頚部血管狭窄の治療法CEAとCAS
現在、脳血管疾患の総患者数は115万人を超え、介護要因の疾患トップとも言われています。在宅医療の現場でも、脳梗塞の患者へ服薬指導を行うケースも多いのではないでしょうか。この連載では、内科医の視点から「薬剤師が知っておくと役立つ」脳梗塞の基礎知識や治療の変遷について、できるだけ分かりやすく解説します。今回はアテローム血栓性脳梗塞の際に行われる可能性がある、CEAやCASについて少し詳しくお話ししたいと思います。
※アテローム血栓性脳梗塞については前回の記事を参考にしてください
1. CEAとCASの概要
アテローム血栓性脳梗塞の場合は原因となる太い血管に動脈硬化が生じ、狭窄が生じていることが定義です。特に頚部血管の狭窄に対しては次のような治療法が考慮されます。
(1) CEA (Carotid Endarterectomy):頚動脈内膜剥離術
(2) CAS (Carotid Artery Stenting):頚動脈ステント留置術
いずれも結果として血管を拡張させることが目的ですが、その方法は大きく異なっています。具体的にはCEAは手術による治療、CASはカテーテルによる治療です。
2. CEA (Carotid Endarterectomy):頚動脈内膜剥離術とは?
動脈硬化を手術により除去して狭窄を解除する方法です。日本では脳神経外科により手術が行われることが多いですが、施設によっては血管外科が行うこともあります。なお私は大学生の頃に脳神経外科でこの手術を見学してとても感動した記憶があります。というのも、ベテラン術者が入念な準備の上で一切無駄な動きなく手術を進めている様子を目の当たりにしたからです。
個人的には手術で病巣を除去できるという根治術であるため、可能であればこの方法を選択した方が良いと思います。ただし、外科的手術であるため周術期合併症や全身麻酔に耐えられるかどうかという問題点があります。また難易度が高い手術であるため熟達した術者が在籍する施設で実施すべきです。
3. CAS (Carotid Artery Stenting):頚動脈ステント留置術とは?
文字通り動脈の中にステントという器具を留置することで血管を広げようとする治療法です。血管内治療というカテゴリーに入り、カテーテルを用いて狭窄部位に到達し治療を行います。CEAとは違い外科的手術ではありませんので、一般的には手技の時間は短いことが多いです(もちろん、難易度によって千差万別ではあります)。また手術では到達できない部位にも、カテーテルなら比較的容易に到達できる場合があるので、適応という意味では広いのかもしれません(これも症例によって見極めが難しいですが)。
デメリットとしては、血管を映し出すため用いる造影剤にアレルギーをもつ方や、腎臓の機能が低下している方には実施ができないということです。また、言うまでも無いですがこちらも熟達した術者を必要としますので、施設は限定されると言えます。
また両者ともに注意すべき合併症に過灌流症候群(hyperperfusion syndrome)があります。簡単に言えば狭窄によって少なかった血流が一気に改善するため、それに対抗しきれず脳出血などの合併症を生じることです。一般にCEAであれば術後数日(約1週間程度)、CASであれば術後12-24時間以内に多く発生します。重篤な合併症であるため、状況によっては鎮静や降圧管理の徹底により対処します。