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薬局業界ITツールマップ

更新日: 2021年5月17日 富澤 崇/土井 信幸

薬局業界のツール・システムを俯瞰的・中立的に捉えマップ化

薬局業界ITツールマップメインの画像1

IT化やオンライン化・デジタル化が加速する昨今、薬剤師業界においても薬局向けのシステムやアプリケーションが多数リリースされています。しかし、選択肢が多いことは選ぶ喜びをもたらしてくれる一方で、決めきれないというジレンマをもたらします。急速に電子化・ICT化が進んだ薬局業界では、こうした「選択のパラドクス」に陥っている薬剤師も多いのではないでしょうか。
そこで、私たちは薬局向けに開発販売されているシステムやアプリケーションに関するカオスマップを作成しました。この分野を網羅的・俯瞰的に捉える一助にしてください。

PHARMA TECHカオスマップ

カオスマップの主旨

世の中にどんな「Pharma Tech※」が存在し、どんな目的で販売されているのか。また、同種のツールにはどんなものがあるのかといった情報を客観的に中立的にまとめました。これにより、薬剤師のツール選択の選びやすさを高め、その結果薬剤師のICT化が進む一助となることがこのマップの存在価値と考えています。

※ PHARMA TECHとは
「Pharma Tech」とは、薬剤師や薬局スタッフおよび患者やその家族が使用するITツールやITソリューションを示す造語です。薬局領域(Pharmacy)のテクノロジー(technology)という意味を込めてつくりました。本シリーズでは、以後この呼称を使用していきます。

カオスマップ

薬局業界ITツールマップの画像

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今回のカオスマップでは、縦軸はPharma Techの使用者別に分類されています。患者・消費者が主に使用するPharma Techを上部に、患者・消費者と医療者の双方が使用するものを中部に、医療者が主に使用するものを下部に配置しました。
また、横軸は医療アウトカムに直結するものを左に、薬剤師の業務効率化に寄与するものを右に配置しました。
なお、ひとつの会社が複数のツールを開発・販売している場合があるため、マップ内に同一企業が複数回プロットされています。各Pharma Techのカテゴリーについては、以下の通りです。

カテゴリー
電子服薬カレンダー・服薬支援ロボット 患者の服薬アドヒアランス向上を目的として、在宅・施設患者への服薬アラート機能、医療・介護従事者への患者の服薬状況情報の共有機能などが搭載された服薬カレンダーやロボット。
施設向け服薬支援システム 施設調剤を行っている保険薬局に対する支援システム。施設入居者への配薬時の薬の渡し間違え、渡し忘れの防止。正しい用法での服薬をバーコード・顔写真照合にて支援。服薬した時間、服薬の有無、副作用状況(写真)について、施設・薬局で情報共有を行うシステム。
処方箋送信・薬配送 処方箋送信後、オンライン服薬指導を行い、処方薬を患者の指定する場所へ配送、もしくは店舗にて受け取ることができるシステムを利用したサービス。
オンライン薬局 オンライン薬局は、患者が正しい知識とともに医薬品を購入できるオンラインサービス。オフラインの薬局と同様に、薬剤師が保有する情報から自分の症状にあった薬とその情報を得て、インターネット決済での購入し、その後の服薬管理までを提供している。
処方箋送信・お薬手帳連携 基本的にはスマートフォンアプリとして患者に無料提供されているシステム。患者はスマートフォンで撮影した処方箋をアプリの利用により送信し、薬局を訪れるまでの間に受付と調剤が済んでおり、時間の節約、薬局での二次感染にも役立つ。また、電子お薬手帳機能と連携し、処方履歴の記録ができる。
スマートフォン連携カード型お薬手帳 スマートフォンの電子お薬手帳アプリを基盤としたシステム。患者は専用のICカードを1枚作成し、カードタッチという操作で使用可能。スマートフォンとも連動しているので、カードと双方を患者の理解度によって使い分けることが可能。
処方箋送信 患者がスマートフォンで撮影した処方箋をかかりつけ、もしくは選んだ薬局へアプリを利用して送信するシステム。
処方箋送信(設置型) スマートフォンを持っていない患者でも、インターネット・FAXを利用して処方箋を薬局に送信することができる設置型システム。
デジタル薬 デジタル薬は、病気を治療するためのアプリケーションソフト全般と定義されている。主に認知行動療法に基づき、うつ病、認知症、ADHD、不眠症、禁煙や薬物依存治療などの治療に用いる保険適用の承認を得たアプリケーション(現在、保険適用を有するのはニコチン依存症治療用アプリのみである)。
※デジタル薬は、患者の服薬アドヒアランス向上を目的とした、処方薬と摂取可能なセンサーを組み合わせた医薬品であるデジタルメディスンとは定義が異なる。
製薬企業系服薬支援アプリ 製薬企業が提供している医薬品の適正・安全使用を目的としたスマートフォンアプリ。疾患の情報提供や服薬タイミングをアラートで知らせる機能など、疾患やその治療薬の特徴に合わせたコンテンツを提供。
処方箋送信・お薬手帳・オンラインフォロー一体型 スマートフォンアプリとして患者には無料提供されており、患者がスマートフォンで撮影した処方箋をかかりつけ、もしくは選んだ薬局へアプリを利用して送信するシステム。また、処方薬の情報を電子お薬手帳へ記録する。次回の来局までの間患者の服薬支援についてもSNSなどを利用したオンライン対応ができる機能を有する。
オンライン服薬指導 処方箋の受付業務、オンライン服薬指導、キャッシュレス決済の機能をクラウドで提供。
多職種連携システム 病院、在宅クリニック、訪問看護ステーション、薬局、介護施設、行政など、地域包括ケアシステムにかかわる医療・介護関係者や患者・家族が、いつでもどこでも簡単にコミュニケーションや情報共有を行うことを目的としたチャット形式のコミュニケーションツール。
訪問薬剤師支援システム タブレット端末等を活用し、薬剤師の在宅業務の支援を行うシステム。システム内の主な機能としては、訪問スケジュール管理、居宅医療管理指導報告書作成、調剤予測、処方歴閲覧、薬品情報閲覧、画像添付、薬歴作成、地域連携機能、レセコンとの連動など。
OTC販売支援システム 一般用医薬品のリスク区分、濫用等のおそれのある医薬品、セルフメディケーション税制区分など販売時に注意が必要な事項について表示することでOTCの販売を支援するシステム。患者の症状から適したOTC医薬品候補の検索が可能。患者の基礎疾患禁忌、生活上の注意についてアイコンで表示。
窓口アンケートアプリ 初回来局時の患者アンケートなど、患者アンケートの電子化アプリ。
調剤機器 全自動薬剤払出機、抗がん剤調製、水剤調製、返品仕分けシステムなど。
※全自動分包機、軟膏調剤機は除外
電子薬歴・レセコン 従来の電子薬歴システムに加え、音声入力ソフトが付属型、クラウド型やAIによる薬剤師支援システム搭載型の電子薬歴を含む。
AIによる薬剤師支援 AI搭載チャットボットによる患者問い合わせ支援。事前問診や服薬後のアフターフォローなど、薬剤師による患者とのコミュニケーションにおいて目的とする回答(薬物治療上必要な情報)を得やすい質問方法などをAIがサポート。
調剤監査支援・調剤過誤防止システム 目的は調剤過誤防止・発見であるが、多様な機器が存在する。
・バーコードによる調剤過誤防止システム
・カメラからの画像データ、医薬品の重さなどを利用した薬の監査システム
・一包化調剤の監査システム
・スマートグラスを用いた調剤支援システム。など。
マイナンバー資格確認 オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダー。マイナンバーカードの顔写真データを IC チップから読み取り、その「顔写真データ」と窓口で撮影した「本人の顔写真」と照合して、本人確認を行うことができるカードリーダー
医薬品配送ドローン 薬局と運送会社などの協業による患者宅への医薬品配達ドローン(無人飛行ロボット)。
調剤薬局向けPOSレジ レセコン連動、軽減税率対応、セルフメディケーション税制優遇など、薬局独自の機能要件を備えたPOSレジ。
在庫管理システム 薬局の各店舗における医薬品の在庫管理システム。
本部業務管理システム 複数の店舗を有するチェーン薬局の本部における各店舗の売り上げ、在庫、勤怠に関する本部業務の管理支援システム。
医薬品マッチングシステム 日常、使用頻度の低い医薬品について薬局間での在庫マッチングを行い、少量しか使用しない医薬品の取り寄せや破棄在庫を減らすことを目的としたシステム。 ※単に在庫数量を管理するシステムとは異なる。
医療タレントマネージメントシステム 人材育成、採用戦略、人事評価の効率化、離職防止などにデータを活用することを支援するシステム。従業員のパーソナルデータ、患者評価、人事評価、スキル、経験などをデータ化し、統合・可視化して一元管理する。
MR支援システム 製薬企業向け営業支援システム。医師へのプロモーションメールの配信、コンテンツの提供支援、医師とのアポイント支援など。また、営業担当者が実際に行ったアクションとその結果得られた数値を分析し、本社戦略、重点施策、など営業戦略支援も行うシステム。

薬剤師の「製品の購入判断」におけるつまずきを解消する

Pharma Tech領域のカオスマップをご覧いただいて、まず製品の種類の多さに驚かれたのではないでしょうか。自社に導入したシステム以外に類似の他社製品があること、複数の機能を備えた一体型のシステムがあることに気が付いたり、まったく知らないカテゴリーの存在があったりと、新しい発見があったのではないでしょうか。開発販売しているメーカー名をはじめて知った、なんて方もいらっしゃったかもしれませんね。

私たちは、カオスマップとして扱うものを「医療アウトカムの増大、医療サービスの向上、患者の利便性の向上、業務効率化、薬局経営の改善などに寄与する新しいテクノロジーを応用した機器、デバイス、ロボット、ソフトウェア、アプリケーション」と定義しました。したがって、以下のようなシステムや機器は含めませんでした。

  • ドラッグストア各社で運用されているポイントアプリ
  • 散剤分包機や全自動錠剤包装機など従来から使用している調剤機器
  • 待合室を快適に過ごすためのアメニティや設備、デジタルサイネージなど
  • 会計、給与、総務、広報など一般企業においても使用されるシステム

当マップは国内で販売・使用されているすべての製品を漏れなく把握できているわけではありませんし、次々に新しい製品が出てきますので、マップを定期的にバージョンアップしていく必要があることは言うまでもありません。また、カテゴリーの分け方や製品のプロット位置についても人それぞれの見解があるかもしれません。
しかし、このようにある程度網羅的に仕分けることで、それぞれの製品の立ち位置、使用目的、大まかな機能を把握できますし、カテゴリー内の同系統の製品の存在を知ることもできます。Pharma Tech領域のような新しい市場においては、最初から完璧なカオスマップ作成を目指すのではなく、顧客へ知識・比較検討の判断軸を提供し、「製品の購入判断」というフェーズにおけるつまずきを解消することを優先しました。これにより、薬剤師業界のIT化・デジタル化推進の一助になるのではないかと考えています。
また、製品を開発・販売する側から見れば、競合製品の少ないブルーオーシャンを見つけることができるかもしれません。

カオスマップから読み取れるPharma Techの現状

同一カテゴリー内での製品比較や新規参入企業のチェックが必要

「いろいろなカテゴリーで、いろいろなメーカーが製品を販売しているんだな」で終わってしまってはカオスマップの意味がありません。
新規カテゴリーと既存カテゴリーに分けて、それぞれを掘り下げていきましょう。

  • 新規カテゴリー
    処方せん送信、電子お薬手帳、服用期間中のフォローアップの自動化、オンライン服薬指導のいくつかの機能が統合されたシステムやアプリケーションのラインナップが豊富になってきました。また、「デジタル薬」「マイナンバー資格確認」「配送ドローン」など、カテゴリー自体が新しいものが増えてきました。
    薬局内で薬剤師だけが使用する製品ではなく、患者さんや他職種も使用するコミュニケーションツールや患者さんがメインで使う製品などが増えている傾向です。
  • 既存カテゴリー
    調剤機器に関しては3社に集約され、電子薬歴・レセコンはレッドオーシャンという印象を受けます。調剤監査支援・調剤過誤防止システムや在庫管理システムといった、レッドオーシャンと思われるカテゴリーにおいても近年新たに参入した企業があることがわかります。

新規カテゴリーについては、どんな企業が、どんな製品を作り、どんな違いがあるのかがユーザーである薬剤師に十分理解されていないため、カオスマップだけではなく、同一カテゴリー内での製品比較が必要となります。このコラムの第2回目でその点について解説しようと思います。
既存カテゴリーにおいては、そのカテゴリーに新たに参入した企業があれば、それはきっと高機能だったり、低価格だったりと、既存製品を上回る価値があると考えられます。そうでなければレッドオーシャンに参入したりしないはずですから。このような企業の製品は要チェックです。

近年は薬剤師を雇用する医療IT企業も

企業自体にも目を向けてみましょう。新規カテゴリーの製品を開発販売している企業は、ここ数年で立ち上げられたベンチャーやスタートアップであったり、異業種からの参入であったりと、企業自身も新しいということが特徴です。また、大手チェーン薬局・ドラッグストアが自社向けにレセコンや電子薬歴を開発することは以前よりありましたが、それを一つの事業として他社に販売するケースもあります。この場合、自社店舗での使用実績が強みになります。
さらには、まだまだマイノリティーですが薬剤師を雇用する医療IT企業も増えてきました。このマップにある企業で働く薬剤師スタッフは、その現場経験を生かして、ユーザーと共通言語で話ができます。”現場の気持ちがわかる”というわけです。このように開発販売する企業にも目を向けると様々なことが分かります。製品選択の際の判断材料になるのではないでしょうか。

さて、この第1回はPharma Tech領域のカオスマップをご紹介しました。薬局やドラッグストアにおけるIT化・デジタル化の推進にお役立ていただければ幸いです。第2回は、特定カテゴリーの製品群を横並びで比較しながら、製品の特徴や今後の課題について解説したいと思います。

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富澤 崇(とみざわ たかし)

薬剤師/博士(薬学)
株式会社ツールポックス代表取締役、城西国際大学薬学部 准教授
東京薬科大学を卒業後、クリニックや大学病院で薬剤師を経験し、その後大学教員とチェーン薬局の人材開発業務を兼務。2017年7月に株式会社ツールポックスを創業。薬局企業などを対象とした人事・教育・採用領域のコンサルティング事業、薬学生向けダイレクトリクルーティングサイト「Agonist」の運営、薬剤師のキャリア支援事業などを展開。


土井 信幸(どい のぶゆき)

薬剤師/博士(薬学)
高崎健康福祉大学薬学部地域医療薬学研究室 准教授
東京薬科大学を卒業後、ドラッグストア、保険薬局に勤務しながら博士号取得。2014年より高崎健康福祉大学薬学部講師。2018年より現職。HIV患者のスマートな応需プロジェクト(smARTプロジェクト)代表幹事、和光市コミュニティケア会議講師(薬剤師相談員)、群馬薬学ネットワーク世話人、群馬腎と薬剤研究会副会長、日本アプライドセラピューティクス学会評議員。

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