【この薬って禁忌?】服薬指導に役立つ、妊婦と薬の話

更新日: 2025年1月7日 りーこ

【妊婦も服薬継続】抗うつ薬・SSRIを続ける理由は?

【妊婦も服薬継続】抗うつ薬・SSRIを続ける理由は?のメイン画像
☞この記事でわかること!
  • 抗うつ剤・SSRIの作用機序
  • 抗うつ剤・SSRIが妊婦に与えるリスク「ベースラインリスク」について
  • 抗うつ剤・SSRI服用による新生児遷延性肺高血圧症の発生率
  • 妊婦が抗うつ剤・SSRIを自己中断しないための適切な服薬指導

妊娠中や妊娠を希望する患者に対する精神疾患の管理には、患者の心身の健康はもちろん、胎児への影響を考慮した服薬指導が重要です。

特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬に対する不安を抱える患者が多いため、適切なリスク評価と効果的なカウンセリングが欠かせません。本記事では、妊娠中の抗うつ薬使用におけるリスクとベネフィットを解説し、患者の不安を軽減する服薬指導についてお伝えします。

抗うつ剤SSRIとは? 妊娠中のうつ病と治療方針

抗うつ剤・SSRIの作用機序

うつ病の治療薬にはSSRIやSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)をはじめ、抗不安薬や睡眠薬、非定型抗精神病薬などさまざまな種類がありますが、今回はSSRIに焦点を当てて解説します。

SSRIは脳内のセロトニン再取り込みを抑制することで、神経細胞間のセロトニン濃度を高め、気分を安定させる効果があります。この作用により、うつ病や不安障害の治療に用いられ、気分改善を促す薬です。

適応は主にうつ病、不安障害、パニック障害、強迫性障害などで、他の抗うつ薬に比べて副作用が少なく、忍容性が高いとされています。ただし、服用初期には吐き気や下痢、眠気、性機能障害などが現れることもあります。

妊娠中のうつ病に対しても、非妊娠時と同様に重症度に応じた治療が行われます。軽症うつ病には、支持的精神療法や心理教育などの基礎的介入に加えて、SSRIなどの新規抗うつ薬による治療が推奨されます。中等度以上のうつ病では、基礎的介入に加えて、新規抗うつ薬や三環系抗うつ薬による治療が検討されます。

妊婦と抗うつ剤の関係。服用継続を推奨する理由

抗うつ薬の服用のベースラインリスク。自然流産約15%、先天異常発生約3%

妊婦が抗うつ薬を服用している場合、うつ病の再発率は26%ですが、服薬を中止した場合は再発率が68%に上昇することが知られています。また、妊婦の自殺の35%、産褥期の自殺の33%がうつ病に関連していることからも、妊娠中のうつ病治療の重要性が理解できます。

抗うつ薬の服用による妊娠への影響に不安を抱くことも多いですが、全ての妊婦には自然流産のリスクが約15%、先天異常発生のリスクが約3%あることを前提に考える必要があります。

これを「ベースラインリスク」と呼び、この頻度が薬剤により上昇するかどうかが問題です。SSRIによる流産リスクの増加は認められておらず、先天異常に関してはSSRI、特にパロキセチンと心奇形の関連について議論されていますが、賛否両論の研究結果が出ており、発見バイアスの影響も指摘されています。

現状では関連はないか、関連があったとしてもごくわずかであると考えられるため、母体の精神状態の安定による有用性は胎児へのリスクを上回ると考えられます。

このように胎児への薬剤影響だけでなく、母体の精神状態が胎児の発育や産科合併症に与える影響を考慮し、妊娠中もSSRIの服用継続が必要になるケースも少なくありません。

抗うつ剤・SSRIの新生児への影響

妊娠後期のSSRI服用による新生児への影響。新生児薬物不適応症候群とは

妊娠後期のSSRI服用による新生児への影響としては、新生児薬物不適応症候群や新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)が挙げられます。

新生児薬物不適応症候群は妊娠後期に母体が抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬、抗てんかん薬、または麻薬性鎮痛薬などを服用していた場合に、新生児に生じる一過性の症状のことを指します。

新生児薬物不適応症候群は、過敏性、震え、過呼吸、嘔吐などの非特異的な症状を生じる場合がありますが、ほとんどは軽症で1週間以内に自然と回復することが多いです。そのため新生児薬物不適応症候群を回避するために、妊婦の薬物療法を中止する必要はありません。むしろ中止による妊婦の精神状態の悪化や急な中断による離脱症状を回避するべきです。

また、妊娠後期のSSRIの使用により「PPHN(新生児遷延性肺高血圧症)が増加する」という報告と「関連がない」という報告の両方があります。

PPHN(新生児遷延性肺高血圧症)の一般の発生率は約2人/1,000人とされており、仮にSSRIによるリスク増加があったとしても、約3人/1,000人と絶対的な発生率は低いと考えられています。

そのため実臨床では過度にPPHN(新生児遷延性肺高血圧症)のリスクを強調する必要はないと考えられます。

挙児希望の女性への関わり方は?プレコンセプションケアの具体例

すべてのコラムを読むにはm3.com に会員登録(無料)が必要です

こちらもおすすめ

りーこの画像

りーこ
りーこ

総合病院勤務の中堅薬剤師。妊婦さん、授乳婦さんが薬に対して不安を感じている原因は薬剤師側も妊婦授乳婦の薬物療法への知識や関わり方が分からず、服薬指導に自信がないからではないかと感じ、妊婦授乳婦の薬物療法について発信を開始。 経験を活かしてinstagramの投稿を続けることで薬剤師の皆さんの妊婦授乳婦の服薬指導への苦手意識がなくなれば、その薬剤師が関わる妊婦さんや授乳婦さんの不安も減ることを願っています。Instagram:https://www.instagram.com/ph_riiko_gram/

キーワード一覧

【この薬って禁忌?】服薬指導に役立つ、妊婦と薬の話

この記事の関連記事

この記事に関連するクイズ

アクセス数ランキング

新着一覧

26万人以上の薬剤師が登録する日本最大級の医療従事者専用サイト。会員登録は【無料】です。

薬剤師がm3.comに登録するメリットの画像

m3.com会員としてログインする

m3.comすべてのサービス・機能をご利用いただくには、m3.com会員登録が必要です。

注目のキーワード

病院薬剤師 漢方 年収・待遇 医療クイズ 転職 ebm 感染症対策 薬剤師あるある アセスメント 調剤基本料