接客が苦手な薬剤師のための「コミュニケーション術」

更新日: 2021年11月8日 小原 一将

薬剤師の業務に役立つ、コミュニケーションで気をつける3つのこと

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せっかく豊富な知識や経験があるのに「コミュニケーション」が苦手で、なかなかうまく患者さんに接することができない、地域医療に貢献することができない…そんな悩みを抱えている薬剤師は多いと思います。話し方や接し方が上手で、多くの患者さんの心を掴む薬剤師、医師や看護師からも頼られる薬剤師、地域イベントで人気の薬剤師と、いったい何が違うのでしょうか。

そこには、”埋めることができないほどの大きな溝”はありません。
実は、ほんのちょっとの心がけ、ほんのちょっとの工夫で、相手に与える印象は大きく変えることができるのです。

そこで本連載では、様々な職種の「接客の達人」に、薬剤師にこそ取り組んでほしい接客のコツを色々と語っていただきます。コミュニケーションに苦手意識を抱いている人は、ぜひ真似できるところから業務に取り入れていただければと思います。

IT業界の営業として活躍する前さんに聞く、薬剤師の接客術

第7回目の今回は、デジタルマーケティングのコンサルティング業務を行う、PLAN-Bで働いている前夏葵さんにインタビューさせていただきました。営業のトップセールスとして、新規や既存のお客さまと広く関わる傍ら、採用にも携わって活躍されています。

昔から周りの人を笑わせるのが好きだったと話す前さんですが、入社してすぐにコミュニケーションの難しさを知ったそうです。競合が多く存在する業界で、どのような苦労があって、そしてそれをどのように乗り越えてコミュニケーション能力を高めていったのかをおうががいします。

今回のコミュニケーション上達のポイント

  • 相手を観察し、TPOを意識して話す
  • 沈黙の”間”を楽しむ
  • 分からないことは分からないと伝える

お話を伺った方

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前夏葵さん

2017年に新卒としてデジタルマーケティングのコンサルティングを行うPLAN-Bに入社。営業として新規、既存のお客様と広く関わる傍ら、採用にも携わっている。トップセールスとして活躍している。

印象的な薬剤師のエピソード

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小原

お父さんが薬剤師であるとお伺いしましたが、まずは薬剤師の印象を教えてください

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調剤薬局やドラッグストアの窓口にいる人というイメージですが、一つ印象的なエピソードがありました。私がドラッグストアに行った際、隣で会計をしていた人が熱を下げる薬を買おうとしていました。薬剤師さんが、レジに持ってきた商品を見ながら「どのような症状に飲まれますか?いつも飲んでいますか?」など細かく尋ねていたのが聞こえて来ました。カウンセリングのようなこともするのだなと思いました

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小原

そうですね、ただ聞かれたことに答えるのではなく、その人にとって何が良いのかを考えて提案することが増えています

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私は薬剤師さんの名前を覚えたことがなかったですが、そのような対応をしてもらったりすると、印象に残りますし、またそのお店に行きたいと思いますね

新入社員時代、営業がうまくいかなった時に気づいた3つのこと

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小原

”営業”は薬剤師にとって、あまり馴染みがない業務ですが、前さんは営業をしたいと思って今の会社に入られたのですか?

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いえ、入社してから営業担当になると言われました。この会社が好きで入社したので、どの業務でも良かったです

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小原

現在は、具体的にどのような業務をされているのですか?

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弊社は、Webコンテンツやホームページを作ったり、SNSなどを使って会社の事業や商品をPRしたりすることが仕事なので、そのサービスを利用してくれるお客さま見つける営業をします。また、私たちのサービスは買ってもらって終わりではなく、ずっとフォローして改善していく必要があるので、既存のお客さまのところに行くことも多いですね

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小原

前さんとお話をさせてもらっていると、とても話しやすいという印象があるのですが、最初から営業はうまくいったのですか?

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いえ、全然うまくいきませんでした。昔から自分の周りにいる人を笑顔にさせたいという思いが強かったので、営業の場でも積極的にコミュニケーションを取ったのですが、新入社員の時はうまくいかなくて、営業に向かないのかなとも思っていました。

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小原

どのようにして、うまくいかなかったことを乗り越えたのですか?

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まず、「自分と人は違うこと」に気付きました。どんどん話をされると嫌な思いをする人もいるので相手をよく観察して、TPOを意識しながら話すようになりました。次に「間を楽しむこと」を意識しました。私はとてもおしゃべりなので、相手との間が楽しめていませんでした。質問をして回答が返ってこなかったらすぐにまた話し始めていたのですが、お客さんが考えて整理する時間が必要であることに気付き、間を作って相手が話し始めるのを待つ事を意識しました。最後に「嘘をつかないこと」です。初めの頃は「やれます、できます」と言ったのに、結果としてできないことが多く、相手に迷惑をかけていました。分からない場合は分からないと正直に言って、後日また連絡するなどを意識しました。

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小原

どれも私たち薬剤師にとっても役立つ内容です。コミュニケーションに苦手意識があると、同じことをしてしまうように思います

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この3つの点の全てに共通するのが、「コミュニケーションには相手がいる」ということです。相手を意識して会話をすることが、とても基本的なことなのですが大事だと思いました

前さんの仰る3つの点は、薬剤師にとっても非常に重要な点です。”個別性”というキーワードを第5回の記事でご紹介しましたが、コミュニケーションにおいては相手がどのように思うかを考える必要があります。そして、患者さんには考える時間が必要な場合もあるので、沈黙などの”間”が大事です。私は、患者さんが少し考えたり時間が欲しそうな時は”わざと視線を外す”こともあります。そうすると、急かされているような雰囲気にならないので効果的です。最後の嘘をつかないことについては、医療においても「わかっていること」と「わかっていないこと」をしっかり区別してお話することは大切です。事実として明らかなことは数字などを使いながら説明し、わからないことについてはあやふやにせずに「わからない」と伝えるのが良いです。

参考:第5回「心理学の専門家に聞く「薬剤師向け接客術」」

お客さまのことをお客さま以上に考える

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小原

これら3つの点には、どのようにして気づいたのですか?

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たくさんお客さんから怒られて私は営業に向いていないと思った時に、上司が丁寧に色々教えてくれたことが大きかったです。私が営業でモットーとしている「お客さまのことをお客さま以上に考える」ということも、上司から教えてもらいました。私は相手のことを考えているつもりでしたが、考えが足りていませんでした

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小原

それは私たちにも通じますね。患者さんのことを患者さんやそのご家族よりも考えるというのは重要です

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はい。薬剤師さんと私たちは少し違うかもしれませんが、自分勝手な考え方をしないように、そしてどのようなことをすれば喜んでもらえるかを意識するというのはコミュニケーションのどの場面でも重要になると思います

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小原

たくさん失敗されたと話されましたが、自分だけでは気づくことが難しかったですか?

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そうですね、一人では難しかったと思います。上司が細かく言ってくれたのが良かったです。今は上司からもらったものを後輩にしっかりと渡していかないといけないと思っています

コミュニケーションの向上に寄り添ってくれる人を探す

インタビュー中は笑顔が印象的で、時折冗談を言ったりして場を和ませてくれた前さんですが、最初は営業がうまくいかなかったというエピソードが印象に残りました。私も薬剤師になる前からコミュニケーションには自信がありましたが、実際に患者さんと話をした場合や、医師や看護師などの医療者と話をした場合に、うまくいかなかったと思う経験はたくさんあります。

それでも色々なことを乗り越えて今があるということは、コミュニケーションの上達にとって重要な点です。コミュニケーションに苦手意識があると、口数が少なくなったり、情報量が減ってしまうことがあるかもしれません。しかし、実際に会話で色々と試すことによって自信につながったり、会話の仕方も身についていきます。

前さんが上司の方から色々と教わったように、周りにうまくコミュニケーションをとる先輩や同僚がいればアドバイスをもらうように頼んでみてください。例えば、普段の業務で患者さんと話をしている場面を見てもらい、改善する点を議論して次に活かすことが良いでしょう。何度もそれを繰り返すことで、その状況に適した受け答えができるようになります。そうすると、コミュニケーションに余裕が生まれて、これまで気づかなかった患者さんの様子に気付いたり、さらに踏み込んだ介入ができるようになるはずです。

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小原 一将
こはら かずまさ

薬剤師/株式会社sing代表取締役
2009年京都薬科大学を卒業後、様々な保険薬局で勤務。薬剤師の価値をもっと社会に届けたいと考え、2019年12月に株式会社singを設立。「頼れる薬剤師が身近にある社会をつくる」をビジョンとして、薬剤師の教育や新しい働き方の支援を行っている。
Apple製品好きであり、薬剤師の業務や医療の発展に活用できないか日々考えている。

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