3次資料抜きに薬剤師業務は回らない
1次資料と3次資料
突然ですが質問です。日常業務で1次資料(ここでは原著論文の意)を用いていますか?恐らく、多くの方の答えは「No」でしょう。
たしかに大学では1次資料やその検索方法を教わります。しかし、実際に1次資料に触れるのは、業務中に生じた疑問点を深堀りしたいときや、学会発表や研究論文の執筆のときぐらいでしょう。
疑問が生じる度にいちいち1次資料に当たっていたら、時間がかかり過ぎてとても業務が回りません。一方、前回も述べた通り、薬剤師が医薬品情報の「補完」役を担う時代が到来しており、多様な情報源が必要とされているのも事実です。
限られた時間でいかに効率的に情報収集できるかが問われているのです。では、我々は1次資料以外に何を参考にすればよいのでしょうか?ここで四つ目のシン常識を提示しておきます。
シン常識❹:「3次資料抜きに薬剤師業務は回らない」
そう、答えは「3次資料」です。3次資料とは1次資料をもとに特定のテーマで整理・編集された資料。いわばDI業務のショートカットです。今回はこの3次資料についてもう少し深堀りしましょう。
3次資料へのアクセスにこだわるべき理由
私がよく利用している代表的な3次資料、特にDI関連書籍の例を挙げてみました。
- 「今日の治療薬」(南江堂)・「日本薬局方 医薬品情報」(じほう)
- 「JAPIC 一般用医薬品集」(日本医薬情報センター)
- 「錠剤・カプセル剤粉砕ハンドブック」(じほう)
- 「内服薬 経管投与ハンドブック」(じほう)
- 「腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK」(じほう)
- 「実践 妊娠と薬」(じほう)
- 「注射薬調剤監査マニュアル」(エルゼビア・ジャパン)
- 「抗悪性腫瘍薬の院内取扱い指針 抗がん薬調製マニュアル」(じほう)
- 「病院薬局製剤事例集」(薬事日報社)
- 「Physicians' Desk Reference」(Medical Economics Co.)
独断と偏見で厳選しましたが、納得のラインナップではないかと思います。
近年ではインターネットを介した情報提供も非常に充実しています。
- 医薬品情報提供ホームページ(PMDA)
- 医薬品副作用データベース(PMDA)
- 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
- 妊娠とくすり情報センター(国立成育医療研究センター)
- 中毒情報データベース(日本中毒情報センター)
- SAFE-DI(アルフレッサホールディングス)
- Clinical Cloud(メディパルホールディングス)
- FINDAT(日本調剤)・AI-PHARMA(木村情報技術株式会社)
いずれも多様化する医療現場のニーズに応える形で登場してきた情報源。逆に、もしこれらがなかったと思うとゾッとします。添付文書が「教科書」だとすれば、上記の情報源はまさに「参考書」に該当します。
薬剤師業務も理屈は受験戦争と同じです。学校で教わった「教科書(1次資料+添付文書)」では歯が立たず、「参考書(3次資料)」を活用する必要がある。その事実に気づかなければ、どんどん周りに置いていかれるのです。
3次資料がなければ薬剤師は「補完」役が務まらない。
適切な3次資料にたどり着けるか否かで薬剤師業務の質が決まる。
よって、3次資料へのアクセスは薬剤師にとって最重要課題のはず。しかし、不思議なことに今の薬剤師にはあまり悲壮感が感じられません。それはなぜでしょうか?
- 誰か(先輩・メーカー等)に訊けば済むと思っているから
- そのうち出版社やAIが何とかしてくれると思っているから
- 3次資料のことに詳しくないから
ここでも大学でDI業務を学んでこなかった弊害が出ています。しかし、今それを悔やんでも仕方がありません。その分、我々は豊富な3次資料に恵まれているのですから。
4次資料は薬剤師が作るしかない
3次資料が増えれば、同時にそれにたどり着けないリスクも高まります。解決策としては何があるでしょうか?真っ先に思い浮かぶのが「2次資料」です。ここで言う2次資料とは、1次資料の検索ツール的存在を指します。
それと同じ考え方で3次資料の検索ツールを入手できないものでしょうか?便宜上「4次資料」と呼ぶことにしましょう。検索すれば、知り得る限りの3次資料の中から目的に合致したものを選び出すことができる、そんなツールのことです。
しかし、ここで厄介な問題点が待ち構えています。
3次資料には多かれ少なかれ人の手が加えられているという点です。
情報の「信頼性」の話もさることながら、権利上の問題が生まれます。
例えば、注射薬の配合変化に関する書籍は、無料で入手できるメーカー製の配合変化表が情報源となっています。でも「情報源が無料だからその書籍も無料」という訳にはいきません。書籍が出版・発売されるまでには多額のコストが掛かっており、著作権も出版社(厳密には編集者)にあるからです。
また、医薬品情報サイトの中には無料でコンテンツを閲覧できるものもありますが、会員登録を要求されます。そして、ほとんどのケースでコンテンツの無断転載は禁止です。
結果として4次資料は次のような全体像となります。
- 誘導できるのは3次資料の入り口まで
- 入り口を通過するには資格(医療従事者・会員登録・書籍購入等)が必要
- 4次資料に利用するには、著作権の保有者に使用許諾や使用料の交渉が必要
4次資料の主たるユーザーは薬剤師です。3次資料が日に日に膨らむ中、薬剤師のような極小マーケットを対象に権利関係の複雑な4次資料を開発してくれる奇特な業者が現れるでしょうか?仮にそれが実現したとしても、とてつもない高額商品となることでしょう。つまり、4次資料は薬剤師自身が作るべきのです。なにしろ、薬剤師なら大半のコンテンツを自由自在に利用できるのですから。
アクションプラン
最後に薬剤師の皆さんにメッセージです。
最適な3次資料にたどり着ければ、薬剤師業務の質は確実に向上します。
「勉強」とは全く別次元の話です。
3次資料へのより良いアクセス手段を追求しましょう。