なんだか筋肉痛ぽいのですが、薬(スタチン)のせいですか?(後編)
初めて見つめるパブメドの論文検索画面……英語がびっしり並ぶその画面に、現代テクノロジーの救世主、「ザ・翻訳機能」が現れます!果たしてS村さんは無事にお目当ての論文を見つけることができるのでしょうか……。
ググるのではなくパブるのです
PubMedとは、MEDLINE(メドライン)を含む医学分野の代表的な文献情報データベースで、米国国立医学図書館が運営しています。インターネットさえ接続されていれば、パソコンやタブレット端末だけでなく、スマートフォン端末でも無料で使うことができます【図1】。
臨床で遭遇する疑問は背景疑問(background question)と前景疑問(foreground question)に分けることができます。
何も分からない学問領域について学びを始めたとき、最初に突き当たる疑問が背景疑問です。背景疑問の最もシンプルな形が、言葉の定義を問う疑問に他なりません。背景疑問は、教科書や専門書を参照することで、その答えを導きだすことができるでしょう。つまり、背景疑問とは自分が知らないだけで、(世の中的には)既に分かっていることに対する疑問なのです。
一方で、前景疑問とは複数の背景疑問を解決したうえに生じる疑問で、PECOで定式化できるタイプの疑問です。目の前の患者に対して、これから起こり得る将来の出来事についての疑問と言っても良いでしょう。前景疑問の解決には、複数の臨床医学論文(エビデンス情報)を参照し、その答えに近しいものを模索することになります。将来の出来事に関する疑問であるがゆえに、模索する答えは常に統計的データに基づく推測という性質を帯びることになるのです。
【とりあえず、『E』と『O』で検索してみましょう】
【図2】PubMedの検索結果
PubMedは米国国立図書館が運営しているだけに、検索も全て英語で行わなければいけません。でも、英語が苦手だからといって恐れる必要はありません。Google chromeなどのブラウザには自動翻訳機能がついていますし、専門用語の英語が分からない場合はライフサイエンス辞書が便利です。ライフサイエンス辞書は生命科学領域の電子辞書で、こちらもインターネットさえ接続されていれば誰でも無料で使うことができます。
検索結果として表示された論文タイトルをクリックすれば、抄録(Abstract)が表示されます。抄録とは論文の本文を要約したもので、臨床医学論文の場合「背景」や「目的」、「研究方法」「研究結果」「結論」のように項目立てて記載されることが一般的です(このような構成の抄録を構造化抄録と呼びます)
【図3】参考となりそうな論文の抄録(Br J Clin Pharmacol. 2015 Sep;80(3):363-71. PMID: 26032930)
【論文情報を活用してみます】
この患者さんの処方歴をあらためて確認してみます。プラバスタチンは5㎎での処方でした。
【処方箋】69歳男性
- アムロジピンOD錠5㎎
1錠 分1 朝食後 - プラバスタチン錠5㎎
1錠 分1 朝食後
横紋筋融解症は腎臓病や高用量のスタチンで起こりやすいことを知っていたS村さんは、論文情報をもとに、プラバスタチンによる横紋筋融解症による可能性は極めて低いのではないかと考えました。
そういった患者さんは、腕を軽くさすりながら、そそくさと薬局を出ていきました。
患者さんの後姿を見送りながら、呆然と立ち尽くすS村さんなのでした。
- パブり方のポイント!
PubMedのトップ画面に並んだ英語にめまいを覚え、そっとブラウザを閉じた経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。論文の前に英語の勉強が必要……いえいえ、そんなことはありません。「使えるツールは使い倒す」が論文検索の最重要ポイントです。ブラウザの翻訳機能や、高精度の翻訳ツールDeepL翻訳 は、論文の検索に必要不可欠なツールと言えましょう。とにかくGoogleで検索するようなフットワークの軽さでPubMedに触れ、検索作業に慣れることが肝要です。具体的な検索ノウハウは、O崎さんが次回の連載でレクチャーしてくれるそうですよ!