志によるものではあったとしても、当方から提案できなかったことは悔やみきれません。
学校の講義では与えられない生きた勉強ができたことについては自分のスキルアップの材料のひとつになったと思います。

医療の進歩に追いつくために、薬剤師も日々勉学に励み、「生涯学習」という言葉を胸に刻んで仕事に従事していければ必ずや役に立つことがあるでしょう。

副作用を知ることは患者さんのためにも、医薬品のためにも重要な要素ですので、前回さらに今回と薬機法施行規則第228条の20を参照しました。
紙面の関係で次回のコラムとしますが、条文の「当該医薬品の副作用によるものと疑われるもの」や「当該医薬品の添付文書又は容器若しくは被包に記載された使用上の注意(以下「使用上の注意等」という。)から予測することができないもの」など、これらの文言について解説する予定です。

ちょっと休憩~一言後記~

このコラムにおいても「添付文書」という言葉を用い文章を作成しています。また、Point2でお示ししました参考資料としたPMDAのページにおいても「添付文書」が出てきます。

鋭い読者は、本年8月1日より添付文書電子化の運用が開始されていて、添付文書の製品への同梱を廃止し、電子的な方法による提供を基本とするのではないかと感じているのではないでしょうか。

運用が開始され2ヶ月が経過しようとしていますので、医薬品包装中に添付文書が同梱されていない状態を経験されている方もおいでになるのでは思います。

紙媒体での情報提供の変わるものとして、医薬品等の使用及び取扱い上の必要な注意等の事項は「添付文書等記載事項」が「注意事項等情報」に名称が変更となりますので、「添付文書」は過去の言葉になる日も近いでしょう。

参考資料
1. 医薬品・医療用具等安全性情報 No.159 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
2.独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
3.医薬品や医療機器等の情報を調べる | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
4.医薬品医療機器情報提供ホームページ 副作用が疑われる症例報告に関する情報 (pmda.go.jp)

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大西 純一
おおにしじゅんいち

薬剤師・医学博士  元職 国際医療福祉大学大学院 創薬育薬医療分野 教授 / 大分大学医学部附属病院 臨床薬理センター客員教授 / 厚生省(現厚生労働省)医薬安全局 安全対策課 GPMSP査察官 / 医薬品機構(現医薬品医療機器総合機構:PMDA)治験指導部治験調査課長 / 香川医科大学(現香川大学)医学部附属病院 薬剤部 医薬情報室長 / 公立三豊総合病院 薬剤部 薬剤部長他 / 著書「これならわかる、使える 臨床研究に関する倫理指針」/ 「看護過程に沿った対症看護 病態生理と看護のポイント」/ 「CRCのための治験110番Q&A」/ 「治験事務局担当者のためのガイドブック」
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