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在宅医療における薬剤師の役割

更新日: 2017年1月12日 前田 桂吾

【在宅医療】これからの薬剤師が目指すのは何か?Vol.6

在宅医療における薬剤師の関わり方を考える連載コラム。「すべて患者さんから教わってきたこと」と語るのは、緩和ケアを行う在宅専門薬局で実務を重ねる薬剤師 前田 桂吾氏。最終回の今回は、「超高齢多死社会」に求められる医療・薬剤師の役割について語ります。

患者さんの「生」を支える医療を

私が病気を抱えてから約30年。薬剤師になって約20年。人生は不条理だな、と感じることがたくさんあります。「どうしてこんな若くしてこの患者さんは亡くなるのか」、「この残された小さいお子さんはどう成長するのだろう」、「どうしてこの患者さんはつらい目にばかり遭うんだろう」など不条理の連続です。

でも、死や病気は誰にでも訪れるもの。だからこそ、人間の力を駆使して、病気と立ち向かい、自分の人生を「生き切る」お手伝いが必要だと思うのです。つまり医療者が正解だと思う医療を施すことが目的ではなく、患者さんの「生」を支えるという視点です。これは緩和ケアに携わることで教わってきたことです。

患者さんやご家族は、我々医療者を養うためや、自己満足のために病気でつらい思いをしているわけではありません。私たちの仕事は、ある意味では患者さんのつらさの上に成り立っている仕事です。私は今でこそ自分の経験をプラスに捉えて患者さんと接することができるようになりましたが、治療の渦中のエピソードは人に言えないこともたくさんあります。

また、自分が子どもを持ったからこそ感じることですが、私が病気をしたことで両親や妹の人生設計を狂わせただろうな、とも思うのです。病気は、患者さん本人だけでなく、家族や周囲の人が思い描いていた人生を狂わせることもあります(もちろん病気をしたことでいい意味で人生が変わることもあると思います)。

病気は人智を超越し、人々の人生を変えてしまうものです。だからこそ、医療に携わる人の免許は、自分の生活の糧としてではなく、患者さんを支え、患者さんから評価されて初めて輝き、そこに評価(お金)が付いてくるのだ、ということをゆめゆめ忘れてはならないと思います。

いくら医療と言ってても仕事ですから、経営や自分が生きていくことを考えなくてはならないのは当然です。でも、重心は「患者さんのため」に働く、という思いが大切だと思います。

私が在宅緩和ケアを続けられる理由

最近、いろいろな記事などで人口減少が取り上げられています。「超高齢多死社会」と言われ、「死」=「人生の幕引きの仕方」をたくさんの方が考え始めていると感じます。

緩和ケアに携わる中で、「『死』は決して敗北ではない。どう生きるか。どう生き切るか。ということが大切なのだ」、ということをたくさんの患者さんから教わってきました。もちろん患者さんが亡くなるのは悲しいし、喪失感があります。でも不思議と敗北感のようなものは感じられないのです。

それは患者さんがご自身の残りの時間を医療に任せるのではなく、ご本人やご家族が主体的に時間の使い方を選択できるからだと思うのです。

これから日本の社会が劇的に変わる時代にあって、患者さんの「生」を支えることに医療や介護の役割があるのではないか、と考えています。患者さんやご家族が過ごされる穏やかな時間に触れると、在宅緩和ケアはとても大切だと感じますし、これからの多死社会においてはなおさら大切な考え方だと思っています。経営的にはつらいこともたくさんありますが、私が在宅緩和ケアという分野で薬剤師の仕事を続けられている大きな理由だと思います。

「生き切る」ために、薬剤師として何ができるか

今までの時代は、何が何でも病気を治療し寿命を延ばす、という価値観が多勢だったのではないかと感じます。でも、これからの時代は、医療者が考える正解を押し付けるのではなく、患者さんの生活・価値観に合わせて、こちらの持っている武器(薬や器材、情報など)をアレンジして提供することが大切だと思うのです。

つまり、人生の幕引きが近い時に、患者さんご自身がやり残したことがないように医療という手段を使って支える。専門家だからこそ、自分たちが持っている在庫、今まで勉強してきた知識を患者さんごとの事情に合わせてアレンジすることがこれからの薬剤師に求められることだと思います。この「患者さんごとの事情」には多分に人間的な感情が含まれます。

「自分がこの目の前の患者さんだったら…」と想像力を働かせてアレンジをしていくことが、患者さんから信頼される薬剤師の大きな要素の一つだと思います。これはAIにはすぐにはできないことであり、どんなに調剤が機械化されても、薬剤師のできる大きな役割だと思っています。

これからは、国民一人一人が「生き切る」時代。それを支える仕組みが地域包括ケアです。また、そのシステムのチームの一員となることがこれからの医療者であり、薬剤師だと思います。自分の地域で、地域住民が生き切るために、「薬剤師として自分は何をするべきか?」「薬局はどんなことができるのだろうか?」と考えていけば、おのずとこれからの薬局や薬剤師の役割が見えてくるのではないかと思います。薬剤師の一人一人がこのことを考え、行動に移していくことが今までに以上に必要な時代になっていると感じています。

看取りの現場で──「死」は「生」への旅立ち

最後に、「死」はつぎの「生」への旅立ちの瞬間だと私は思っています(死生観は人それぞれでいいと思います)。患者さんが「人生いろいろあったけど、それなりにいい人生だった」と思って旅立つことができれば、次に生まれてくる時に穏やかな気持ちで生まれてこられると思うのです。在宅医療の現場は、究極は看取りの現場です。この在宅医療の時間をしっかりと支え、充実させる必要があると思うのです。

そのためには、自分なりに「生きるとは?死ぬとは?」ということを常に問い続けながら仕事をしなければならない時代になっていると思っています。

これまでの連載では、私自身が患者さんから教わってきたことを思いつくままに書いてきました。読んでくださる皆様には、賛同できることもできないことも、怒りを感じることもあったかもしれませんがどうかお許しいただければと思います。

少しでも薬剤師が在宅医療に関わるうえでの参考になれば幸いです。今までお付き合いいただきありがとうございました。

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前田 桂吾
まえだ けいご

株式会社フロンティアファーマシー 薬剤師 執行役員 社長室室長
北里大学薬学部薬学科卒業。中規模の病院に12年間勤め、調剤、製剤、緩和ケア病棟を含む病棟業務に携わる。その後、フロンティアファーマシーに転職。

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