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在宅医療における薬剤師の役割

更新日: 2016年12月15日 前田 桂吾

【在宅医療】患者さんとの関係性の築き方Vol.5

在宅医療における薬剤師の関わり方を考える連載企画の第5回。今回も在宅専門の薬局・フロンティアファーマシーの前田桂吾氏が在宅医療の問題点を浮き彫りにします。テーマは「患者さんとの関係性の築き方」です。

目の前の患者さんの生活を支える視点を持つ

突然ですが、皆さんには信頼できる主治医の先生はいらっしゃいますか?もしいらっしゃるのであれば、その医師を信頼しているのはどういった理由でしょうか?

第1回で書いた通り、私は10歳で潰瘍性大腸炎を発病し、その後入院するたびに主治医が変わっていたため、今までたくさんの先生方に面倒を見ていただきました。発病して3年後に手術をしてからは、20年以上同じ先生に診ていただいています。

受診の際はその先生に、病気の事をそっちのけで、大学の受験も、就職も、就職してからの悩みも、結婚も、子供の事も全部話してきました。結婚披露宴にも来ていただきました。それだけ先生のことを信頼しているのです。

今でも年に2回くらいは定期通院をしているのですが、受診の際には故郷に帰るような、なんだか温かい気分になります。それはなぜか?

先生は、いつも笑顔で、病気というよりも、私の生活を支える視点でさまざまな話を聞いてくださいます。私が苦しい胸の内を話せば、一緒になって辛そうに話を聞いてくれたり、うれしい話をすれば一緒になって喜んでくれます。

私はこの主治医の先生に、自分の人生を丸ごと支えていただいているような気持ちを抱いています。これがまさに「かかりつけ」なのではないかと思います。

また主治医の先生以外にも、入院中に病棟の他の先生方や看護師さんの大半が、一生懸命僕の心配をし、支えてくださっていた気がします。つまり私のことに興味を持ち、心配をし、向き合ってくださっていた気がするのです。

そのような経験から、私は自分が病気だったときの気持ちを忘れないように患者さんに接し「目の前の患者さんの生活を支える視点」を大事にしています。

また、自分が患者さんに説明しているとき、瞬間的に自分がベッドに座っている患者になり(急に10歳の入院中の自分に戻るような感覚です)、話を聞いているような錯覚に時々おちいります。そんなとき、「ああ、今の自分の説明は患者さんを傷つけたかもしれない」と気が付くこともあるのです。

相手の信頼を得るには自ら想像し、行動するしかない

また、別の経験ですが、ある日新患の患者さんを訪問したときに、患者さんが洗面器を持って気持ち悪そうにしていました。その患者さんは日中独居の方です。

もし自分だったら「背中をさすってほしいだろうな」と思いましたので、「大丈夫ですか?」と声をかけながらしばらく背中をさすっていました。その患者さんは亡くなるまでずっと私の事を信頼というか気にかけてくださっていました。

また、慢性疾患でステロイドを服用している患者さんに、「私も昔大病をして、ステロイドを飲んでいたんですよ」と話すと、一瞬で表情が変わります。「ああ、この人なら自分の辛さをわかってくれる」と思ってくださるのか、とても穏やかなお顔になることが多いです。

「病気をして入退院を繰り返した」という私の体験は特殊だと思いますし、医療に携わるうえで、そして患者さんに接するうえで私は貴重な経験をさせてもらったと思います。だからといって、健康な人は患者さんに接することはできないのでしょうか?私は違うと思います。

上記のようなことから考えられるのは、薬剤師(医療者)の感覚で患者に向かうのではなく、「自分が患者だったらどうしてほしいか?」との問いを常に胸に秘め、想像力を働かせながら患者さんに向かうかどうかが大切だと思うのです。

薬剤師の感覚ではなく、「自分が患者ならどうしてほしいか」が重要

「自分が患者だったら」「お年寄りだったら」と考え、なんでもかんでもゆっくり大きな声で話しかけられたらどんな気持ちがするでしょうか。どんなに隣のブースとパーテーションで区切られていても、後ろに他の人が待っている状態で、自分の病気の話や、辛いことを思い切って話せるでしょうか。辛くてパンパンになった心を開放することができるでしょうか。

自分の話をろくに聞いてくれず、薬剤師として聞きたいことだけを質問し、話したいことだけを話している薬剤師を信用するでしょうか?

自分の表情も見ず、目も合わせずにお薬手帳や薬情だけを見ている薬剤師を信用できるでしょうか?一方、自分のことを気づかい、生活に至るまで親身に相談に乗ってくれ、適切なアドバイスをくれる薬剤師をどう思うでしょうか?

患者さんは自分の目の前にいる薬剤師が「薬剤師として自身の仕事を全うするためにいる」のか、それとも「自分のことを心配し、何かの力になりたい、と思って接してくれているのか」を敏感に嗅ぎ取っています。

外来の患者さんがたくさんお待ちである、薬歴もしっかりと書かなければいけない、など忙しくなるとどうしても薬剤師の理屈が頭をもたげ、「自分が患者だったら?」という問いかけを忘れがちになるのは当然だと思います。

でも、常にこちらが患者さんの立場で考え行動していくと、自然と患者さんもこちらの忙しさを理解し、こちらをおもんばかってくださいます。人知を超えた病気という敵に立ち向かう同志としての関係性がここで構築されると思うのです。

次回は、いよいよ最終回。今までのまとめをしたいと思います。


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前田 桂吾
まえだ けいご

株式会社フロンティアファーマシー 薬剤師 執行役員 社長室室長
北里大学薬学部薬学科卒業。中規模の病院に12年間勤め、調剤、製剤、緩和ケア病棟を含む病棟業務に携わる。その後、フロンティアファーマシーに転職。

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