法律から解釈する薬剤師の「副作用と有害事象」
相談3
服薬指導で患者さんから医薬品の副作用と思われる事象が伝えられました。そもそも副作用と判断しても構いませんか。
法律
- 薬機法
- 臨床研究法
省令
- 薬機法施行規則
- 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP:Good Clinical Practice)
事例チェックポイント
前2回のコラムで「副作用」に関連する事案を紹介しましたが、そもそも「副作用」とは何でしょうか。今回は初心に戻って「副作用」を考えていきたいと思います。
少し堅苦しくわかりにくい話になりますが、ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)の略称)という組織があります。(参考資料1)
PMDAのHPでもICHがわかりやすく紹介されていますので参照してください。(参考資料2)
ICHは、医薬品の品質・有効性・安全性の各分野のトピックごとに、各メンバ-を代表する専門家が専門家作業部会で協議し、ガイドライン(科学的・倫理的に適切と考えられる指針)の作成等を行っていますが、今回のコラムのテーマである「副作用」についてはガイドラインの「ICH-E2:臨床上の安全性」の項目の「E2A:治験中に得られる安全性情報の取扱いについて」で規定されています。(参考資料3)
以下にICHによる定義を紹介します。
有害事象(Adverse Event(or Experience))
医薬品が投与された患者または被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと。必ずしも当該医薬品の投与との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。
つまり有害事象とは、医薬品が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴侯 (臨床検査値の異常を含む)、症状または病気のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わない。
副作用(Adverse Drug Reaction)
病気の予防、診断もしくは治療、または生理機能を変える目的で投与された(投与量にかかわらない)医薬品に対する反応のうち、有害で意図しないもの。
医薬品に対する反応とは、有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものを言う。
医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP:Good Clinical Practice)は大学で学んだ記憶があると思いますが、省令第2条24項には、「この省令において「有害事象」とは、治験使用薬又は製造販売後臨床試験使用薬を投与された被験者に生じた全ての疾病又はその徴候をいう。」と定義されています。(参考資料4)
薬機法第68条の10第2項の副作用報告では「薬局開設者、病院、診療所若しくは…開設者又は医師、歯科医師、薬剤師…その他の医薬関係者は、医薬品、医療機器又は再生医療等製品について、当該品目の副作用その他の事由によるものと疑われる疾病、障害若しくは死亡の発生に…関する事項を知つた場合において、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、その旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。」とされています。
「有害事象」と「副作用」を区別するためには因果関係の有無の判断が重要となってきます。
副作用報告は副作用を発現した医薬品等との因果関係が否定できないものに該当するものが対象となり、何もかもが報告の対象になるということではありませんので注意しましょう。
解説
Point 1
副作用発現の原因と思われる医薬品(被疑薬)と副作用の因果関係を検討しましょう。
治験の世界では副作用は開発を進めるにあったての重要因子となります。治験薬の副作用如何によっては開発中止という最悪の事態を招くこともあります。
GCPにおいて、治験の依頼をしようとする者(いわゆる企業治験)では第19条第1項において「治験依頼者は、治験の継続の適否又は治験実施計画書の変更について審議させるために効果安全性評価委員会を設置することができる。」とあります。
同様に自ら治験を実施する者(いわゆる医師主導治験)でも、第26条の5第1項に「自ら治験を実施する者は、治験の継続の適否又は治験実施計画書の変更について審議させるために効果安全性評価委員会を設置することができる。」とされています。
GCPガイダンスでは、企業治験で「効果安全性評価委員会は、治験の進行、安全性データ及び重要な有効性エンドポイントを適当な間隔で評価し、治験依頼者に治験の継続、変更又は中止を提言することを目的として、治験依頼者が設置することができる委員会」と、医師主導治験で「治験の継続の適否又は治験実施計画書の変更について審議するための委員会であり、治験の進行、安全性データ及び重要な有効性エンドポイントを適切な間隔で評価するものである」とされています。(参考資料5)
いずれにしても、開発品と有害事象の因果関係を検討することは非常に重要となってきます。我々が手にする医薬品においてもこの因果関係の検討をおろそかにすることはできません。薬の専門家として医療に携わる薬剤師としてこの作業は調剤等の業務に比べると表面には出てきませんが、職能を生かした重要な業務にひとつであると考えます。
Point 2
因果関係の検討は奥の深いものです。
事例を挙げて説明していきましょう。
Point 1で少し治験に触れましたが、CRCの研修会等で研修材料として用いたものです。
医薬品を服用中に交通事故に遭い足を骨折してしまいました。骨折はICHによる定義である「医薬品が投与された患者または被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと」に当たるため有害事象には当てはまるでしょう。
一般的に解釈すれば交通事故は当該医薬品との因果関係は認められないと判断するため副作用にはならないとなります。近頃、自動車が歩道に突っ込み何の罪もない歩行者が死亡するといった痛ましい事故報道が度々あります。これならば当該患者さんは不可抗力による事象であって当然副作用とは考えられません。
しかし、このような場合はどうでしょう。
人身事故は歩道ではなく車道で起こり、事故を目撃した近隣の住民から「亡くなった方はふらついて車道に行ったような感じがする。」との情報がありました。患者さんはめまいやふらつき、あるいは血圧低下による意識喪失などが起こっていた可能性もないとは言えない状況になります。
ただ単に交通事故だから因果関係はないと短絡に判断することは副作用を議論する際に誤った結果をもたらすかもしれません。
Point 3
患者さんからの聞き取りは思った以上に重要です。
今回は副作用に的を絞り解説していますが、服薬指導における患者さんから得られる情報は非常に大切なものになります。聞き取れなかったがために重大な副作用の発現を見逃してしまうといったことも考えられます。何気ない会話の中に重要な要素が含まれていることもあります。
このことは副作用だけの問題ではありせん。アドヒアランス不良の患者さんが何故治療のための医薬品を服薬しないのかといった通常の指導においても経験することですが、これも同様に患者さんとの会話のなかで聞き取ることができるものです。
患者さんは医療に対して十分な知識を持ち合わせていない人も多く、直接的な文言で言い伝えることは困難が伴うことが多いはずです。
患者さんの言葉のなかに指導に必要なヒントは隠れています。薬剤師としてそれをいかに見抜き、正しく解釈することが大切です。
薬剤師業務の重要項目である服薬指導は単に薬を飲んでいるか否かを確認するためだけにあるのではなく、薬剤師としての職能を生かす最大の業務のひとつであることを認識してください。
さらに学べる法律の知識
調剤薬局に勤務する薬剤師にとっては滅多に遭遇することは無いと思いますが、治験に参加している患者さんが来局される場合があります。
今では積極的な治験参加の方が多く、自から治験参加カードのようなものを見せていただくことがあるかと思います。このような場合には、治験薬の効果や有害事象は治験担当医師やCRCさんがしっかりと確認していますので治験に関連する話題には深く入り込まず、医薬品開発への協力に対して感謝の気持ちが伝わる話にするようにしたほうがよいでしょう。
ただし、併用薬についてはしっかりと確認していきましょう。治験実施医療機関以外を受診した患者さんが来局された場合には、当該治験での併用禁止薬が処方されていないか注視しましょう。
併用禁止薬は開発している治験薬の有効性や安全性の評価に影響を及ぼす恐れがあるため規定されています。もし、併用禁止薬を服用した場合、せっかく治験に参加していただいているのに脱落症例となり、患者さんの善意を踏みにじる結果となります。
前述のGCP(参考資料4)の医療機関の治験担当者はもちろんのこと第22条でのモニターや第23条での監査担当者もしっかりとチェックをしていますが、他科受診等で他の医療機関を受診した場合は、その情報入手は後手に回る可能性があります。医療機関のひとつである薬局としてサポートしていくことで医薬品開発の一員となれる可能性もあります。
皆さんはヘレシンキ宣言をご存じだとは思いますが、臨床研究についての倫理的規範が述べられ、医薬品の臨床研究を実施するに当たっては一定の基準が求められています。(参考資料6)
GCPは当初薬務局長通知として実施されていましたが、ICHでGCPの調和に向けての作業が進行し、1996年に合意となりました。
この間、ソリブジンによる副作用問題などを契機として、医薬品の治験から承認審査、市販後に至るまでの総合的な安全対策を講じるため、薬事法が改正され、GCP遵守が法制化され、省令化されることとなり、GCPは、1997年4月から新GCPとして施行されるようになりましたが、ソリブジン事件は薬害の実例のひとつとして教科書レベルで教えられます。
GCPとは別に2017年に臨床研究法が公布されており、2019年の薬機法改正に伴う改正が行われており、現行の法律は2021年8月1日施行となっています。(参考資料7)当然、施行規則も制定されていますが、今回の連載コラムとは趣旨が異なりますので詳細は省きます。
薬局勤務の薬剤師にとって高度な臨床研究の実施はハードルが高いものと推測され、臨床研究法の適用除外範囲に該当する研究になると思いますが、学会発表などのために研究する際には2019年11月事務連絡として発出されている「臨床研究法の施行等に関するQ&A(統合版)について」 を参考にしてください。(参考資料8)
薬剤師として業務上疑問を感じることがあった場合はその疑問を解決するために、あるいは業務の効率化のために思いついた方策が正しいか否かを見極めるために臨床研究を計画することはスキルアップのひとつになるでしょう。
ためになる法律概論
「医療用医薬品(乳糖などの調剤用薬は除く)で副作用のないものは存在しない」
これは正しいでしょうか。
普通に考えると「医薬品には副作用がある」となりますが、これは正しくありません。私も講演や研修会で「副作用の無い医薬品はない」と話をしていました。何気なく添付文書を見ていると、活性生菌製剤であるビオフェルミン錠は副作用の項目がないのです。ビオフェルミンだけではなく、ミヤBMやビオスリーなどの活性生菌製剤にも副作用の記載はありません。
下記に主な活性生菌製剤を示します。
販 売 名 | 成 分 | 添 加 物 |
ビオフェルミン錠剤 | ビフィズス菌 | 結晶セルロース、トウモロコ シデンプン、白糖など |
ラックビー錠 | トウモロコシデンプン、乳糖、セルロースなど | |
ラックビー微粒N | トウモロコシデンプン、乳糖 | |
ビオスミン配合散 | ビフィズス菌、ラクトミン | バレイショデンプン、乳糖水和物、白糖、 デキストリンなど |
ビオフェルミン配合散 | ラクトミン、糖化菌 | バレイショデンプン、乳糖水和物、白糖など |
ビオスリー配合散 | ラクトミン、酪酸菌、糖化菌 | バレイショデン プン、乳糖水和物など |
ビオスリー配合錠 | バレイショデン プン、乳糖水和物など | |
ビオスリー配合OD錠 | バレイショデン プン、乳糖水和物など | |
ミヤBM細粒 | 宮入菌末 | 乳糖水和物、トウモロコシデンプンなど |
ミヤBM錠 | 乳糖水和物、トウモロコシデンプン、白糖など | |
ビオフェルミンR散 | 耐性乳酸菌 | バレイショデンプン、ブドウ糖、乳糖水和物、白糖、 デキストリンなど |
ビオフェルミンR錠 | トウモロコシデンプン、デキストリン、白糖など | |
ラックビーR散 | トウモロコシデンプン、乳糖水和物 | |
エンテロノンR散 | サッカリンナトリウム水和物、バレイショデンプンなど |
ビオフェルミンと同じビフィズス菌を成分とするラックビー微粒Nには腹部膨満感、ラックビー錠には発疹の副作用が記載されています。微粒の副作用は承認時の臨床試験及び再評価により報告された症例637例中、2例が報告されたものです。主成分は一緒ですが、添加物に相違があります。副作用があるからといってもラックビーは安全な医薬品のひとつであると考えます。
ちなみにラックビーR散は耐性乳酸菌を成分として、トウモロコシデンプンと乳糖水和物が添加物として加えられています。この医薬品には重大な副作用としてアナフィラキシー様症状が記載され、禁忌に牛乳アレルギーのある患者が記載されています。
ラックビーR散と同様に耐性乳酸菌製剤であるエンテロノンRには重大な副作用としてアナフィラキシーが記載され、禁忌に牛乳アレルギーのある患者が記載されています。
参考までに、前述のラックビー微粒Nや同錠にもトウモロコシデンプンと乳糖が添加物として加えられています。エンテロノンRの添加物はサッカリンナトリウム水和物、バレイショデンプンなどです。
アナフィラキシー様症状の発現は菌種の違いによるものでしょうか?それとも…。
ビオフェルミン錠はトウモロコシデンプンや白糖などが添加物として加えられています。
同配合散には、有効成分としてラクトミンと糖化菌が、添加物としてバレイショデンプン、乳糖水和物、白糖などが加えられています。
同R散は、成分として耐性乳酸菌が、添加物としてバレイショデンプン、乳糖水和物、白糖などが加えられています。
同R錠は、成分はR散と同じですが、添加物として、トウモロコシデンプン、白糖などであり、乳糖水化物は加えられていません。
何の違いで副作用があったり無かったりするのか、医薬品の世界は複雑です。しかし、興味深い世界でもあります。
添付文書の記載は科学的根拠に基づいて作成されるものですので根拠がなければ記載できません。
薬機法第68条2には、「医薬品(第五十二条第二項に規定する厚生労働省令で定める医薬品を除く。以下この条及び次条において同じ。)、医療機器又は再生医療等製品の製造販売業者は、……厚生労働省令で定めるところにより、当該医薬品、医療機器又は再生医療等製品に関する最新の論文その他により得られた知見に基づき、注意事項等情報について、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により公表しなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。」とあり、副作用報告のない情報は注意事項等情報(かつての添付文書がこれに該当)に記載すると、逆に法律違反となりえます。
まとめ
薬機法に関連する連載コラムとして3回に渡って副作用に関連する話題を提供させていただきました。
今回は治験についても触れましたが、治験中の副作用発現には治験依頼者も臨床実務を担当する医療機関の治験責任医師やCRCは十分な関心をもって業務を遂行しています。
GCP第48条 「治験依頼者が治験を依頼する場合にあっては、治験責任医師は、治験使用薬の副作用によると疑われる死亡その他の重篤な有害事象の発生を認めたときは、直ちに実施医療機関の長に報告するとともに、治験依頼者に通知しなければならない。この場合において、治験依頼者、実施医療機関の長又は治験審査委員会等から更に必要な情報の提供を求められたときは、当該治験責任医師はこれに応じなければならない。」
因果関係はなく有害事象であると判断したとしても、重篤な場合は報告する義務があるとされています。有害事象と副作用、因果関係ある・なしの判断を誤ると被験者の安全性の確保ができないからあるための条文でしょう。
副作用如何によっては開発の中止を余儀なくされるかもしれませんし、善意で治験に参加していただいている被験者の倫理上の配慮も必要となってきます。
あまりに過剰な反応は必要ないと思いますが、一般医療においても副作用に注目する意識を少しでも持つことが患者さんからの信頼獲得に役に立つでしょう。
ちょっと休憩~一言後記~
今回例示とさせていただいたビオフェルミン各種は、永く使用されている安全性の高い医薬品です。配合散は1918年販売開始というから驚きです。当時の承認基準がどの程度であったのかは不明ですが、今ほど厳しくない時代であったということは確信します。
類役には副作用があるのにビオフェルミンには副作用はありません。また、成分であるビフィズス菌は食品や飲料品などにも含まれ特別な規制もなく摂取されています。
全く整合性がとれなく、これは永遠に正解が見つからない問題でしょうか。
薬剤師として「副作用のない医薬品はない」と考えて服薬指導を実施することは厳密に言うと正しくはありませんが、これも不整合となりますが間違ってはいないと考えます。
患者さんが嫌がって薬を飲まない理由のひとつが患者さんに好ましくない事象が発現しているためかもしれません。薬剤師であるからこそ患者さんから聞き出せるのではないでしょうか。
参考資料
1.ICH 公式ウェブサイト : ICH
2.ICH 医薬品規制調和国際会議 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
3.ICH-E2 臨床上の安全性 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (pmda.go.jp)
4.医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令 | e-Gov法令検索 (GCP:Good Clinical Practice)
5.000665754.pdf (mhlw.go.jp)
6.ヘルシンキ宣言 (med.or.jp)
7.臨床研究法 | e-Gov法令検索
8.確定版1 QA(統合版) (mhlw.go.jp)