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接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年10月29日 小原 一将

心理学の専門家に聞く「共感できるコミュニケーション術」

心理学の専門家に聞く「共感できるコミュニケーション術」のメインの画像1

せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない…そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。
話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。

そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。
そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。

臨床心理士/公認心理士のK.Hさんに聞く、薬剤師の接客術

第五回目に続いて心理士のK.Hさんに、薬剤師に役立つコミュニケーションのコツをおうかがいしていきます。こちらの連載のインタビューは三回目ですが、皆さんが根底に同じことを考えながらお客さんやクライエントさんの対応をしているのではないかと感じています。そう思わせるキーワードが今回も登場しました。

対物から対人へと、薬剤師の仕事がシフトする中、今回のインタビューでお話いただいたことはとても重要であると思います。日々の患者さん対応やスタッフとのコミュニケーションをより良くするために、こちらの記事を参考にしてみてください。

お話を伺った方

K.Hさんの画像

K.Hさん

学校の教員を経験した後、臨床心理士、公認心理士の資格を取得。 NPO法人やスクールカウンセラーなどで活躍しながら、親子のコミュニケーションについての助言やアドバイス、家族や教職員にもアドバイスを行っている。

相手に共感するとはどういうことか

心理学の専門家に聞く「共感できるコミュニケーション術」の画像2
小原

前回、キャビンアテンダントさんにインタビューした際に、相手を否定せずに聞くということをおうかがいしました。こちらは心理士さんにとってどのように考えますか?

【参照】第4回:元キャビンアテンダントに聞く、接客術

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K.H

とても大事なポイントですね。私たちの言葉で言うと、”受容と共感”そして”無条件に肯定的に聞く”ということになります

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小原

なるほど、やはり共通する部分は多いのですね。共感をするというのは、言葉にすると簡単ですが、少し難しい印象があります

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K.H

そうですね。一般的には「相手の気持ちを分かってあげること、相手の気持ちに寄り添うこと」というように考えられていますね

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小原

違う側面もあるのですか?

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K.H

間違ってはいないのですが、このような考え方も出来ます。相手の気持ちを私が分かっているということではなく、聞いてくれている、もしくは分かってくれていると相手が思っていたら共感しているとも言えます

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小原

それは、こちらが相手のことをあまり分かってあげられていなくても、相手が分かってくれていると感じていたら共感していると考えても良いということですか?

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K.H

そうですね。相手を主体として考えると、必ずしも全てを分かっている必要はなく、コミュニケーションの中で相手が安心感や心地よさを感じられていたら、それは一つのゴールであると言えます

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小原

スタイリストの方に服装や身だしなみについてお伺いした際に、「自分軸ではなく他人軸で考える」ということを教えてもらいました。共感するということについても、他人軸を意識するという考え方があるのですね

【参照】
第1回 まずは第一歩!患者さんは「ここ!」を見ている
第2回 清潔感のある印象で患者さんの悩みを引き出す

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K.H

私はあると思います。超能力でも持っていない限り、相手の気持ちを完璧に分かることはできないと思います。だから、会話を通じて患者さんが「私の気持ちを何とかして分かろうとしてくれている」「私がどのように考えているかを知ろうとしてくれている」と相手に思ってもらえたらそれは共感と呼べるのではないでしょうか

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小原

薬剤師として、重い疾患の方の気持ちを分かってあげられているのかと考えることがありますが、患者さんが分かってくれていると思ってもらえていたら、それはコミュニケーションとして一つの正解であるとも言えますね

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K.H

逆に、相手のことを何でもかんでも分かると思っている人ほど、相手の気持ちに共感できていないと感じます。そういう人ほど、自分の思いを押し付けがちになり、相手の気持ちに寄り添うことが難しくなるのではないでしょうか?「あまり質問して欲しくない」という患者さんの思いに気づき、質問を控えることも共感です。基本は、相手の立場になって考えること、相手の気持ちを想像することを意識しながら会話をしていくことが重要ですね

“共感”という言葉はよく耳にしますが、私たちは何とかして相手の気持ちを分かろうとしていることが多いのではないかと思います。そうではなく、他人軸で物事を考えた際に、薬剤師と話をしている患者さん自身が分かってもらえていると感じてもらうことが大事であるということが分かりました。
相手のことを知ろうとしているという姿勢を少しずつ伝えながら、前回の記事で紹介した個別性を意識してコミュニケーションを取ることが大事だと思います。

コミュニケーションを円滑にするためのちょっとしたコツ

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小原

うまく話を聞き出せなかったりと、コミュニケーションを苦手としている方に向けて、効果的な方法などがあれば教えてください

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K.H

うまい言い回しや会話の型を事前に用意しておくという方法が良いと思います。コミュニケーションは臨機応変な対応が必要であるように思いますが、その基本になるのが言い回しのバリエーションです。

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小原

知識として会話を蓄えておくということですか?

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K.H

そうです。映画やドラマなどの言い回しで『この言い方良いな』と思ったシーンを覚えたり、先輩や身近な人を観察して、良いと思った会話を覚えておくと良いです。例えば、相手からの申し出を断る場合に、「要らないです」という言葉だけではなく「お気持ちだけいただきます」というフレーズを覚えておくと実際にそのような場面で使えるようになります

心理学の専門家に聞く「共感できるコミュニケーション術」の画像
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小原

良いと思った言い回しを意識して覚えておくと、いざという時にその言い回しや話し方ができるということですね

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K.H

心理学的にはモデリングと言いますが、良い”言い回し”を見たり聞いたりして、まねをして学習するのです。まねをした良い”言い回し”を実際の場面で用いることができれば、結果的に「この言い回しでうまくできた!」というように、コミュニケーションに対してポジティブな気持ちが持てるようになると思いますし、良い”言い回し”の型が定着すると思います

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小原

確かにそうですね。コミュニケーションがうまくいかないと思っている方は、うまくいかなかったことが印象に残っているかもしれません

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K.H

失敗した原因を考えることは重要です。しかし、うまくいったことの理由を追求して考えてみることも重要であると言えます。このような言い方をするとうまくいったということを積み上げて、次に繋げていく方が良いでしょう

コミュニケーションを知識として蓄えていくというのはとても新鮮なお話でした。この考え方であれば、コミュニケーションが苦手と考えていた方も、コツコツと努力することで今よりもさらに良い対応をすることができるでしょう。
ほんの些細な言い回しでも良いので、上手だなと思ったフレーズなどを記憶して患者さんやスタッフに使ってみましょう。それが円滑なコミュニケーションに繋がることで、良い循環が生まれていくはずです。

良いコミュニケーションができるように一つずつレベルアップを

「良いコミュニケーション」という言葉だけを聞くと、とても難しいように感じてしまいます。しかし、今回のお話をお伺いしていて、「相手を完全に分かろうとするのではなく、分かってもらえていると感じてもらうこと」や「コミュニケーションを知識として蓄えていく」というコツは誰にでも取り組めるものだと感じました。

これまでの薬剤師の学習を考えると、急に色々なことが分かったり、できるようになったというわけではないでしょう。薬剤の成分名、効能効果、用法、体内動態、併用など少しずつレベルアップを重ねてきたので今の自分があるはずです。コミュニケーションも同じように、自分のできることを一つずつ積み重ねてレベルアップしてもらえたらと思います。

次回は、IT企業に勤務する営業職の方に、コミュニケーションで気をつけていることやこれまでに失敗したことなどをお伺いします。コミュニケーションに自信があったにも関わらず、法人営業の世界で最初はうまくいかなかったようです。そんな状況をどのように乗り越えたのかについてインタビューしてお伝えします。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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