「チーム医療の実践に関する知識を修得することで、臨床薬剤師の資質向上を目指す」として、2019年度に実施された近畿国立病院生涯教育センター の講座を一部改変した、事例検討の連載コラムです
シリーズ3 糖尿病について考える「糖尿病治療における薬物療法以外の治療への理解」
糖尿病治療で気を付けたい身体の状況 ホルモン不足による「副腎クリーゼ」
患者さんの症例と追加情報を読んで、糖尿病のリスク要因への理解を深めましょう。また、患者さんを想像しながらQuestionについて考えてみましょう。
患者情報
症例
66歳 男性
身長:166.4 ㎝ 体重:102.3 ㎏ 体表面積:2.09 ㎡
治療病名:糖尿病、高血圧、高脂血症(肥満)
肺がん(右上背部痛が出現し受診、CTガイド下肺針で扁平上皮がんと診断。
病期:(cT3N0(r/oN2)M0) CDDP/TS-1 6コース。放射線治療併用。
その後、小脳転移にγナイフ。腫瘤増大認めDOC 6コース施行。
更にnab PAC 6コース施行(d1,8,15)。GEM 2コース施行。CTで陰影拡大認めたため、オプジーボ1コース目施行目的入院。
甲状腺機能低下傾向あるが内分泌Drにコンサルトし外来で経過観察の範囲と。)
既往歴:60才糖尿病、10才虫垂炎 家族歴: 父:大腸癌 職業:事務、管理
嗜好品: アルコールなし、 喫煙 40*20-67(Cr) = 1880
患者情報の続き
表示
☆採血データ(20XX年)
|
4/11 |
4/18 |
4/27 |
下限値 |
上限値 |
単位 |
TP |
6.4 |
6.8 |
7.2 |
6.6 |
8.1 |
g/dL |
GLU血清 |
173 |
117 |
160 |
73 |
109 |
mg/dL |
T-BIL |
0.4 |
0.4 |
0.6 |
0.4 |
1.5 |
mg/dL |
AST |
26 |
26 |
33 |
13 |
30 |
U/L |
ALT |
24 |
25 |
33 |
10 |
42 |
U/L |
UN |
18 |
18 |
16 |
8 |
20 |
mg/dL |
CRE |
0.93 |
0.97 |
1.15 |
0.65 |
1.07 |
mg/dL |
eGFR |
64.5 |
59.4 |
49.3 |
60 |
|
mL/min/1.7 |
WBC |
4.3 |
5.8 |
6.0 |
3.3 |
8.6 |
10~3/μL |
HB |
11.6 |
12.7 |
13.1 |
13.7 |
16.8 |
g/dL |
PLT |
17.9 |
12.0 |
13.2 |
15.8 |
34.8 |
10~4/μL |
F-T4 |
0.8 |
|
|
0.90 |
1.70 |
ng/dL |
TSH |
11.86 |
|
|
0.500 |
5.000 |
uIU/mL |
Na |
140 |
139 |
139 |
138 |
145 |
mEq/L |
K |
4.0 |
4.3 |
4.3 |
3.6 |
4.8 |
mEq/L |
CL |
106 |
104 |
103 |
101 |
108 |
mEq/L |
☆処方(免疫チェックポイント阻害剤導入時)
1 グリメピリド錠1mg「TYK」(アマリール錠後発品) 1錠
1日1回 朝食前 23 日分
2 リオベル配合錠HD 1 錠
1日1回 朝食前 19 日分
3 タイプロトンカプセル15mg(タケプロン後発品) 1CP
1日1回 朝食後 15 日分
4 タムスロシン塩酸塩OD錠 0.2mg 「サワイ」(ハルナール後発品) 1錠
1日1回 朝食後 16 日分
5 プラバスタチンNa錠10mg「NS」(メバロチン錠後発品) 1錠
1日1回 朝食後 15 日分
6 メトグルコ錠 250mg 6 錠
1日3回 毎食後 5 日分
7 セイブル錠 50mg 3 錠
1日3回 毎食前 13 日分
8 イルベタン錠50mg 1 錠
1日1回 夕食後 13 日分
4/13オプジーボ1コース目施行。
《手技 持続点滴末梢 メイン》 レジメン Nivolumab療法(NSCLC)
薬品 (100mL)テルモ生食(100mL) 1 袋
薬品 オプジーボ点滴静注 240 mg
用法 1日1回 交換 注入時間 30分
追加患者情報
4/27~20XX(+1)/1/26 オブジーボ 2~19コース施行。当初、pseudo progressionみられたが、4コース後に縮小得られた。
6/8より、甲状腺ホルモン補充開始。
追加Rp)チラージンS 25μg 朝食後 開始
20XX(+1)/1/6ころから食欲低下。歩行時のふらつきの訴えあり。脳病変はサイズ不変も周囲の浮腫の増強あり。
2/10、食欲不振でオプジーボ中止。
2/16、食事とれなくなり入院。オプジーボの免疫関連副作用の副腎不全を考え、内分泌Drにコンサルト。
追加患者情報の続き
表示
2/17、ラピッドACTH試験施行。夜に血圧が70台に低下。副腎クリーゼと考え、【ステロイド注射:□□】を6時間毎、糖含有輸液開始し、血圧改善、食欲も回復した。【ステロイド内服:△△】を補充。以後、漸減。肺癌の増大あり、本人の希望あり
6/28、オプジーボ再開。
副腎クリーゼの際に血糖値は上昇するでしょうか?
下降するでしょうか?
答え
表示
副腎クリーゼは、副腎から分泌される糖質コルチコイドと呼ばれるホルモンの不足が原因で引き起こされます。
糖質コルチコイドは、手術や感染症などのストレスがかかる状況において、身体での需要量が増加します。つまり、身体が危機的状況に陥った際に、血圧や血糖値を保つなどストレスに立ち向かうために糖質コルチコイドはなくてはならないホルモンです。
しかし、副腎クリーゼでは糖質コルチコイドが不足するため、こうした生命の危機にうまく立ち向かうことができなくなります。
具体的には、アジソン病や下垂体前葉機能低下症、感染症に伴う副腎出血などの状況があると、副腎の予備能が少ない状況となります。こうした状況を背景として、手術や感染症などのストレスがかかると、需要に対して必要な量のホルモンを供給できず、副腎クリーゼが引き起こされます。