「チーム医療の実践に関する知識を修得することで、臨床薬剤師の資質向上を目指す」として、2019年度に実施された近畿国立病院生涯教育センター の講座を一部改変した、事例検討の連載コラムです
シリーズ9
感染症疾患について考える
MRSAに対する抗菌薬の選択について理解する
患者さんの症例を読んで、感染症疾患、抗菌薬選択についての理解を深めましょう。また、患者さんを想像しながらQuestionについて考えてみましょう
患者情報
症例
66歳 男性
身長:166.4 ㎝ 体重:102.3 ㎏ 体表面積:2.09 ㎡
治療病名:糖尿病、高血圧、高脂血症(肥満)
肺がん(右上背部痛が出現し受診、CTガイド下肺針で扁平上皮がんと診断。
病期:(cT3N0(r/oN2)M0) CDDP/TS-1 6コース。放射線治療併用。
その後、小脳転移にγナイフ。腫瘤増大認めDOC 6コース施行。
更にnab PAC 6コース施行(d1,8,15)。GEM 2コース施行。CTで陰影拡大認めたため、オプジーボ1コース目施行目的入院。
甲状腺機能低下傾向あるが内分泌Drにコンサルトし外来で経過観察の範囲と。)
既往歴:60才糖尿病、10才虫垂炎 家族歴: 父:大腸癌 職業:事務、管理
嗜好品: アルコールなし、 喫煙 40*20-67(Cr) = 1880
患者情報の続き
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☆採血データ(20XX年)
|
4/11 |
4/18 |
4/27 |
下限値 |
上限値 |
単位 |
TP |
6.4 |
6.8 |
7.2 |
6.6 |
8.1 |
g/dL |
GLU血清 |
173 |
117 |
160 |
73 |
109 |
mg/dL |
T-BIL |
0.4 |
0.4 |
0.6 |
0.4 |
1.5 |
mg/dL |
AST |
26 |
26 |
33 |
13 |
30 |
U/L |
ALT |
24 |
25 |
33 |
10 |
42 |
U/L |
UN |
18 |
18 |
16 |
8 |
20 |
mg/dL |
CRE |
0.93 |
0.97 |
1.15 |
0.65 |
1.07 |
mg/dL |
eGFR |
64.5 |
59.4 |
49.3 |
60 |
|
mL/min/1.7 |
WBC |
4.3 |
5.8 |
6.0 |
3.3 |
8.6 |
10~3/μL |
HB |
11.6 |
12.7 |
13.1 |
13.7 |
16.8 |
g/dL |
PLT |
17.9 |
12.0 |
13.2 |
15.8 |
34.8 |
10~4/μL |
F-T4 |
0.8 |
|
|
0.90 |
1.70 |
ng/dL |
TSH |
11.86 |
|
|
0.500 |
5.000 |
uIU/mL |
Na |
140 |
139 |
139 |
138 |
145 |
mEq/L |
K |
4.0 |
4.3 |
4.3 |
3.6 |
4.8 |
mEq/L |
CL |
106 |
104 |
103 |
101 |
108 |
mEq/L |
☆処方(免疫チェックポイント阻害剤導入時)
1 グリメピリド錠1mg「TYK」(アマリール錠後発品)1錠
1日1回 朝食前 23 日分
2 リオベル配合錠HD 1 錠
1日1回 朝食前 19 日分
3 タイプロトンカプセル15mg(タケプロン後発品)1CP
1日1回 朝食後 15 日分
4 タムスロシン塩酸塩OD錠 0.2mg 「サワイ」(ハルナール後発品)1錠
1日1回 朝食後 16 日分
5 プラバスタチンNa錠10mg「NS」(メバロチン錠後発品)1錠
1日1回 朝食後 15 日分
6 メトグルコ錠 250mg 6 錠
1日1回 毎食後 5 日分
7 セイブル錠 50mg 3 錠
1日1回 毎食前 13 日分
8 イルベタン錠 50mg 1 錠
1日1回 夕食後 13 日分
4/13オプジーボ1コース目施行。
《手技 持続点滴末梢 メイン》 レジメン Nivolumab療法(NSCLC)
薬品 (100mL)テルモ生食(100mL) 1 袋
薬品 オプジーボ点滴静注 240 mg
用法 1日1回 交換 注入時間 30分
追加患者情報
4/27~20XX(+1)/1/26 オブジーボ 2~19コース施行。当初、pseudo progressionみられたが、4コース後に縮小得られた。
6/8より、甲状腺ホルモン補充開始。
追加Rp)チラージンS 25μg 朝食後 開始
20XX(+1)/1/6ころから食欲低下。歩行時のふらつきの訴えあり。脳病変はサイズ不変も周囲の浮腫の増強あり。
2/10、食欲不振でオプジーボ中止。
2/16、食事とれなくなり入院。オプジーボの免疫関連副作用の副腎不全を考え、内分泌Drにコンサルト。
追加患者情報の続き
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2/17、ラピッドACTH試験施行。夜に血圧が70台に低下。副腎クリーゼと考え、【ステロイド注射:□□】を6時間毎、糖含有輸液開始し、血圧改善、食欲も回復した。【ステロイド内服:△△】を補充。以後、漸減。肺癌の増大あり、本人の希望あり
6/28、オプジーボ再開。
20XX(+1)年 7/28
徐々に食欲不振増強し、呼吸困難感も出現し、緊急入院。
副腎ホルモン欠乏及び、肺癌周囲に間質影あり、ステロイドパルス施行。食欲不振、間質性肺炎は速やかに改善した。小脳転移の増大が認められ、中脳水道が狭窄しており、側脳室の若干の開大がみられ、意識障害に関与している可能性あり、当院でトモテラピーとした。その後、意識レベルはやや改善したが、歩行できるまでには回復せず。次第に寝たきりとなった。
11/27
(S)熱があってしんどいです。
(O)中心静脈栄養施行中。体温38.9度
カテーテル感染疑いで、血培及びカテーテル先端の培養提出。グラム染色でGPC検出。
内頸CVカテーテル感染の診断でEmpiric therapy開始。
(A)抗菌薬投与開始。
11/30
血培:両ボトルからStaphylococcus aureus(MRSA)検出
(P) VCM投与。
検体情報 :材料名 静脈血
培養同定 :
薬剤名 |
Staphylococcus aureus(MRSA) |
|
PCG(ペニシリン) |
>=0.5 |
R |
MPIPC(オキサシリン) |
>=4 |
R |
ABPC/SBT (アンピシリン/スルバクタム) |
>=32 |
R |
CEZ(セファゾリン) |
>=64 |
R |
CMZ(セフメタゾール) |
>=64 |
R |
IPM(イミペネム) |
>=16 |
R |
MEPM(メロペネム) |
>=16 |
R |
GM(ゲンタマイシン) |
>=16 |
R |
ABK(アルベカシン) |
2 |
S |
MINO(ミノサイクリン) |
>=2 |
R |
EM(エリスロマイシン) |
>=8 |
R |
CLDM(クリンダマイシン) |
>=8 |
R |
LVFX(レボフロキサシン) |
4 |
R |
VCM(バンコマイシン) |
2 |
S |
TEIC(テイコプラニン) |
16 |
I |
LZD(リネゾリド) |
1 |
S |
FOM(ホスホマイシン) |
>=128 |
R |
●VCM TDM (80.8kg)
【投与歴】
11/28~ 1g×2回/日
【血中濃度】
11/30トラフ 9.2μg/mL
12/4トラフ 14.0μg/mL
MRSAに対する抗菌薬の選択について。VCMを投与しMIC=2で効果が不十分な場合、抗MRSA薬は何を使用しますか?
MIC: Minimal Inhibitory Concentration (最小発育阻止濃度)
MRSA: methicillin‐resistant Staphylococcus aureus(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
Q1の答え
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MIC=2で治療効果が不十分である場合には、DAPの投与を考慮する。
LZDは菌血症への治療効果がVCMより劣る可能性がある。
バンコマイシン |
VCM |
ダプトマイシン |
DAP |
リネゾリド |
LZD |
この症例で、投与設計はどのように行うべきでしょう?
Q2の答え
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Loading投与が無いため25〜30mgを初回に投与。
MRSAのため、15〜20μg/mLを狙った投与設計。