渇いたような咳が止まらないときなどに「麦門冬湯」
薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は打撲による痛み、腫れに使われる漢方「治打撲一方」を取り上げましたが、今回は、「麦門冬湯」を取り上げます。
長く続く咳、体の防御反応だとわかっていてもいやなものですよね。特に熱や鼻水などの症状もないのに咳だけが続き、風邪薬を飲んでも治らないようなときには何か重い病気になってしまったのではないかと不安に駆られてしまう方もいらっしゃいます。そんなときに頼りになるのが「麦門冬湯(バクモンドウトウ)」です。
「麦門冬湯(バクモンドウトウ)」は気管支喘息や咳喘息のような激しい咳、喉の奥からつき上がってくるような咳など胸部の疾患のときに処方される漢方製剤で、その適応症は痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支喘息などとなっています。
咳でも様々な種類の咳がありますが、「麦門冬湯」は主に空咳に対する処方薬です。水っぽい痰が絡む咳や咳の出ない風邪、むくみなど体に水分が多く貯留しているような人はその症状が悪化する可能性があるので避けたほうがよいでしょう。水っぽい痰が多く出るような咳症状の場合には「清肺湯(セイハイトウ)」の対象になります。
参考資料
「漢方294処方 生薬解説」根本幸夫監修 じほう
「方剤学」東洋医学健康会 神戸中医学院
「図説 中医学概念」汪先恩著 山吹書店
「中医薬膳学」 辰巳洋著 東洋学術出版
津液不足による咳症状に対し体に潤いを与えて症状緩和
「麦門冬湯」は肺脾胃陰虚という分類に入る処方になります。陰虚とは血液中に抑制的な栄養物質が不足している状態で、相対的に興奮状態になっている状態のことを言い、津液不足の症状が様々な形で現れます。「麦門冬湯」の対象となる肺脾胃陰虚のうち、肺陰虚においては、肺を潤す津液が不足するため、咳が出たり、切りにくい痰が生じやすくなったりします。脾胃陰虚においては胃の津液が不足するため、口が渇き、唾液の減少、胃の不快感、乾嘔(からえずき)、食欲低下などが起こりやすくなるといった症状が現れます。
ではこの肺脾胃陰虚に「麦門冬湯」がどのように効くか見ていくことにします。
「麦門冬湯」には、「麦門冬」、「半夏(ハンゲ)」、「人参(ニンジン)」「大棗(タイソウ)」、「甘草(カンゾウ)」、「粳米(コウベイ)」が含まれています。
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