【在宅医療】薬剤師が在宅医療に関わる障壁は何かVol.3
世界でも類を見ない超高齢社会に突入している日本。厚生労働省も在宅医療・介護を推進していますが、実際のところ、薬局、薬剤師の参加にはまだまだ高い障壁があると言わざるを得ません。緩和ケアを行う在宅専門薬局で実務を重ねる薬剤師 前田 桂吾氏がその問題点を綴ります。
薬剤師が在宅医療に関わる3つの障壁
私は、在宅専門薬局という、薬局業界の中ではちょっと特殊な業務を行っています。そのためこれまでに、在宅医療に積極的に関わっている薬剤師をはじめ、これから関わりたい方、経営的に難しいと考えている方など、さまざまな薬剤師と意見交換をする機会がありました。今回は、そのような意見交換の中で私が感じてきた、「薬剤師が在宅医療に関わる3つの障壁」について書きたいと思います。
それは、以下の3つです。
(1)1つの薬局ですべての医療依存度の在宅患者さんを支えることの難しさ(医療依存度によって特殊な薬剤(医療用麻薬や輸液など)や医療機器の常備が必要となる、外来との並立など)
(2)「自分の患者さんを安心して任せてもよい」と他の職種に思ってもらう難しさ
(3)薬剤師の意識にある人の死に関わることの恐怖心
1つ目の障壁は前回まで書いてきましたので(【在宅医療】患者タイプによる2つの薬局の在り方と連携Vol.2)、今回は2つ目と3つ目について触れたいと思います。
他職種を尊重し、従来の疑義照会から抜け出す
従来の外来処方せんのやり取りにおける医師と薬剤師の関係では、どうしても薬学的な見解からの疑義照会にならざるを得ません。また、他の職種と関わらなくても薬局としての業務は完結できる状態だったのではないでしょうか。
ですが在宅医療は「患者さんの生活そのものを支える」という観点でチームとして動いていることが多く、処方せんの内容だけでなく生活そのものまで俯瞰した上で、医師をはじめ他職種と情報のやり取りをする場面が多くなります。そういったチームの一員として薬剤師が認められ、関わっていくには、従来型の疑義照会の形から抜け出さなければなりません。
例えば、医師に疑義照会をしたときに「このままでいい」と言われた経験がある薬剤師はどれだけいるでしょうか?医師のこの反応を薬剤師側から見た場合には「けしからん」という感情が湧くのは当然かもしれません。ところが、在宅医療というチームで生活全般を支える医療に携わるようになって初めて、医師の判断とは、薬剤師が窺い知れない様々な要素をすべて勘案し、絶妙なバランスの上で出した結論なのだと気がついたのです。
つまり、薬学的な判断だけで「○○が問題なので変更してください」と言っても医師には響かないのです。ではどうしたらよいのか。薬剤師としての観点だけでなく、患者さんの問題点や生活上の不便さなどをトータルで見たうえで処方内容を検討します。
そうすると、医師の考えが推測でき、疑義照会の仕方も変わってきます。例えば、「きっと先生は××とお考えになってこういった処方になっていると思うのですが、やはり薬学的に見て〇〇が問題なので□□に変更したほうが良いのではないでしょうか」という意見が言えると思います。
この関係性は医師だけでなく、チームに携わる全職種に関して同様のことが言えます。いうなれば、他職種の判断を尊重することで、初めて患者さんに向き合う気持ちを共有し、「この薬剤師なら自分の患者さんを安心して任せられる」と思ってもらえるのです。
ここの関係性が薄いと、薬剤師側が在宅医療へ関わりたいと思っていても、いつまでも患者さんを紹介してもらうことはできません。
人の死に関わる恐怖の克服は難しい。だからこそ、薬局の分化が必要
次に、薬剤師の意識下にある「人の死」に関わる恐怖心について、非常に生意気ですがあえて触れたいと思います。
現在我が国が突入している超高齢社会の先には多死社会があり、その観点から在宅医療を捉えていくと、どうしても「自宅や施設での看取り」に行きつきます。薬剤師の方と話をしていてよく感じるのは、在宅医療の先にある「死」を敏感に感じ取り、その拒否反応から在宅医療に踏み込めなくなっているのではないか、ということです。
病院の医療の場合、診断の後、入院して急性期の治療が行われるか、慢性期に移行し外来や在宅へ療養の場が移っていきます。不幸にも急性期の治療の場で亡くなってしまう患者さんもいらっしゃいます。生と死のリアルな現場が病院です。私自身も病院薬剤師時代に、チームでがんばっても救えない命を前に無力感を感じたり、無理だと思った患者さんの奇跡的な回復を喜んだりと、命の不思議さを何度となく感じてきました。
薬局はどうでしょう?医師や看護師は病院で経験を積み在宅医療の業務をされている方が大半ですが、薬剤師の教育課程においては、病院経験がなくても薬局で勤務できます。
そして従来の薬局がカバーしてきた領域は、予防の領域と入院に至らない風邪などの軽微な疾患、そして急性期治療を終えた後の外来患者さんが大半です。それゆえ、人の死に積極的に関わることの恐怖心は大きいと思います。これは人間として当然の反応です。非難しているわけではありません。
ですが、厚生労働省が一つの目安としている2025年は目前です。それまでにこの恐怖心を大半の薬剤師が乗り越え、「どんな医療依存度の患者さんも自分の薬局で支えるんだ」と思えるようになるには時間が足りません。
だからこそ、以前書いたように薬局の機能分化が必要です。今まで薬局に足を運ばれていた患者さん(かかりつけの患者さん)から徐々に在宅医療への関与を始め、もしその患者さんに医療用麻薬や無菌調製が必要になったり、医療依存度が高くなってしまった場合には、在宅医療専門薬局へ紹介するというルートを検討できるようにする必要があると考えています。
現状のように調剤報酬点数の算定だけでは薬剤師や薬局の在宅医療への関与はあまり進まないのではないか、と考えています。
次回は、私が考える在宅緩和ケアチームにおける薬剤師の立ち位置について書きたいと思います。