「薬剤師って本当にかっこいい!」ドラマ通じ変化した感謝の思い―石原さとみさんインタビュー前編
2020年の主役は「病院薬剤師」――毎週木曜よる10時より全国フジテレビ系で放送中の医療ドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」皆さま、もうご覧になりましたか?病院薬剤師 葵みどりが、一人一人の患者と向き合いながら、退院後の“当たり前の日常”を取り戻すために奮闘する姿を描く本作。これまでの医療ドラマではスポットライトを浴びることのなかった薬剤師の仕事に注目したヒューマンドラマは、多くの現役薬剤師たちから支持を得ています。第4話の放送を前に、m3.comでは主演の石原さとみさんにインタビューを実施。放送開始後の反響、ドラマを通じて変化した薬剤師への思いなどについてお話を伺いました。
「薬剤師って本当にかっこいい!」希望あふれる作品に
一人一人の患者と丁寧に向き合う病院薬剤師の奮闘を描いた本作。「m3.com」にも現役薬剤師から多くの感動の声が届いています。
じつは、この作品に入る前からお世話になっている病院薬剤師の友達がいます。1つ年下の後輩で、8年目の32歳、小児科担当で、まさしく「葵みどり」のような女性なのですが、ドラマの放送後に思いが詰まった連絡をくれたんです。
「コロナ禍で病棟に行くことができず、患者さんと触れ合う機会がまったく無くなってしまったけれど、『処方箋の向こうには患者さんやご家族がいる』ということを改めて考えることができた。患者さんに直接会えないとしても、患者さんのことを思ってチーム医療の一員として医師や看護師に関わっていく、何ができるのか考えるという気持ちを持つことができた」と言ってくれて、私自身もすごく感動しました。
他にも「このドラマが放送されてから患者さんに『ありがとう』と言われる回数が増えた」と言ってくださる薬剤師の方もいて…。届いてほしい人たちに、ちゃんと届いていることが実感できて、とてもうれしく思っています。
薬剤師の仕事は尊くて、かっこよくて、無くてはならない仕事なんだ。たとえAI化が進んだとしても、患者さんと向き合ったり、寄り添ったり…薬剤師の仕事はかけがえのないものなんだ、ということが伝わったらいいな、と思っています。ドラマだから…という部分はもちろんありますが、視聴者の方がご覧になって「薬剤師ってかっこいい!」と思ってもらえるような、希望があふれる作品にしたいです。
石原さんはこれまで、医師(「アンナチュラル」TBS系)や看護師(「Ns’あおい」フジテレビ系)などの医療従事者役を経験されていますが、薬剤師を演じてみていかがですか?
演技という疑似体験しかできないですけれど、薬剤師役はやっぱり薬の名前が…!ものすごく出てくるんです!これは噛むな…と思ってすごく練習したのに、本番撮影では別の薬剤に変わっていて「ウッ…」と思ったり(笑)。商品名と薬剤名の区別もそうですし、薬の効能とか副作用、投与量なども教えていただきながら演じています。この作品が終わるまでに薬に詳しくなりそうです。
あとは、患者さんを治すため、というのはもちろんそうなんですけれど、薬剤師は患者さんが退院した後も、薬を通じて関わっているように思うんです。だからこそ、退院後の生活が、ちゃんと豊かになるとか、当たり前の生活を送れるとか、その先を見据えるとか…「退院するまでがゴールではない」というのが、薬剤師を演じるうえですごく大切な部分だと思っています。
いま息をしていること、歩けること、会話ができること、ちゃんと空腹になって、食べられること、気持ち悪くならないこと…こういう何気ないことの全部が、薬がちゃんと効いていて、副作用なく過ごせるからこそですよね。ドラマを通じて、当たり前の大切さに改めて気付くことができたし、これまで知らないことが多すぎたな…って。私の知らない、“感謝できる人たち”がまだまだたくさんいるんだな、と薬剤師・葵みどりを演じて強く感じました。
薬剤師vs医師ではない、チーム医療の実現に必要なものは?
ドラマ「アンサング・シンデレラ」1~2話では、疑義照会や処方薬を巡り薬剤師と医師が対立するようなシーンもありました。医師は若干“ヒール”のように描写されていましたが、チーム医療として協力しあうポイントについてどうお考えですか?
1~2話はそうですね(笑)。今後、ストーリーが進んでいくとさらに薬剤師と医師のやり取りも多くなっていくので、どう関係性が変わっていくのか、ぜひ見ていただきたいです。
薬剤師を演じてみて思うのは、それぞれの得意分野や専門性ってすごく大事だな、ということ。薬剤師、医師、看護師それぞれがプロフェッショナルとして患者さんをみている。だからこそ、チームとしてコミュニケーションを取ることが大切なのだと思います。
一人の患者を複数人が見る、ということが進んでいくほど、患者さんに関して気付くことも多いでしょうし、いろいろな方法で治療に取り組めるし、いろいろなサポートができるかもしれない。
それに、患者さんと医療従事者も“人と人”なので、「この人になら話せる」とか「この人はなんだか話しやすいな」とか、気付いてくれる、欲しい言葉をくれる、診療科の垣根を越えて対応してくれるとか、他の可能性を提案してくれる…患者さんそれぞれに頼れる人が見つかるといいな、と思いますし、こうした患者さんの思いに対して、薬剤師が果たすことのできる役割、薬剤師の知識というのはすごく重要だなと思いました。
「葵みどり」が正解ではない、ドライに仕事をする人がいてこそのチーム
「チーム」という意味では、ドラマ内の萬津総合病院の薬剤師たちのチームワークも見どころですね。
ありがとうございます。本作では葵みどりが主人公で、ドラマだからこそ、葵みどりだからこそできることがあって…なかには「それは薬剤師の仕事じゃないよ」ということもあると思うんです。
ひたすら処方箋をさばきつづける刈谷さん※1とか、瀬野さんとか※2、いろいろなタイプの薬剤師がいる“萬津総合病院のメンバーだからこそ”、葵みどりが一人一人の患者さんとしっかり向き合えるんだなって。
※1桜井ユキさん演じる薬剤部主任 刈谷奈緒子。作業効率を重んじ無駄話をせず、淡々と仕事を進める調剤のプロ。葵みどりとは真逆のタイプだがスピーディに処方箋をさばくことが多くの患者を救うことに繋がるという信念をもっている。
※2 田中圭さん演じる薬剤部副部長 瀬野章吾。ぶっきらぼうで愛想が無く、しばし葵みどりに冷たい態度を示すが、患者と真摯に向き合う姿勢は認めている。心根が優しく、誰よりも患者思いの人物。
『いろいろなタイプ』といえば、3話ではドラッグストア勤務の薬剤師との対立も描かれました。
そうですね、薬剤師といっても、病院薬剤師と、調剤薬局と、ドラッグストアで仕事の内容が全然違いますよね。地域性もあるでしょうし…3話ではドラッグストアとの対立が描かれましたが、性別、年齢、立場など、さまざまな薬剤師が登場して、それぞれにフォーカスを当てています。
だから、葵みどりだけが正解なのではなく、いろいろなタイプの薬剤師がそれぞれの思いを抱えて働いていることや、ドライに仕事に向き合っている薬剤師だとか、それぞれのかっこよさも伝わるといいですね。視聴者の方が憧れをもって「この人みたいになりたい」「こんな薬剤師になりたい」と思うキャラクターを見つけてもらえたら嬉しいです。
萬津総合病院のロゴ入りスクラブは、薬剤部チームのユニフォーム。石原さとみさん自らがデザインにも参加したこだわりの1枚
『清潔な薬袋』は当たり前でない―裏側の努力にこみ上げる感謝の思い
葵みどりを演じる前と後で、薬剤師のイメージに変化は?
めちゃくちゃあります!ドラッグストアで白衣を着ている方を見るだけで、拍手したくなるくらいに、気持ちがこみあげてきて、もう、思い入れがすごいです(笑)
たとえば、薬を受け取るときにも、薬剤師さんの仕草をじっと見てしまうのですが、正しい数の薬が、正しい向きでピシッとそろっていて、ていねいに輪ゴムで止められて、薬の説明書がきちんと折られて、シワのない清潔な薬袋に入って出てくる。こういうのって、けっこう当たり前に思ってしまうじゃないですか。
けれど、実際に撮影で大量の薬や処方箋を触っていると、手が切れることもあるし、薬袋が汚れることもあるし…。
今まで当たり前に飲んでいた薬の裏側で、どんな薬剤師さんが、どんなふうに働いて、その人たちがどんな思いを抱えているのか…そういうことに、思いを馳せるようになりました。こういう感謝できることが増えたことで、自分の心も豊かになったな、と感じています。
連続ドラマ史上初!病院薬剤師が主役の医療ドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」は、毎週木曜よる10時より全国フジテレビ系で放送中。石原さとみさん演じる主人公 葵みどりの奮闘はじめ、多くの薬剤師の思いや、一人一人の患者さんの生活に寄り添うヒューマンドラマ、ぜひご覧ください。インタビュー後編では、コロナ禍で撮影中断を余儀なくされたステイホームのエピソードや、医療従事者へのメッセージをお届けします。
メイク:猪股真衣子(TRON)
スタイリング:外山由香里