「なんとなく疲れが取れない」に効果を発揮する~補中益気湯~
薬剤師が知っておきたい漢方製剤、前回は「小青竜湯」について説明しましたが、シリーズ第6回は補中益気湯です。副作用も少ない薬であることから、とても使いやすい本剤を解説します。
参考資料
日薬理誌 132. 276-279
「中医学基礎理論」東洋医学研究会、神戸中医学院
「体質改善のための薬膳」日本国際薬膳師会 著 辰巳 洋 監修 緑書房
「漢方294処方 生薬解説 その基礎から応用まで」根本幸夫 監修 じほう
気の不足からくる慢性的な体調不良に「補中益気湯」
日々の生活の中で、なんとなく疲れが取れない、手足がだるいなどという症状を抱える人は少なくないと思います。そういった諸症状に効果を発揮するのが「補中益気湯」です。
補中益気湯」の効能効果は「消化機能が衰え、四肢倦怠感がいちじるしい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症」になります。
これらは気の不足からくる慢性的な体調不良の症状です。具体的には、顔色が白っぽかったり、無気力で、疲れやすく、めまいなどを患っている人。風邪をひきやすく、声も小さく、腹部膨満感やむくみがあったり、頻尿や尿漏れといった症状を持っている人。また、女性の場合生理の周期が早まったり、経血量が多いが色が薄く、生理痛があるなどの諸症状を持つ人に有効とされています。
気を補い、高め、流れをよくする補気薬の代表
では、「補中益気湯」はどのようにしてその効果を発揮するのでしょうか。中医学的な観点からみると、「補中益気湯」は中(脾、胃)を補って気を益す作用を持ちます。つまり、消化吸収機能が低下した状態を改善し、元気にする効果があります。
「補中益気湯」の成分は「黄耆(おうぎ)」「蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)」「人参(にんじん)」、「当帰(とうき)」、「柴胡(さいこ)」、「大棗(たいそう)」、「陳皮(ちんぴ)」「甘草(かんぞう)」、「升麻(しょうま)」「生姜(しょうきょう)」の10種類です。補気薬に分類され、よく使用されている「人参」、「黄耆」が入る「補中益気湯」は気を補う漢方薬の代表といわれています。またほかに含まれる「甘草」「大棗」も補気薬であることから、気虚の程度が強い全身性の気虚の患者さんに使用する薬であるといえるでしょう。
この補気薬とは、気を産生する脾・胃を強めて気を補うとともに体全体の強壮をはかる薬のことをいいます。中でも「人参」は内臓の気を補い、「黄耆」は肌表の気を補うとされ、この2つの成分が、体全体の気を内外から補います。
ほかにも化湿薬に分類される「蒼朮(白朮)」は水分の循環をよくし、体内の湿を取り除き、気の流れを補います。辛涼解表薬の「柴胡」(清熱薬に分類されることもある)と「升麻」は炎症を鎮めることで補った気をさらに高めるように働きます。 また「陳皮」「生姜」「大棗」には脾・胃の働きをよくする働きを持っており、消化機能を調え、気を補う力を助けます。そのうちの理気薬に分類される「陳皮」は補気薬によって多く補われた気を流す働きを担っています。
さらに、補血薬である「当帰」が入ることで、血を補い、血を活かし、気をめぐらせる効果も期待できます。
作用機序でみる、「補中益気湯」の免疫機能改善
西洋医学的な観点からみると、「補中益気湯」に含まれる「人参」「黄耆」「蒼朮」「茯苓」「甘草」などの補気・健脾薬はマクロファージなどを活性化する働きを持ちます。これ…