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薬剤師の在宅医療のリアル~苦労とやりがい~

更新日: 2022年12月24日 坪田留央依

個人在宅専門薬局から、患者さんに寄り添うチーム医療に取り組む

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MRから調剤薬局薬剤師への転身

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薬剤師として臨床経験がないままでいいのかという迷い

私が、薬剤師のキャリアをスタートしたのはMR職でした。能動的に動いて自分で仕事をつくることはやりがいがあり、ビジネスの基礎もここで身につけることができたように思います。

しかし数年が経ち、業界のことが見えてくるにつれて、「本当に薬剤師として臨床現場での勤務経験がないままでいいのか?」という迷いが生まれました。そして、漠然と「臨床現場にはもっとやりがいを感じられる仕事があるのではないか」と思ったのです。そんな時に今の会社の社長の竹中からの声かけもあって、薬局への転職を決めました。

転職後は薬局業務のほかデットストックの有効活用のシステムを開発したり、薬局での物販に関心のある企業とタイアップしてテストマーケットに関わったりと、MR時代に培ったスキルを生かしながら働くことができました。このような仕事を経験することによって、「固定概念に囚われない、個性のある薬局づくり」の楽しさを知りました。

個人在宅をもっと多くの薬剤師に経験してほしい

外来患者さんに対応する「保険調剤薬局」というビジネスモデルは秀逸だと思います。でも、外来患者さんの対応だけではこの先不十分ではないかと思い、本当に地域医療にとって自分が必要だと思うことをビジネスとして確立させたいと思うようになりました。そんな中、何店舗か薬局を経験する上で一番やりがいを感じたのが「個人在宅」でした。

患者さんのご自宅にうかがい、日常に入り込み患者さんと向き合うことは大変な部分もありますが、その分の感謝と他職種の方と関わることのやりがいを多く感じたからです。もっと多くの薬剤師に個人在宅を経験してほしいという思いもあり、個人在宅専門薬局を開設しました。

関係者と距離が近い、個人在宅ならではのやりがい

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「人生の幕引きにあなたがいてよかった」

在宅医療に関わる薬剤師は、訪問の際に患者さん、ご家族、他職種の関係者とコミュニケーションをとり、服薬状況や副作用の確認に加えて生活状況や患者さんの思いなどを細かくヒアリングします。それを基に医療介護職にフィードバックし、薬剤の用法用量の調節や処方変更などの提案、生活環境の改善などを行い、患者さんが自宅で本人らしい生活を送るために尽力します。

患者さん、ご家族、他職種の関係者と距離が近いので、みなさんから感謝されることが多く、やりがいを感じられる仕事です。

たとえば、介入当時は退院直後で疼痛コントロールがうまく行っていなかった終末期の患者さんがいました。医師の往診の合間にご家族や看護師さんと密にコニュニケーションをとりながら用量調整をすることで疼痛は減少し、最期は眠るように亡くなりました。ご本人が死期を感じた時に感謝の言葉を言われ、ご家族からも「人生の幕引きにあなたがいてよかった」と言われた時の感動は、今も忘れられません。

また、「在宅チームの一員」としてやりがいを感じることもあります。痛みが強く日常生活もままならなかった患者さんの「最期はご実家のある大阪で暮らしたい」という希望を叶えるため、看護師さんを中心にケアを進めていきました。結果的に痛みをコントロールして、東京から大阪まで新幹線でご実家へ移動することができたとき、「在宅チームに薬剤師さんがいてよかったね」と他職種の方やご家族から声をかけていただきとても嬉しかったことを覚えています。

患者さんに真に寄り添うことの難しさ

一方で、他職種の方の患者さんへの寄り添いやコミュニケーション力の卓越さを痛感させられることもありました。

ある終末期の患者さんに鎮痛剤をお持ちしたときの話です。私は痛みの度合いや使用頻度を確認し、他に必要な薬もないことを確認しました。しかし、数時間後に看護師さんが訪問したときには「痛みはコントロールできるようになったけど、実は吐き気があって・・」とお話があったというのです。私が訪問した時にも症状があったはずなのに、患者さんの不安を聞き出すことができなかったのだなと思い知らされました。

個人在宅をやり始めた頃は、患者さんの希望や生活状況を汲み取ることができずに、ご迷惑をかけたことも度々ありました。たとえば、良かれと思って一包化を提案して持っていったときの話です。その患者さんはシートで1つずつ薬の名前を確認しながら服用することに慣れていたので、一包化したことで逆に不安になってしまったことがありました。ほかにも、リビングの壁にお薬カレンダーを設置したけれども、ベッドサイドからあまり動けない方だったため、リビングまで薬を取りに行けず逆に薬を飲めなくなってしまったこともありました。

良かれと思って対応したことが、医療の押し付けになったり、余計なお節介になったりすることを学びました。生活の中心はあくまでも患者さんで、そのサポートに入るのが薬剤師であることを肝に銘じるようにしています。

在宅チームを「地域の病院薬剤部」のような存在にしたい

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地域のインフラになるという覚悟

地域のインフラとして機能するためには、「この薬局にはいつでも相談できる」と地域から信頼される存在になる必要があります。そのため、在宅専門の店舗では夜間や休日も緊急対応ができるように体制を整えています。お店をオープンしてから6年目になりますが、メンバーの努力なしには運営できず、毎日覚悟を持って対応してくれているメンバーには感謝しかありません。

在宅チームに薬剤師が欠かせない存在となるために

薬剤師が在宅チームに加わることの意義は大きく2つあると思います。1つは薬のことは薬剤師に任せてもらい、他職種の方がそれぞれの業務に専念できる状態にできること。もう1つはチームで協力することで細やかな薬剤変更や調整ができて、治療の幅が拡がることです。病院におけるチーム医療のようにケアをご自宅で実現していくという面で、在宅チームに薬剤師はなくてはならない存在だと思います。

個人在宅専門薬局への挑戦から5年が経ち、一人ひとりの患者さんに対して真摯に向き合っていくなかで、地域からの信頼を徐々に感じられるようになってきました。しかし、個人在宅に関わる薬剤師を増やしていくという目標はまだ道半ばです。

在宅はいろんな疾患を持った患者さんを担当することが多く、薬剤師としてのスキルや患者さん、対他職種とのコミュニケーションスキルが必要です。患者さんによって対応の仕方は異なりマニュアル化できないので、経験を共有しづらい点が難しいところです。現在は一人ひとりに経験を積んでもらうしかない状態ですが、もっと形式的な講義や実習などを取り入れることができたら、個人在宅を担う薬剤師の増加に貢献できるかもしれません。

やりたいことはまだまだたくさんあります。個人在宅専門薬局の運営を安定させるのはもちろん、地域のインフラとしてももっと機能させ、地域の中の病院薬剤部のような存在になれるようにしていきたいと思っています。

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坪田留央依
つぼたるうい

現所属:株式会社バンブー薬局事業部 事業部長
2012年に北里大学薬学部を6年制第1期生として卒業後、外資系製薬企業にてMR職を経験し、2016年に株式会社バンブーに入社。現在は2017年に開局させた個人在宅特化の「竹の葉薬局三鷹新川店」の現場運営を中心に、多岐にわたる業務に携わっている。妻と娘3人との時間が十分に捻出できない課題はずっと解決できていない模様。
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