RAS阻害薬を女性に投与する際の服薬指導は?
参考記事
RA系阻害薬に注意事項を追記 厚生労働省、「妊娠する可能性のある女性」で
厚生労働省は5月9日、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)含有製剤、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤(ARNI)、直接的レニン阻害剤(DRI)のレニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬の使用上の注意に対し、「生殖能を有する者」の項を新設し、妊娠する可能性のある女性に対する投与に注意を求める改訂指示を出した。これまでも同様の注意を求めていたが、症例の報告が継続していることなどを受けた措置で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が改訂情報を伝えた。
いわゆるRAS(Renin-Angiotensin System:レニンアンジオテンシン系)阻害薬を対象とした添付文書改訂指示です。妊婦や妊娠している可能性のある女性について禁忌なのはこれまでと同様です。今回の改訂のポイントは、妊婦や妊娠している可能性のある女性だけでなく、妊娠「する」可能性のある女性を対象とする注意喚起が加わったことです。
1.RAS阻害薬とは?
今回、改訂指示の対象となったのは、①アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE-I:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitor)、②アンジオテンシンII受容体拮抗剤(ARB:Angiotensin II Receptor Blocker)含有製剤、③直接的レニン阻害剤(DRI:Direct Renin Inhibitor)、④アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤(ARNI:Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor)です。
有効成分と合わせて代表的な製品名をまとめます。
①ACE-I | アラセプリル(セタプリル)、イミダプリル塩酸塩(タナトリル)、エナラプリルマレイン酸塩 (レニベース)、カプトプリル(カプトリル)、テモカプリル塩酸塩(エースコール)、デラプリル塩酸塩 (アデカット)、トランドラプリル(オドリック)、ベナゼプリル塩酸塩(チバセン)、 ペリンドプリルエルブミン(コバシル)、リシノプリル水和物(ゼストリル、ロンゲス) |
②ARB | アジルサルタン(アジルバ)、アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩(ザクラス、ジルムロ) イルベサルタン(アバプロ、イルベタン)、イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩、 (アイミクス、イルアミクスイルベサルタン・トリクロルメチアジド(イルトラ) オルメサルタンメドキソミル(オルメテック)、オルメサルタンメドキソミル・アゼルニジピン (レザルタス) カンデサルタンシレキセチル(ブロプレス)、カンデサルタンシレキセチル・アムロジピンベシル酸塩 (ユニシア、カムシア)、カンデサルタンシレキセチル・ヒドロクロロチアジド(エカード、カデチア) テルミサルタン(ミカルディス)、テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩(ミカムロ、テラムロ)、 テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド(ミカトリオ)、 テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(ミコンビ、テルチア) バルサルタン(ディオバン)、バルサルタン・アムロジピンベシル酸塩(エックスフォージ、 アムバロ)、バルサルタン・シルニジピン(アテディオ)、バルサルタン・ヒドロクロロチアジド (コディオ、バルヒディオ) ロサルタンカリウム(ニューロタン)、ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(プレミネント、 ロサルヒド) |
③DRI | アリスキレンフマル酸塩(ラジレス) |
④ARNI | サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(エンレスト) |
2.添付文書改訂の内容
RAS阻害薬は、「妊婦や妊娠している可能性のある女性」については禁忌とされ、特定の背景を有する患者に関する注意の妊婦の項には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。」と記載されています。
これは、妊娠中期以降にACE阻害剤又はARBを投与された患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の奇形、肺の発育不全等があらわれたとの報告があることが理由です。
これらを踏まえて、2014年9月には「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」No.10が発出されましたが、それ以降も妊娠中にRAS阻害薬を使用し、胎児・新生児への影響が疑われる症例が報告されています。
PMDAからの医薬品適正使用のお願い No.10 2023年5月より
そこで、今回の改訂指示により、「妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無等も考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」という記載が加えられました。