薬剤師向け:がんの痛みとは?全人的苦痛(トータルペイン)を解説

オピオイドを処方された患者から「医療用麻薬って最後の手段なのでは?私もう長くないの?」と質問され、戸惑った経験はありませんか。このような質問の裏側には、患者のどのような痛みが隠されているのでしょうか。
オピオイドを正しく使い、患者の苦痛を和らげるためには、がんによる痛みを正しくアセスメントすることが必要不可欠です。今回は、緩和医療に携わるすべての医療従事者が知っておきたい、がんの痛みに関する基本的事項を解説します。がんによる痛みについての理解を深め、痛みを正しくアセスメントしましょう。
がんの痛みとは?全人的苦痛(トータルペイン)を理解しよう
がん患者が経験する痛みとはどのようなものなのでしょうか。
がん治療を受けている患者の約半数に痛みがあり、転移のある進行がんあるいは末期がん患者では7~9割が痛みを経験しているとされています1)。強い痛みは不眠をもたらし、食欲を低下させ、患者の日々のささやかな楽しみをも奪い、QOLを低下させます。
また、がん患者の痛みは、身体的苦痛だけではありません。
下図のように、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペイン(霊的苦痛)の4つの苦痛があるとされ、それぞれの苦痛が相互に複雑に影響し合った全人的苦痛(トータルペイン)としてあらわれます2)。

がん患者の痛み・全人的苦痛(トータルペイン)のイメージ
オピオイドを処方されたがん患者から「医療用麻薬って最後の手段なのでは?私もう長くないの?」と質問されたとします。まずは、「オピオイドは最後の手段」という誤解を解くため、病状の進行具合とは関係なく、痛みに応じて必要な時期から開始する薬であることを説明しましょう。
そのうえで、患者の言葉の裏側に隠された不安やいらだちなどの精神的苦痛、のこしていく家族との家庭内の問題や経済上の問題などの社会的苦痛、死の恐怖や罪の意識などのスピリチュアルペインの側面にも目を向けるとよいでしょう。
患者の声にしっかりと耳を傾け共感を示す態度は、精神的苦痛の緩和につながります。全人的苦痛への対応には、他職種との連携も欠かせないでしょう。
痛みの性質をアセスメントしよう~体性痛・内臓痛・神経障害性疼痛~
痛みは、発生機序の違いから、侵害受容性疼痛(体性痛・内臓痛)と神経障害性疼痛に分けられ、それぞれ次のように定義されます3)。
体性痛…皮膚や骨、関節、筋肉、結合組織などへの機械的刺激(切る、刺す、重力がかかるなど)が原因で発生する痛み
内臓痛…内臓の炎症や狭窄・閉塞、周囲の被膜への炎症の波及や臓器腫大などが原因で引き起こされる局在が不明瞭な痛み
神経障害性疼痛…痛覚を伝導する神経の損傷や刺激により引き起こされる痛み
がん患者における頻度としては、体性痛71%、神経障害性疼痛39%、内臓痛34%と報告されていますが、これらの痛みが混在することも多くみられます3)。
以下がそれぞれの痛みの性質です3)。