妊娠中のβ遮断薬(ビソプロロール・カルベジロール)。服薬指導の重要ポイント
- 「ビソプロロール」と「カルベジロール」の添付文書がどう変わったか
- 「ビソプロロール」と「カルベジロール」は、催奇形性を心配する必要があるか
- 「ビソプロロール」と「カルベジロール」で注意すべき胎児・新生児への影響は?
2024年4月、β遮断薬の「ビソプロロール」と「カルベジロール」に設けられていた、妊婦への“禁忌”制限が削除になりました。これによって、β遮断薬による治療を必要とする妊娠中の患者さんに対し、「ビソプロロール」や「カルベジロール」を使う機会が増えていると考えられますが、このとき、いくつか気を付けたいことがあります。今回は、このβ遮断薬の禁忌が削除になった背景と、それを踏まえた服薬指導の際のポイントについて解説します。
β遮断薬「ビソプロロール」「カルベジロール」、添付文書はどう改訂された?
これまで、多くのβ遮断薬が添付文書上も“禁忌”に指定されていました。これは、β遮断薬が動物実験において発育抑制や骨格異常などを誘発することが確認されていた、というのが理由で、「ビソプロロール」や「カルベジロール」に関しても、承認時から添付文書でも“禁忌”の制限がかけられていました。
2024年4月の改訂ではこの制限が削除され、妊婦に対する投与は「9.特定の背景を有する患者に関する注意」の項目で“有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること”と記載されるようになっています。これによって、妊娠中の女性に対しても「ビソプロロール」や「カルベジロール」を使いやすくなった、と言えます。
▲2024年4月の添付文書改訂指示の内容
しかし、ここで注意したいのは、添付文書でも注意喚起は引き続き掲載され続けている通り、“禁忌”が削除されたからといって全くの無警戒で使って良いようになったわけではない、という点です。そのため、「ビソプロロール」や「カルベジロール」を妊婦さんへ投与する際の服薬指導では、心配する必要のあるリスクと、心配する必要のないリスクをしっかりと区別して扱う必要があります。
「催奇形性」については、心配する必要はなさそう
妊娠中の薬物治療において最も心配の種となるのが催奇形性や胎児の死亡ですが、「ビソプロロール」や「カルベジロール」といったβ遮断薬に“催奇形性”や“胎児の死亡”につながる悪影響はほとんど確認されていません1,2)。国内外のガイドラインにおいても、主要な先天異常に対するリスクには否定的で、特に妊婦に対する使用制限も設けられていません。このことから、β遮断薬で催奇形性のリスクを心配する必要はなさそう、と言えます。
ビソプロロール・カルベジロールの扱い | |
米国・英国・カナダ・豪州の添付文書 | 妊婦に対して“禁忌”の指定はない |
高血圧治療ガイドライン2019 | 安全性の面で大きな問題はないが、添付文書上は禁忌のため、 「厳格な説明」と「インフォームド・コンセント」が必須 |
不整脈薬物治療ガイドライン2020 | 「おそらく安全」の評価 |
心疾患患者の妊娠・出産の適応、 管理に関するガイドライン2018 |
ヒトでのデータは限られるが類薬や経験からおそらく安全と 考えられる |
産婦人科診療ガイドライン 産科編2023 | 妊娠初期の催奇形性や胎児毒性は否定的 |
欧州心臓学会のガイドライン2018 | 一般的に安全であるが、胎児の発育遅延や低血糖に注意 |
米国心臓協会 | 安全性プロファイルは良好で、催奇形性のリスクは報告されていない |
このことから、妊娠中に「ビソプロロール」や「カルベジロール」を処方された患者さんから不安を相談された際には、この薬が奇形や死亡といった重大なリスクを高めることはない、と説明して安心してもらうことが重要になります。
胎児の発育遅延や徐脈・低血糖には説明と注意が必要
一方で、β遮断薬が胎児に全く何の悪影響も与えないかというと、そういうわけではありません。