骨粗鬆症は肺がんに次ぐ怖い病気。骨粗鬆症治療で発生率が減らせる疾患は?
骨粗鬆症は、高齢になってから発症することが多い病気で、高齢化の進む日本では患者数が増加傾向にあります。総人口の10%の約1,300万人が骨粗鬆症ともいわれます。たとえ現在は症状が出ていなくても、いずれは腰痛や骨折などを引き起こす危険性が高いとされる「予備群」を含めると2,000万人に至るとも推測されています。今回は薬剤師横山紗希先生に骨粗鬆症治療の重要性についての症例を使用し解説します。
※薬剤師によるフィジカルアセスメントはどこまで許されるのか?については、こちらを参照して下さい。
骨粗鬆症と現病歴
慢性腎臓病(CKD)、本態性高血圧、便秘症
骨粗鬆症の症例
85歳の女性、娘さんと同居。6カ月前に大腿骨近位部骨折により入院。退院後リハビリに通うが、日常生活動作(ADL)が低下。70代で慢性腎臓病と診断。60代で高血圧を発症。娘さんによると、血圧の方は血圧計を計って、毎日気にしているのでお薬を飲み忘れることはないが、骨粗鬆症の1週間に1回のお薬は飲み忘れが多い。家にいるときは横になっていることが多く、何かするという気力が全くない。最近歯茎が腫れており、歯科医院にて治療。歯科医師にはアレンドロン酸ナトリウムを服用していることは伝えている。抜歯予定はない。
現在の検査所見
血圧126/76mmHg、脈拍 70回/分 、体重40kg、eGFR(推算糸球体濾過量)35mL/min、血清Cr;0.85mL/min
訪問時所見
血圧129/79mmHg、脈拍 71回/分、足のむくみ(-)、アレンドロン酸ナトリウム飲み忘れ1錠あり。
骨粗鬆症と現病歴の処方薬
〇整形外科・内科で
・イルベサルタン錠100 mg 1錠 分1朝食後
・アムロジピンベシル酸塩錠5mg 1錠 分 1朝食後
・アルファカルシドール錠0.5μg 1錠分1 朝食後
・アレンドロン酸ナトリウム水和物錠35mg 1錠 分 1起床時 木曜日服用
・酸化マグネシウム錠330 mg 3錠分 3 毎食後
〇歯科医院で
・ロキソプロフェンナトリウム錠60 mg錠 3錠 分 3 毎食後
・セフジニルカプセル100 mg 3カプセル分 3 毎食後
薬剤師紗希による骨粗鬆症の症例Point
☞Point 1
大腿骨近位部骨折歴とアレンドロン酸ナトリウムのアドヒアランスが不良により再骨折の危険性あり
☞Point 2
アレンドロン酸ナトリウムから注射製剤のロモソズマブへ変更提案
☞Point 3
CKD患者さんは、骨粗鬆症を引き起こしやすい
☞Point 4
歯科医院にて治療。アレンドロン酸ナトリウムによる顎骨壊死について情報共有確認
薬剤師紗希による骨粗鬆症のPoint解説
一度大腿骨近位部骨折を起こした患者さんの再骨折リスクは、大きく上昇します。しかもアレンドロン酸ナトリウムの飲み忘れが多いと、再骨折を引き起こし、寝たきりになり、さらに生命予後が不良になります。
カレンダーを使用したり、アラームを鳴らしたりなどでアドヒアランスの向上を試すのもよいですが、月1回の診察時にロモソズマブを投与することを提案してもよいでしょう。
ロモソズマブはCKDを合併する骨粗鬆症患者さんに有効な治療薬であり、大腿骨近位部骨折予防につながると考えられます。
ロモソズマブは血中のスクレロスチン濃度を下げる効果があります。スクレロスチンは骨細胞から分泌される糖タンパク質で、骨芽細胞による骨形成を低下させると同時に破骨細胞による骨吸収を増加させ、骨量増加を阻害します。
またスクレロスチンは、推算糸球体濾過量(eGFR: ml/min/1.73m2)と有意な負の相関を示します。eGFRが低くなる(腎機能が低下する)につれてスクレロスチン濃度が上昇し、骨粗鬆症を引き起こしやすくなり、大腿骨近位部骨折のリスクも高くなります。
患者さんは歯科医院で治療を受けているので、抜歯する可能性もあります。ビスホスホネート系製剤の副作用で顎骨壊死があり抜歯前にアレンドロン酸ナトリウムを休薬する場合があるため、骨粗鬆症の治療を受けている医師に歯科受診していることを伝えているか、または薬剤師が医師につたえましょう。
骨粗鬆症のトレーシングレポートに書いてみよう
【処方内容】(患者情報、薬剤師名、医師名等省略)
〇整形外科・内科で
・イルベサルタン錠100 mg 1錠 分 1朝食後
・アムロジピンベシル酸塩錠5mg 1錠 分 1 朝食後
・アルファカルシドール錠0.5μg 1錠分 1 朝食後
・アレンドロン酸ナトリウム水和物錠35 mg 1錠 分 1起床時 木曜日服用
・酸化マグネシウム錠330 mg 3錠分 3 毎食後
〇歯科で
・ロキソプロフェンナトリウム錠60 mg錠 3錠 分 3 毎食後
・セフジニルカプセル100 mg 3カプセル分 3 毎食後
【情報提供の内容】
訪問時、アレンドロン酸ナトリウム1錠飲み忘れがありました。リハビリには通っていますが、家にいる間は横になっていることが多く、ADLも低下しております。
以前大腿骨近位部骨折を起こしており、アレンドロン酸ナトリウムの飲み忘れが多いことから、再骨折の危険性があります。患者さんにはその危険性を十分にお話して、アレンドロン酸ナトリウムの飲み忘れのないよう指導しましたが、通院により注射製剤に変更することもご提案いたします。
また、歯茎が腫れているため、歯科を受診しております。アレンドロン酸ナトリウムの副作用による顎骨壊死に注意が必要ですが、抜歯予定はないとのことです。
【薬剤師からの提案】
以下の薬剤について中止又は検討お願いします。
・アレンドロン酸ナトリウムから注射製剤ロモソズマブへ変更提案
CKD合併骨粗鬆症には有効であり、通院による投与の方がアドヒアランス向上につながるため
骨粗鬆症について押さえておきたい2つの知識
1. 骨粗鬆症
低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患
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① 原因
骨粗鬆症はその原因によって、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分けられます(表1)。
原発性骨粗鬆症 | 続発性骨粗鬆症 |
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・加齢 ・閉経(女性ホルモンの欠乏) ・妊娠後の骨粗鬆症 ・若年性骨粗鬆症 |
・副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患 関節リウマチ、糖尿病、CKDほか生活習慣病 ・ステロイド薬の長期服用、 性ホルモン抑制療法(乳がん、前立腺がん)など ・栄養性(胃切除、呼吸不良症候群など) ・不動性(病気やけがなどで身体が動かせない状態になるなど) |
表1 骨粗鬆症の原因による分類
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② 症状
特に症状はないですが、骨がもろくなることにより、骨折を引き起こし寝たきりになり、生命予後に影響を与えます。 -
③ 検査・診断
骨粗鬆症は発症しても自覚症状のないことが多く、骨折が起きるまでに気づくことが難しい病気です。そのため病院で骨密度の検査をして、自分の骨の強さ(骨強度)や状態を把握して骨折を予防することが重要になります。
骨密度測定は大きく2種類に分けられ、X線を用いる方法と、超音波を用いる方法があります(表2)。
X線を用いる主な測定法 | ・二重エネルギーX線吸収法(DXA) ・MD法 |
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超音波を用いる測定法 | ・定量的超音波測定法(QUS) |
表2 骨粗鬆症の検査法
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④ 治療薬
現在使用されている主な骨粗鬆症治療薬について以下の表3に示します。
表3 主な骨粗鬆症治療薬
2. 骨粗鬆症は怖い病気
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① 骨粗鬆症は肺がんに継ぐ怖い病気
骨粗鬆症と腫瘍疾患のDALYs(Disability Adjusted Life Years:早期死亡による余命損失+障害による相当余命損失)の比較によると、肺がんが約3000日でその次に骨粗鬆症が約2000日と長いです1)。つまり骨粗鬆症は、肺がんに次ぐ怖い病気であり、重大な病気であると言えます。 -
② 心血管イベントも高血圧や喫煙よりも骨粗鬆症が、発症確率が大きい
骨粗鬆症による心血管イベントを発症する確率は、骨密度が低いことや、椎体骨折の数が増えることで、2倍以上あがります。
しかも、高血圧や喫煙よりも骨粗鬆症の方が、心血管イベントを発症する確率が高いです。つまり高血圧や禁煙の治療をするよりも、骨粗鬆症の治療をすることで心血管イベントを減らすことができる重要な疾患といえます。
薬剤師紗希によるこれからの薬剤師に必要な骨粗鬆症Point
顎骨壊死での骨粗鬆症治療薬の休薬は避けるべき
2023年に出された骨吸収薬関連顎骨壊死に関する研究資料のポジションペーパー2)では、原則的に歯科治療の前に骨粗鬆症治療薬を休薬する必要はないと提案されています。
その理由として、半減期が2年~3年のビスホスホネート製剤を歯科治療前に3カ月休薬しても顎骨壊死の発症予防に効果があるかは疑問だからです。つまり、休薬を積極的に支持する根拠には欠けており、さらに言えば、ビスホスホネート製剤を休薬することで生じる骨折リスクの上昇が顎骨壊死予防というベネフィットを上回る可能性もあります。
しかし、顎骨壊死の発症率を正確に評価することは困難ですが、非薬剤性の顎骨壊死の発症率が0.0004%、それに対し低用量でのビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死では0.104%と報告されている研究もあります。
薬剤師もこのような研究資料を確認し、抜歯前に休薬を提案すべきか、是非一度職場の薬剤師と話し合いをしてみましょう。
参考資料
1)Kanis JA et al : Osteoporos Int.2008 Feb 12; [Epub ahead of print]
2)薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf)
監修:横山 紗希
福岡大学薬学部卒業後5年間急性期病院に勤務し、糖尿病チームの一員として外来や病棟での療養指導に尽力。現在はケアミックス病院にて他職種と連携し、ポリファーマシー解消に日々取り組んでいます。