年齢で用法・用量・剤型が変わる「子どもの薬」~特に間違いやすい薬の注意点
小児用の薬の調剤が難しい理由の1つは、年齢や体重によって用法・用量、あるいは剤型などが小刻みに変わることがある、という点です。これは、成人に比べると小児は体格の個人差が大きく、その投与量設計は細かく考えなければならないからですが、その用法・用量・剤型を切り替えるタイミングについては特に一貫性がなく、薬によって実に様々です。そのため、個々の薬の用法・用量をしっかり把握しておかなければ、切り替え忘れや間違った用法・用量・規格で調剤してしまうことが多発します。
実際、「薬局ヒヤリ・ハット分析事業」においても、年齢別に処方量や剤型が異なる小児の薬の調剤ミスは、多いときには年間20件以上も報告されており、調剤において特に注意が必要な領域と言えます。そこで今回は、こうした年齢によって用法・用量や剤型が変わる薬にはどんなものがあるかを前編で紹介し、続きの後編では実際のミス防止のための注意喚起の方法を考えます。
年齢によって用法・用量・剤型が変わる薬
成人の薬と違って、小児の薬では「しばらく継続して使っている薬」であっても定期的に用法・用量・剤型が変わるタイミングがあります。そのため、患者さんが誕生日を迎えた際には改めて、適切に薬が処方されているかどうかを確認する必要性が生じます。このとき、全ての薬がたとえば6歳、12歳、18歳といった一定の年齢で切り替わりが発生するのであれば、その年齢でのみ注意していれば良いのですが、実際のところ、この“切り替え”が発生するタイミングは薬によってバラバラで、全く統一感がありません。
切り替わりがある年齢 | 医薬品の例 |
0歳6ヶ月 | レベチラセタム(DS) |
1歳 | レボセチリジン(シロップ)、オセルタミビル(DS)、溶性ピロリン酸第二鉄(シロップ) |
2歳 | フェキソフェナジン(DS)、セチリジン(DS)、メキタジン(シロップ)、トラネキサム酸 (シロップ)、オセルタミビル(DS)、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(点鼻)、 ポリエチレングリコール(配合内用剤) |
3歳 | モメタゾンフランカルボン酸エステル(点鼻)、ツロブテロール(テープ)、スプラタスト (DS)、サルブタモール(シロップ)、ヨウ化カリウム(内服ゼリー) |
4歳 | メキタジン(シロップ)、トラネキサム酸(シロップ)、ペランパネル(細粒)、レベチラセタム (DS)、ラコサミド(DS)、ジアゼパム(散) |
5歳 | スプラタスト(DS)、サルブタモール(シロップ)、ペミロラスト(DS)、イブプロフェン (顆粒)、ガバペンチン(シロップ)、チアマゾール(錠)、プロピルチオウラシル(錠)、 クレンブテロール(錠) |
6歳 | モンテルカスト(細粒/チュアブル錠)、溶性ピロリン酸第二鉄(シロップ)、アジルサルタン (細粒)、プロカテロール(顆粒)、ジクロフェナクNa(坐剤) |
7歳 | レボセチリジン(シロップ)、セチリジン(DS)、フェキソフェナジン(DS/錠・OD錠)、 ロラタジン(DS/錠・レディタブ錠)、オロパタジン(顆粒)、エピナスチン(DS)、メキタジン (シロップ)、トラネキサム酸(シロップ)、ポリエチレングリコール(配合内用剤) |
8歳 | イブプロフェン(顆粒)、アンブリセンタン(錠)、フルボキサミン(錠) |
9歳 | ツロブテロール(テープ)、ジクロフェナクNa(坐剤) |
10歳 | ラニナミビル(吸入粉末剤)、チアマゾール(錠)、プロピルチオウラシル(錠) |
11歳 | メキタジン(シロップ)、スプラタスト(DS)、ペミロラスト(DS)、イブプロフェン(顆粒) |
12歳 | フェキソフェナジン(DS/錠・OD錠)、モメタゾンフランカルボン酸エステル(点鼻)、 ポリエチレングリコール(配合内用剤)、ジクロフェナクNa(坐剤)、ペランパネル (細粒)、ジアゼパム(散) |
13歳 | ガバペンチン(シロップ)、イスコチン(原末)、ヨウ化カリウム |
14歳 | |
15歳 | レボセチリジン(シロップ)/錠、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(点鼻)、 トラネキサム酸(シロップ)、溶性ピロリン酸第二鉄(シロップ)、チアマゾール(錠) |
16歳 | |
17歳 | メキタジン(シロップ) |
そのため、調剤ミスを防ぐためには基本的にこれら個々の薬の年齢別の用法・用量・剤型を正確に覚えておく必要があります。しかし、これらの薬を毎日欠かさず頻繁に扱ってでもいない限り、この複雑な“切り替わりのタイミング”を全て記憶するのは至難の業です。中でも、「服用回数(用法)ごと変わるケース」や、「切り替えのタイミングによっては薬の量が減ることもあるケース」は、調剤ミスだけでなく、患者さんにもきちんと説明しないと薬の誤用・混乱にも繋がります。
特に注意したいもの.1~用法も変わる「レボセチリジン」
こうした用法・用量・規格の切り替えの中でも、特に“間違いやすい”ものの1つが、「用量」だけでなく「用法」まで変わるタイプのものです。たとえば、抗ヒスタミン薬の「レボセチリジン」は、6ヶ月から1歳未満は「1日1回」で使用しますが、1歳から15歳までは「1日2回」で使用し、成人では「1日1回」に戻ることになります。これは、小児では肝臓での薬の代謝が早く、半減期が短くなってしまうことが理由とされていますが、この用法と用量がどちらも入り乱れて切り替わる使い方は、調剤・服薬指導を行う薬剤師にとっても、実際に薬を使う患者さんにとっても、非常に間違いやすいものになっています。