答えずに応えよ!
〜患者さんの質問に回答するだけでなく、気持ちでも応える〜1カ月ほど前から胃の調子が悪く、先週市の検査機関で胃カメラの検査をしました。
胃は薄いピンク色で軽い炎症が起きていたが、問題ないとの結果でした。ただ、その検査担当医師から「ピロリ菌の検査をすると良い」と言われたため、今日の受診時に主治医に相談をしたところ、「その検査をするためには、中止しなくてはいけない薬があるが、今はその薬を中止しない方が良いと思う」と言われました。そのため、ピロリ菌の検査はせずに経過を見ることになりました。
ところが、患者さんとしては納得しきれていないようで、「主治医はどうしてピロリ菌の検査をしてくれないの?」「やめないといけない薬はどれ?」といろいろ聞いてきました。
[処方内容]
ロサルタン錠 50mgアムロジピン錠 5mg
ランソプラゾールOD錠 15mg
全て各1錠 1日 1回朝食後 14日分
ゾルピデム錠5mg 不眠時 1回1錠 14回分
他科受診 リウマチのため整形 白内障のため眼科
ランソプラゾールは以前逆流性食道炎でOD錠 30mgを服用していたが、その後15mgで継続中
- (プロブレム)ピロリ菌の検査はランソプラゾールOD錠の服用を止めない方が良いのでそのまま様子をみる。だが、調子が変わったときには相談を。
- (S)胃カメラ検査をしたときにピロリ菌の検査を受けた方が良いと言われたので主治医に相談をした。検査をするために中止すべき薬を止めない方が良いから、しないで様子を見ると言われたけど、どの薬でどうして?
- (O)検査結果は、胃に軽い炎症はあるが心配なことはなかった。ランソプラゾールOD錠が投薬されているが、逆流性食道炎で投薬開始されたもので胃に違和感を訴え始めたのはここ1カ月のこと。
- (A)経過等を踏まえ医師は、今はピロリ菌の検査をしないと判断されたのだろう。
- (P)ピロリ菌の検査 除菌確認の検査を各々ランソプラゾールOD錠の薬効と絡めての説明。あくまでも今はランソプラゾールOD錠の服薬を優先すべきとの判断であるので。調子が変わったときには必ず相談を。
結構いろいろなお話をしたので、どう書くべきかいつも悩みます。プロブレムはこれで良いでしょうか?Aは自分の考えたことというより、医師の考え(の推測)になってしまいますが、これで良いでしょうか?というのが、今回の相談です。
患者さんの疑問点に対する答えとしては、とてもしっかりと回答していると思います。ただ、「患者さんが納得しきれていない」という状況が、SOAPの中に表現されていませんね。この薬歴を見た限りでは、この患者さんは本当に納得されたのだろうかと心配になってしまいます。このプロブレムの取り上げ方は、これで良いでしょうか?患者さんにとってもプロブレムは何でしょうか?考えてみましょう。
- 「答えずに応えよ」は服薬ケアで忘れてはいけない標語です
服薬ケアには、標語のような言葉がたくさんあります。ここで紹介する「答えずに応えよ」というのもそのひとつです。
患者さんから薬剤師へは「医師はどうしてピロリ菌の検査をしてくれないの?」「やめないといけない薬はどれ?」と2つの質問をされましたね。もちろんその質問に対して一生懸命「答えて」いるのですが、患者さんの気持ちに「応えて」いるでしょうか?もっと患者さんの感情に着目してみましょう。
実際には、検査を担当した医師がなぜ「ピロリ菌の検査をしてみたら?」とおっしゃったのか、正確にはわかりません。ただ、わかることは、患者さんはその先生の言葉を聞いて、「ピロリ菌の検査をした方が、自分にとっては良いことなのだろう」と思われたのでしょうね。
つまり、ピロリ菌の検査をして欲しかったわけです。それなのに、主治医の先生はしてくれない。これに不満を持たれたのだと思います。
この薬剤師さんが説明していることは正しいと思いますが、残念ながら患者さんの「なぜ医師はピロリ菌の検査をしてくれないの?」という不満には「応えて」いないようにお見受けします。本当のプロブレムはこの不満の気持ちにどのように納得してもらうかというところだと思われます。
- 不満な気持ちにどう納得してもらうかがプロブレムの中心
さてそれでは、患者さんの持つ不満にはどう納得してもらえばよいのでしょうか。
Aにあるように、「経過等を踏まえ先生は、今はピロリ菌の検査をしないと判断されたのだろう」というのはその通りだと思うのですが、それよりも、「今はランソプラゾールOD錠の服薬を優先すべきと判断したのであって、将来的には患者が希望すればピロリ菌の検査をしてもらえると思うので、そこを納得してもらいたい」というところが、今目の前の患者さんには大切なところなのではないでしょうか。これをAに書き込みましょう。
元の薬歴には、「調子が変わったときには相談を」とありますが、これは本当にそのときそう考えたのでしょうか?もし薬歴を書くときに「指導らしく」見せるために書き加えたのであるならば、これは必要ありません。患者さんのお気持ちに応えることは、薬剤師として立派なプロブレムです。
患者さんの質問に「答える」ことに一生懸命になりすぎるのではなく、患者さんのお気持ちに「応える」ことを意識しましょう。
- (プロブレム)ピロリ菌の検査をすると言ってもらえなかったことに対する不満
- (S)胃カメラ検査をしたときにピロリ菌の検査を受けた方が良いと言われたので先生に相談をした。検査をするために中止すべき薬を止めない方が良いから、しないで様子を見ると言われたけど、どうしてしてくれないの?その薬はどれ?
- (O)検査結果は、胃に軽い炎症はあるが心配はなかった。ランソプラゾールOD錠は逆流性食道炎で投薬開始されたもので胃に違和感を訴え始めたのはここ1カ月のこと。
- (A)先生は、あくまでも今はランソプラゾールOD錠の服薬を優先すべきとの判断だと思われる。将来的には希望すればピロリ菌の検査をしてもらえると思うので、患者さんにはそこを納得してもらいたい。
- (P)先生は、ピロリ菌の検査をしないと判断されたのではなくて、今はまだお薬の服用を優先した方が良いと判断されたのだと思います。治療がひと段落着いたら、きっとしてくださいますから、今はまずしっかりと治しましょう。
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第1回「気付きリスト」
薬歴を「信じられないほど簡単に書けるようになる!」ために、「薬歴の達人」連続講義を開講いたします。
その第1回目は「気付きリスト」
患者さんの変化やプロブレムの存在に「気付く」ことがまず第一歩です。この「気付きリスト」のワークをなんどもやることによって、「気付く力」は驚くほど着いてきます。
この回を皮切りに、「薬歴の達人」になるために必要な実力をつけるための訓練を、すべて連続講義いたします。本物の「薬歴の達人」になりたい方は、ぜひ受講してください。
日時:2019年4月7日(日) 10:00~16:30
場所:サンバール荒川
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